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転生した俺は神の監査官だった——神託に逆らい、神罰カウント九二%の街を救う  作者: 蒼月よる


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神託ウィンドウ

第2話 神託ウィンドウ


 監察騎士フィンは、朝の訓練場に立っていた。


 白い外套のまま、剣にも杖にも手をかけない。見ているだけで圧がある。村の若手が円を作って、俺のほうをちらちら見ては小声で笑う。


「無詠唱って本当かよ」

「昨日、根蛇追い払ったって」

「照会まで来るとか、やらかしすぎだろ」


 やらかした覚えはない。助けるために撃っただけだ。


 フィンが短く告げる。

「照会は処罰ではない。確認だ。リク・ハーディン、通常詠唱と短縮詠唱、両方を実演しろ」


 村長が息を呑む音がした。俺は頷いて、的板の前に立つ。距離は二十歩。風は弱い。


 その瞬間、視界に例のウィンドウが開いた。


 `SYNC_RATE 71%`

 `CHANT_MODEL B-2 推奨`

 `TARGET: BOARD-01`


 昨日より表示がはっきりしている。深呼吸して、口の中で音を組む。


「——熱よ、束ねろ」


 火線が一本、真っ直ぐ走る。的の中央に小さな焦げ跡が残り、ざわめきが一段上がった。続けて短縮詠唱を重ねる。角度補正と出力抑制。頭の中に最短手順が滑り込んでくる。


「——散れ」


 今度は的板の右端だけを焼いた。狙い通りだ。練習より、明らかに精度が高い。

 円の外で、若手が息を呑む。


「今の、見たか」

「同じ歳であれは反則だろ」

「……リク先輩、って呼んだほうがいいかもな」


 王道の転生チートって、こういう感じかもしれない。

 かすかに笑いそうになったところで、ウィンドウの一行が書き換わった。


 `TARGET: HUMAN / AUDIT_CANDIDATE`


 人間監査候補。


 俺は瞬きをした。次の瞬間には表示が消えて、何事もなかったように青空だけが残る。


「どうした」


 フィンの声に、俺は首を振った。

「なんでもない」


 実演は合格だったらしい。フィンは村長に向き直る。

「行使精度は高い。だが監視対象でもある。独断での高出力行使は控えさせろ」

「保護判断は継続中だ。隔離判断は、まだ出していない」


 監視対象。祝福、ではないのか。


 午前の訓練を終えて、俺とセラは縁層へ採取に出た。セラは昨日の記録帳を抱えて、歩きながらページをめくっている。


「脈拍、回復が早すぎる。体質の問題か、別の要因か、まだわからない」


「別の要因って?」


「だから、わからないって言ってる」


 セラは顔を上げないまま言った。

「わかるまで、手順は守る」


 森に入って間もなく、ウィンドウがまた出た。


 `ROUTE OPTIMIZE`

 `採取効率 +32%`

 `推奨経路: 北斜面ショートカット`


 北斜面は最短だ。俺は条件反射でそっちへ足を向ける。


「待って」


 セラが袖を掴んだ。いつになく強い力だった。


「今朝の湿度で、北斜面は胞子が溜まる。風向きも悪い。行くなら昼すぎ」


「でも最短だ」


「最短は安全じゃない」


 言い終わる前に、斜面の上で白い煙のようなものが噴いた。胞子だ。風が谷へ落ちる。あっちへ踏み込んでいたら、まともに吸っていた。


 俺は足を止めた。ウィンドウは平然と残っている。


 `ROUTE RECOMMENDATION ACTIVE`


「……お前、これ見えてないよな」


 セラが眉をひそめる。

「何が」


「最短経路って表示される。たまに、やたら正確で、たまに危ない」


 セラはしばらく黙っていたが、記録帳を閉じた。

「便利なら使う。でも、命を預けるな。道具は道具」


 その言い方に、わずかに救われる。全部否定されるより、ずっといい。


 帰り道、村の門前でフィンとすれ違った。白外套の裾に泥一つついていない。俺を見て、短く言う。


「お前は強い。だが強さは免罪符にならない」


「俺は何をした」


「まだ何もしていない。だから今、照会している」


 夜。寝床に入っても、目が冴えていた。天井の梁を見上げていると、視界に静かに文字が浮く。


 `NEW TASK`

 `対象遺跡接近を監査せよ`


 祝福のメッセージにしては、あまりにも命令文だった。


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