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転生した俺は神の監査官だった——神託に逆らい、神罰カウント九二%の街を救う  作者: 蒼月よる


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監察騎士フィン

第4話 監察騎士フィン


 口頭報告は、村の集会所で行われた。


 長机の向こうにフィン、横に村長、後ろに書記役の神官見習いがいる。形式だけ見れば裁判に近い。違うのは、罪状がまだ書かれていないことだ。


「リク・ハーディン。無詠唱行使時の状況を、時系列で」


 フィンの声は平坦だった。責める温度も、庇う温度もない。


 俺は戦闘の流れを説明した。狼三、蛇二。子どもの転倒、詠唱省略、鎮圧。そこで一度、言葉が止まる。


「続けろ」


「……空白がありました。十数秒。気づいたら、セラを掴んでた」


 フィンの視線がセラへ移る。セラは記録帳を開き、ページを押さえた。


「空白は十四呼吸。発話異常、瞳孔反応遅延、発汗過多。記録済みです」


 神官見習いの羽根ペンが走る。紙に擦れる音だけが続いた。


 フィンは短く問う。

「記録は改竄していないな」


「してません」


「理由は」


「残すべきだからです。本人にも、組織にも」


 セラはまっすぐ答えた。俺は横で黙るしかない。


 報告が終わると、フィンは書面を閉じた。


「照会結果を告げる。処罰は現時点で保留。代わりに監視付き行動許可へ移行する」


「監視付きって、具体的に?」


「制約は三つ」


 フィンは指を一本ずつ立てた。


「一つ。無許可で遺跡へ入るな。

 二つ。高密度域で無詠唱を連発するな。

 三つ。行使後に記憶異常が出た場合、即時申告しろ」


 集会所の空気がひやりとする。村長が咳払いを一つ挟んだ。


「それは……ほぼ監禁では」


 村長の抗議に、フィンは首を振る。

「違う。これは保護だ」


「誰の?」


「本人と、周囲の」


 答えが早すぎて、反論を飲み込む。フィンは続けた。


「隔離判断はまだ出していない。出す必要がないよう運用する。そのための制約だ」


 保護。隔離。似た言葉が、まるで別の刃の角度で並ぶ。


 セラが口を開いた。

「『隔離判断』が出る基準は?」


 フィンは一瞬だけ沈黙した。

「同期欠損が不可逆域に入ったとき」


「不可逆域って、どの程度」


「説明すべき範囲を超える」


 線を引かれた。セラが眉を寄せる。俺は先に聞いた。


「前例があるのか」


 フィンは視線を机へ落とし、短く頷いた。

「ある。名前は言えない」


 それだけで十分だった。俺の喉の奥に、昨夜の `SYNC WARNING` が蘇る。


 手続きが終わるころ、神官見習いが新しい照会束を抱えて入ってきた。村長へ渡しかけた書類を、フィンが途中で受け取る。封を切って目を走らせ、初めてわずかに眉を動かした。


「……急だな」


「何があった」


 俺の問いに、フィンは紙束の一枚を机に置いた。


 灰枝支部からの依頼票写し。遺跡解体、遺物搬出、地下回路調査。三日分で二十件を超えている。


「遺跡案件が急増している。単発ではない。流れだ」


 村長が低く唸る。

「冬前だから、暖房用に古い部材を拾ってるだけでは」


「その規模を超えている」


 フィンは俺を見る。

「リク。お前の監視付き許可は、今日から適用する」


「つまり」


「灰枝へ行け。現場を見ろ。お前の目が必要だ」


 命令なのか、依頼なのか、境界が曖昧な口調だった。


 集会所を出ると、昼の風が冷たかった。セラが隣で記録帳を閉じる。


「行く?」


「行くしかないだろ」


「じゃあ条件。私も行く。記録は継続。異常が出たら引き返す」


 即答だった。俺は苦笑して頷く。

「はい、薬師殿」


「軽口でごまかすな」


 叱る声はいつもどおりだ。わずかに、肩の力が抜ける。


 夕方、門柵の外で荷をまとめる。見張り台の影が長く伸びるころ、視界にウィンドウが開いた。


 `TASK UPDATE`

 `AREA: HAEEDA`

 `PRIORITY: HIGH`


 命令文の温度は、相変わらず低い。

 なのに、その先にいる人間の体温だけが、やけにはっきり想像できた。



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