兄弟の絆
社殿から出ると、白金たちが待っていた。
「蒼真様! 大丈夫ですか!?」
「ああ、何とか」
蒼真は疲れた表情で頷いた。
「神器は……」
「奪われた」
蒼真は悔しそうに言った。
「そして、犯人は――」
蒼真は凛太郎を見た。
「俺の父だった」
「お父様……」
朝霧が驚いた。
「ということは、天御柱家の……」
「ああ」
凛太郎が答えた。
「天御柱厳峰。俺たちの父だ」
凛太郎は蒼真を見た。
「兄さん……いや、蒼真」
「なんだ」
「お前が追放されたのは……父上の計画と関係があるのか?」
蒼真は少し考えた。
「分からない。でも……」
蒼真は右手の痣を見た。
「母上が俺の力を封印したのも、父上が俺を追放したのも、全部繋がっている気がする」
「繋がっている……」
凛太郎は拳を握った。
「父上は、一体何を企んでいるんだ……」
その時、青龍神社の陰陽師たちが駆けつけてきた。
「大丈夫か!?」
「神器は!?」
「奪われた」
凛太郎が答えた。
「犯人は逃げた」
陰陽師たちは落胆した。
「そんな……」
「これは、すぐに蓮様に報告しなければ……」
「待ってくれ」
蒼真が陰陽師たちを止めた。
「犯人の正体は、天御柱厳峰だ」
「なんだと!?」
「天御柱家の当主が!?」
陰陽師たちは騒然となった。
「ありえない……あの厳峰様が……」
「でも、事実だ」
凛太郎が言った。
「俺もこの目で見た」
「では、すぐに天御柱家に連絡を……」
「待て」
蒼真が手を上げた。
「今、天御柱家に連絡したら、父上に逃げられる」
「では、どうする?」
「俺たちで追う」
蒼真は決意に満ちた目で言った。
「父上の目的は、『封神の儀式』だ」
「それを止めるには、儀式が行われる場所を突き止めなければならない」
白金が前に出た。
「四つの神器を使う封神の儀式……」
白金は考え込んだ。
「それには、強力な霊脈が必要です」
「霊脈?」
「はい。大地に流れる霊力の道です」
白金は地図を広げた。
「この地域で最も強力な霊脈が流れている場所は……」
白金の指が、地図上のある場所を指した。
「『龍脈の祠』」
「龍脈の祠……」
蒼真は地図を見た。
都の北、山の中にある古い祠だ。
「そこだ」
凛太郎も頷いた。
「父上は、そこで儀式を行うつもりだ」
「では、急ぎましょう」
刹那が立ち上がった。
「のんびりしてる暇はねぇ」
「そうだな」
蒼真は仲間たちを見た。
「行こう。父上を――止めに」
一行は、龍脈の祠へと向かった。
夜の山道は暗く、険しい。
だが、満月の光が道を照らしてくれた。
歩きながら、凛太郎が蒼真に話しかけた。
「なあ、兄さん」
「なんだ」
「追放された後、どうしてた?」
凛太郎の声には、心配が滲んでいた。
「色々あったよ」
蒼真は苦笑した。
「死にかけたこともあったし、助けられたこともあった」
「そうか……」
凛太郎は俯いた。
「俺、兄さんが追放された時、何も言えなかった」
「いや、仕方ない」
「でも……!」
凛太郎の声が震えた。
「俺、本当は兄さんを止めたかった」
「兄さんは無能じゃない。そう言いたかった」
「でも、怖くて……父上に逆らうのが怖くて……」
凛太郎の目から、涙が零れた。
「ごめん……本当にごめん……」
蒼真は立ち止まり、弟の頭を撫でた。
「謝るな」
「でも……」
「お前は悪くない」
蒼真は微笑んだ。
「俺も、お前を恨んでなんかいない」
「兄さん……」
「それに」
蒼真は自分の胸を叩いた。
「追放されなければ、白金にも会えなかった」
「朝霧や刹那とも出会えなかった」
「銀月とも契約できなかった」
蒼真は仲間たちを見た。
「だから、後悔してない」
白金、朝霧、刹那は、皆笑顔で頷いた。
「俺たちも、蒼真様に会えてよかったです」
「はい!」
「おう!」
凛太郎は、その光景を見て微笑んだ。
「兄さん、変わったな」
「そうか?」
「ああ。昔より、強くなった」
凛太郎は拳を握った。
「俺も、もっと強くならなきゃ」
「一緒に強くなろう」
蒼真は凛太郎の肩を叩いた。
「お前は、俺の大切な弟だ」
「兄さん……」
二人は笑い合った。
長い間失われていた、兄弟の絆が戻ってきた。
やがて、一行は龍脈の祠に到着した。
古い石造りの祠が、月光を浴びて佇んでいる。
だが、その周囲には異様な空気が漂っていた。
「妖気が……」
白金が警戒した。
「いえ、妖気というより……神気?」
「神気……?」
蒼真は祠を見上げた。
すると、祠の奥から光が漏れているのが見えた。
「儀式が……始まっている……!」
「急ごう!」
一行は祠に駆け込んだ。
中では、厳峰が四つの神器を配置していた。
東に浄化の玉。
南に炎の羽。
西に水の盾。
北に疾風の羽根。
そして中央に、厳峰が立っていた。
「父上!」
凛太郎が叫んだ。
厳峰は振り返り、息子たちを見た。
「来たか」
厳峰の表情は、冷たかった。
「止めるつもりか?」
「当然だ!」
凛太郎が前に出た。
「父上、なぜこんなことを!」
「お前には分からんだろう」
厳峰は冷たく言った。
「だが、これは世界のためだ」
「世界のため……?」
「そうだ」
厳峰は神器に手を翳した。
「神喰いの脅威から、この世界を救うために」
「神を封じ、人間の手で世界を守る」
「それが、俺の使命だ」
「でも、それは間違ってる!」
蒼真が叫んだ。
「神を封じれば、世界のバランスが崩れる!」
「それが狙いだ」
厳峰は不敵に笑った。
「古い秩序を壊し、新しい世界を作る」
「それが、俺の……いや、『我々』の目的だ」
「我々……?」
蒼真は嫌な予感がした。
「父上、お前一人じゃないのか……?」
「ああ」
厳峰の背後から、複数の人影が現れた。
陰陽師たちだった。
「まさか……」
凛太郎は愕然とした。
「父上だけじゃなく……他にも……」
「神を封じる者たち」
厳峰は仲間たちを紹介した。
「我々は、人間の未来を信じている」
「神に頼らず、自らの力で生きる世界を」
蒼真は拳を握った。
理想は分かる。
だが、方法が間違っている。
「父上、最後にもう一度聞く」
蒼真は短刀を抜いた。
「儀式を止める気はないか?」
厳峰は首を振った。
「ない」
「そうか……」
蒼真は覚悟を決めた。
「なら、力づくでも止める」
「やれるものなら、やってみろ」
厳峰は霊力を練り始めた。
激突は、避けられなかった。
父と子の戦いが、今、始まる。




