力の代償
翌朝。
蒼真は鳥の声で目を覚ました。
祠の中は意外と暖かく、よく眠れた。だが身体中が痛い。昨日の戦闘の疲れが、今になって出てきたようだ。
「おはようございます、蒼真様」
祠の外から、白金の声が聞こえた。
蒼真が外に出ると、白金が何かを料理していた。焚き火の上に鍋がかけられ、いい匂いが漂っている。
「これは……」
「山菜のスープです。森で採ってきました」
白金は器にスープを注いで、蒼真に差し出した。
「どうぞ」
「ありがとう」
蒼真はスープを一口飲んだ。優しい味が、疲れた身体に染み渡る。
「美味いな」
「お口に合ってよかったです」
白金も自分の分を注ぎ、蒼真の隣に座った。
「昨夜はよく眠れましたか?」
「ああ。お前は?」
「私は霊体ですから、睡眠は必要ないんです」
「そうなのか」
「でも、たまに眠ることもありますよ。夢を見るのは楽しいですから」
白金は微笑んだ。
二人はしばらく黙って、スープを飲んだ。
森の朝は静かで、心地よい。木漏れ日が地面を照らし、小鳥たちが囀っている。
「なあ、白金」
「はい?」
「お前は、どれくらい俺を待っていたんだ?」
白金は少し考えてから答えた。
「正確には分かりませんが……百年以上は経っていると思います」
「百年……!」
「稲荷明神様から『神殺しの継承者を待て』と命じられ、ずっとこの森で待っていました」
白金は空を見上げた。
「長かったですが、退屈ではありませんでした。森の動物たちと遊んだり、木々の成長を見守ったり」
「それでも……百年は長いだろう」
「ええ。でも、あなたに会えたから」
白金は蒼真を見て微笑んだ。
「待った甲斐がありました」
蒼真は何も言えなかった。
自分のために、百年も待っていてくれた存在。その重みを、どう受け止めればいいのか。
「さて」
白金は立ち上がった。
「スープも飲み終えたことですし、訓練を始めましょうか」
「もう始めるのか?」
「早いほうがいいです。あなたの力は不安定ですから」
白金は祠から少し離れた、開けた場所に移動した。
「まず、基本から。あなたの霊力を感じてください」
「感じる……?」
「目を閉じて、自分の内側に意識を向けるんです」
蒼真は言われた通りにする。
目を閉じ、深呼吸をして、自分の内側に意識を集中させる。
「……何も感じないぞ」
「焦らないで。ゆっくりと」
白金の声が優しく響く。
「あなたの身体の中には、大きな力が眠っています。それを探してください」
蒼真は集中を続けた。
すると――
「……あった」
身体の中心、丹田のあたりに、何か熱いものを感じた。
「それです! それがあなたの霊力の源」
「これが……」
蒼真は驚いた。
確かに、何かがある。まるでマグマのような、熱く、激しい力。
「今度は、それを身体中に巡らせてください」
「巡らせる?」
「イメージです。その力が、血管を通って全身に流れていくイメージを」
蒼真は試してみた。
丹田の熱を、少しずつ身体中に広げていく。
すると――
「うわっ!」
蒼真の身体から、黄金の光が噴き出した。
「やりすぎです! もっと少しずつ!」
白金が慌てて叫ぶ。
蒼真は慌てて力を抑えようとするが、うまくいかない。光はどんどん強くなり、周囲の木々が揺れ始めた。
「くそっ、止まらない……!」
「落ち着いて! 深呼吸です!」
白金の声を頼りに、蒼真は必死に呼吸を整える。
すると、徐々に光が収まっていった。
「はぁ……はぁ……」
蒼真は膝をついた。全身から汗が噴き出している。
「大丈夫ですか?」
白金が駆け寄ってきた。
「あ、ああ……何だ今のは……」
「あなたの霊力です」
白金は真剣な顔で言った。
「思った以上に、強大ですね。これは……かなり時間がかかりそうです」
「時間?」
「完全に制御できるようになるまで、少なくとも数ヶ月は」
「数ヶ月……」
蒼真は愕然とした。
「それまで、こんな状態が続くのか?」
「はい。でも、諦めないでください」
白金は蒼真の手を取った。
「私が、必ず導きますから」
蒼真は白金の瞳を見つめた。
そこには強い決意があった。
「……分かった。やろう」
「はい!」
こうして、蒼真の修行の日々が始まった。
だが、その道は想像以上に険しいものだった。
霊力の制御に失敗して、森を焦がしてしまったこと。
暴走した力で、自分自身が傷ついたこと。
何度も何度も、挫けそうになった。
だが、その度に白金が支えてくれた。
「大丈夫。あなたならできます」
その言葉を信じて、蒼真は立ち上がり続けた。
そして――
七日目の夜。
蒼真はついに、霊力を安定して扱えるようになった。
「やった……やったぞ、白金!」
「はい! よく頑張りました!」
白金は嬉しそうに笑った。
だが、その表情には少しの不安も混じっていた。
(これは、まだ序の口……)
白金は心の中で呟いた。
(本当の試練は、これからなのです)
森の奥から、不吉な妖気が漂ってくる。
それは、やがて訪れる大きな戦いの、予兆だった。




