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先謝っときます。

誤字脱字すみません。




『生きて』


金色の髪と瞳を持つ村人達が、燃え盛る炎の中で今まさに殺される寸前だというのに優しく微笑んでいた。


『生きろ』


騎士と名乗っていた白銀の男が、暴れ回る『実験体』達から俺らを庇った。


舞い散る血飛沫。肉片。


でも彼等は悲鳴ひとつ上げずただ生きろと、生き延びろと俺を、俺達をひたすら庇う。


なぁ、なんでだよ。


物語(フィクション)ならどうにかなるだろ。助っ人が来たり、それか自分の力でどうにかなるんじゃないのか。


「置いていかないで」


無意識に溢れ出た言葉に、思わず口を手で塞ぎ。俺は『あの時』のようにただただその様子を見ることしか出来なかった。


…あぁ、分かってるさ。


ここが物語(フィクション)なんかじゃないってことは。これはもう『終わった』事で取り返しがつかないってことも。


『ごめんね。そんなつもりじゃなかったんだ…──』


ぶわりと強い風が吹き荒れ、俺の周りを囲んでいた炎を巻き上げた。残ったのは燃えカスと目の前に立つ『彼』だけだ。


「違う。俺はあんた達を誇りに思ってる。あんたに最後に貰ったもんも、俺は手放すつもりはない」


これは俺の『夢』でしかない。


「ごめんなさい」


もう二度と届かぬ言葉。その言葉を口にした時、彼は悲し気に顔を歪ませる。


何か言おうと口を開き、手を伸ばしてきているが…もう時間だ。


ガラスの割れるような音をたてながら崩れ始めた空間に、あの日からこれで何度目か分からない別れの言葉と共に目を閉じる。


出来ることならもっと長く彼等といたい。こんな血濡れた場所でなく、あの輝かしい日々の頃の村で。会話なんてなくてもいい。ただ笑い合ってる彼等を、遠目でいいから見ていたい。


目を閉じた事で訪れた闇の中、ふと思う。


これだけ残酷な夢を見続けているのだ。ひょっとしたら、今目を開けば今度こそ幸せな夢の続きが見れるかもしれない。


そもそも、俺が現実と思っているものが夢かもしれない。


夢を見たからこそ胸の内から溢れる甘ったれた願望。分かりきった答えから無理やり目を逸らし、俺は期待を胸に目を開く。


しかし現実は無情。


そこには、いつもの見慣れた天井。あの村で住んでいた家とは違う材質の天井しかない。


「…クソったれが」


昔ほど見ることはなくなった。それでもたまに見る夢。


彼等に夢の中で会えるのは嬉しいが、場所も、場面も、全てが悪すぎる。それでいて夢の中の自分は、あの頃の無力な自分を思い出すので反吐が出そうになるくらい嫌いだ。大嫌いだ。


『ナナシ』は苛立たし気に起き上がり、その勢いのまま窓に手をかけ乱雑に開けた。


バタンと壊れそうな勢いで開かれた窓からは、ナナシの気分とは真逆のご機嫌な太陽が顔を覗かせる。


この世界に『転生』して何度見たか分からない空。地球とは違う、巨大な星が昼間でも見える異世界の空は今日も快晴だ。






「どうしたんスか隊長。今日はご機嫌ナナメ?」


「あ゛?寝つきが悪かったんだよ」


ナナシが転生してからというもの、運命というものに翻弄され続け。最終的にサラーム王国の英雄エイダンが個人的に持つことを許された武力『零番隊(ぜろばんたい)』の隊長という座に落ち着いていた。


ご機嫌斜めなナナシに声を掛けるこの好青年も部下だったりする。


名をアラケル。この隊が作られた際に1番最初に所属した部下である。


彼はフェンリルの先祖返りという特殊な生まれの人間で、力に溺れそこを利用されていた頃にナナシが力でねじ伏せ調教した。今では従順な犬のようなポジションに落ち着いているが、何事にも真っ直ぐなので気になった事があればワンクッションも置かずに突っ込んで来る。


そう、今のように。


アラケルは「ひぇっ隊長こぇえ?!」と言いつつも、クンクンとナナシに鼻を近づけ匂いを嗅いでいる。こうすることで相手の感情が分かるらしい。フェンリルの先祖返りという特殊な体質のせいなのか、それとも家系によるものなのかは定かではないが…自分のペットにされるならまだしも、部下とはいえ人からされるのに慣れたくはない。


だからといってその体質を利用し獣の姿を取らせれば、狼とは名ばかりのハスキーと化する。


この隊が出来て間もない頃、獣化が上手くできないからと言うので練習で1日獣化をさせてみた事があるのだが…城のマスコットになりかける程度には、地球の愛すべきおバカなハスキーだった。


中身が人とは露知らず、このハスキー(アラケル)を気に入った王が飼うと言い始めた時は本当に焦ったものだ。


王が飼うには気品が足りないだとかやんちゃな事を伝えたが、何を言っても何故か喜ぶハスキー(アラケル)に益々王は気に入り手綱をはなそうとしない。なんなら血も涙もないと言われる宰相までもが無垢な眼で見つめるハスキー(アラケル)を「あ、可愛い」と言いはじめ。普段は王と喧嘩ばかりしているというのに、この時だけはタッグを組んだ。


後ろからはハスキー(アラケル)の兄弟達から射抜くような視線を向けられ。その場にいた英雄エイダンが率いる第一騎士団の騎士達は、死んだ魚のような目を空に向け身体を震わせているというまさに混沌(カオス)な空間が出来上がってしまった。


適当に理由を作ってなんとかあの場を乗り切ったものの、当然それを知ったエイダンにはがっつり叱られてしまうわけで。まぁ、確かに少しばかし玩具で遊んだりもしたが…元々アラケルの獣化の練習に付き合っていただけなので、ナナシに非は無いはずだ。


どちらかといえば自分が人だということを忘れ、獣としてはしゃいだアラケルが悪い。寧ろあのまま王のペットとして引き取られないように止めていたナナシは褒められるべきだろう。


「今日も外回り?」


「そうだ」


しょうもない記憶を思い出したお陰か、今朝の苛立ちは消え失せ虚しさだけが残る。あれ?今度はしょげた??とアラケルは首を傾げ不思議がるが、主にお前のせいだお前の。


「俺はこのままギルドに行く。アラケル、学園の試験があるんだろ。ちゃんと魔法も筆記も練習しろよ」


「えぇ〜」


ナナシ達の所属する『零番隊』は表面上英雄が自由に動かせる武力として集められているが、実際はこの国に亡命してきたナナシとこの場にいないもう1人の隊員を保護する為につくられた隊である。


出来た当時は他に反感を買わぬようとにかく数と戦力だけでも揃えなければならず、時には任務で時には王の小言からアラケルのような存在を半ば無理やり連れてきているので隊員達の年齢も種族もバラバラだ。


なかには成人のラインを越しているがまだ学生の域を出ない者もおり、その1人がアラケルでもあった。


ナナシが今日の任務の為に城下町の冒険者達が着ているような、少し傷んだ衣服に着替えつつアラケルに釘を刺せば「きっ」という声と共に目を細めナナシに威嚇する。


なんだその顔、チベットスナギツネか。


「体力なら自信がある」


「それ以外がダメだって言われてんだよ。隊長命令だ、あとでルーナかカーティスの所で教えて貰え」


きっと同じ学園に通っている『聖女』から教わったのだろう。様々なマッスルポーズを取るアラケルに、勝手に脳内で再生される陽気な曲をなんとか押しのけ『隊長命令』で念を押す。


この命令のせいで2人の隊員に迷惑をかけることになるが、基本的に研究者気質で自分の研究室に籠りがち&なんだかんだ最終的には面倒を見てくれるタイプなのできっと大丈夫だろう。


「あ。ついでにカーティスの奴どうせまた部屋に籠り続けてるだろうから、飯ついでに風呂にも入らせろ」


「ご飯!隊長の奢りスか?!」


「奢り…まぁそうだな。適当になんか獲ってくるから、いつもの用意しとけ」


「はーい!」


外回りは城下町の様子や他国から流れてきたであろう冒険者の確認、国境で異変がないか見回りなど。緊急性のある任務がない時の零番隊の通常任務である。


今日のナナシは冒険者としてギルドの視察に行くので、その時にアラケルのご飯になりそうな狩猟依頼を受けてしまえばいい。


短剣や大量のアイテムを入れることのできる冒険者必需品のマジックバック、その他にも幾つかの魔導具や武器を身につけ、最後に髪をわざと掻きむしって髪をボサボサにする事で下町に住む好青年風を装う。


後は指先が出るタイプの革手袋をつけ、爪をあえてガタガタに傷を付ければ準備完了だ。これでナナシが城勤めの人間だとは分からないだろう。


ちなみにアラケルは零番隊の隊服である聖女考案の黒い軍服を着ている。世界観に合わなくないか?と思ったそこの君、俺も同じ気持ちだ。


ただ聖女はナナシと同じ地球出身の『転移者』であり、『瘴気』と呼ばれるあらゆる生命を脅かす毒のような物を祓えるこの世界では重宝される存在。騎士達の着る鎧が慣れないというナナシの意見を聞いて、自分の立場を利用してわざわざこの問題に首を突っ込み動きやすい服装に変えてくれたので文句は言えない。


「じゃあまた夜にな」


せっかく完璧な変装をしても城や貴族街から出てくる様子を見られてしまっては全てが水の泡だ。部下であるカーティスの作った認識阻害の魔導具を起動し、そのまま城門に向かう。


しかしアラケルは鼻がいいのでこの魔導具で別人に見えようが姿を消そうが見つける。今も「いってらっしゃ〜い」と本来なら見えないナナシの姿を捉え、窓から大きく手を振っていた。


それはアラケルの兄弟達も同じで、だからこそ城内から白昼堂々と魔導具を付けて出れるのだが…お忍びで抜け出す事のある王族からしたら天敵だ。近々春を祝うお祭りがあるので、毎年恒例の鬼ごっこが始まるに違いない。


その時はまた手伝えと無茶ぶりされるのだろう。


今年はカーティスに匂いも誤魔化せる魔導具の開発を頼んでいるが、アラケルの兄弟そしてあの親はまさしく狼の群れの如く連携をしてくるので安心は出来ない。


最終的に全員が城下町に探しに来るのだから、最初から皆で行ってしまえばいいのに。そう考えてしまうのは、ナナシが異世界の人間だからだろうか。


「ま、今考えても仕方ないな」


なるようになれだ。


ナナシはいつものように城門から貴族街、そして城下町へと降りた。


城門から出る際やはり見張りには音と匂いでバレてしまい、まだまだ技術が足りないなと何故か煽るに煽られた(いやお前らが人外過ぎるんだよ)のでカーティスに魔導具の完成を急いでもらおうと心に決めるのだった。




お読み頂きありがとうございます。

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