表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
転生した俺は神の監査官だった——神託に逆らい、神罰カウント九二%の街を救う  作者: 蒼月よる


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

5/6

灰枝の依頼票

第5話 灰枝の依頼票


 灰枝の朝は、紙の匂いがした。


 ギルド支部の掲示板が、依頼票で埋まっている。討伐、採取、護衛。その間に、見慣れない文言が混じっていた。遺跡解体補助。旧式暖機搬出。地下回路調査立会。


「多すぎるな」


 俺が呟くと、受付のナタリアが肩をすくめた。


「先月の三倍。冬前だから、って説明は聞いたけど……それだけじゃない気がする」


 セラは掲示板の下段を指でなぞる。

「同じ発注者名が並んでる。カディル領管理局」


 追ってきたフィンが、俺たちの後ろで立ち止まった。

「その案件だ。監察照会はそこへ繋がっている」


 俺は票を三枚抜いた。どれも生活設備寄りだ。暖房、浄水、保温。露骨な兵器開発ではない。


「これなら住民支援に見える」


「見える、で止まるな」


 フィンの声は低い。

「生活改善は否定しない。問題は接続規模だ」


 俺たちは調査票を持って、北区画の仮設集落へ向かった。灰枝の外れに板壁の小屋が並ぶ。子どもの咳。薄い湯気。水桶の底に白い沈殿が溜まっていた。


 小屋の女主人が両手を擦り合わせる。

「夜、冷えるんです。暖房石が一つでも増えたら、年寄りが助かる」


 井戸番の男は濁った桶を持ち上げた。

「浄水器が足りない。煮れば飲めるけど、薪が足りん」


 どの言葉も切実で、正しい。

 神罰だの監査だのを挟む余地がないくらい、目の前の困窮は具体的だった。


 視界にログが浮く。


 `CIV-RISK 58% -> 63%`

 `原因: 遺物接続点 増加`


 俺は舌打ちを堪える。現場の必要と、ログの危険判定が噛み合わない。


「上がった?」


 セラが小声で聞き、俺は頷いた。


「理由は」


「接続点の増加」


 セラは小屋の梁を見上げる。

「ここ単体なら、ただの暖房補助。接続しなければ危険は跳ねないはず」


 その言い方は、反論じゃなく検証だった。

 改善=逸脱、の一色で塗り潰さない線引き。


 昼、管理局詰所でカディルと会った。三十代半ば。整った外套に泥がついている。机上には設計図と患者名簿が積まれていた。


「来てくれて助かる。監察局経由だろう。話は聞いてる」


 握手の手は硬い。現場に出る実務家の手だ。

 右手の小指は先端が欠けていた。凍傷の古傷に見える。


「先に言う。私は神への反逆がしたいわけじゃない。凍死者を減らしたいだけだ」


 カディルは名簿を一枚ずつ叩いた。

「去年、北区画で老人が十一人死んだ。原因は冷えと水。これを今年も繰り返すなら、私の役職に意味はない」


 フィンが口を挟む。

「目的は理解する。だが接続計画の全体像が不透明だ」


「不透明じゃない。これだ」


 カディルは一瞬だけ躊躇ってから、机上の大判を広げる。灰枝全域の図面。井戸、暖房石、導水路。線が線を呼び、区画をまたいで繋がっている。


 俺は紙に身を乗り出した。点の配置は生活設備なのに、線の引き方が違う。局所改善ではない。都市回路の骨格だ。


 視界ログが跳ね上がる。


 `CIV-RISK 63% -> 71%`

 `要因: 全域接続パターン検出`


 喉の奥が冷えた。


「これ、誰が引いた」


「技術班だ。古い遺跡図面を応用した。効率がいい」


「効率が良すぎる」


 俺の声が硬くなり、カディルが眉を寄せた。

「何が言いたい」


「点で使うなら生活改善だ。線で繋げば、別物になる」


 セラが一歩前に出た。

「分離運用は可能です。区画ごとに出力を制限して、相互接続を物理的に断てば、必要な暖房と浄水は維持できます」


 カディルが腕を組む。

「それだと効率が落ちる」


「効率で人は生きません」


 セラの声は静かだった。

「冬を越えるための設備なら、冬を越える単位で十分です」


 沈黙。カディルは設計図を見下ろし、指で接続線を叩いた。


「……段階導入なら、検討する。だが全面停止は無理だ」


 全面停止。全面接続。どちらも極端だ。

 その間をどう作るかが、次の問題になる。


 帰り道、俺は図面の写しを袋へ押し込んだ。

 線の重なりが頭から離れない。


 ギルド支部へ戻ると、日が傾いていた。掲示板の前で、セラが低く言う。

「決めよう。私たちがどこまで介入するか」


 俺は頷く。

「まず、全域接続の痕跡を洗う。点運用に落とせるか確認する」


 視界にログが出る。


 `AUDIT FLAG: NETWORK TRACE`

 `PRIORITY: HIGH`


 命令文は冷たい。

 だが今日は、あの冷たさだけに従う気にはなれなかった。


 フィンの使いが走ってきて、短い伝言だけ置いていく。

「監察騎士殿より。暫定運用案を明朝までに」


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ