新たな仲間
その日の夜。
蒼真たちは、楓の町の宿に戻っていた。
「ふう……」
蒼真は部屋のベッドに倒れ込んだ。
全身が痛い。神鹿の妖気を受けたダメージは、思った以上に深かった。
「蒼真様、薬草茶をどうぞ」
朝霧が湯呑みを差し出した。
「ありがとう」
蒼真は茶を一口飲んだ。ほのかに甘く、身体が温まる。
「美味いな、これ」
「神社で作っているものです」
朝霧は嬉しそうに微笑んだ。
「疲労回復に効きますよ」
「そうか」
蒼真は茶を飲み干した。
確かに、少し楽になった気がする。
「朝霧、本当にいいのか?」
「何がですか?」
「俺たちについてくるって」
蒼真は朝霧を見た。
「神社には、お前を心配する人がいるんじゃないのか?」
「います」
朝霧は少し寂しそうに笑った。
「でも、もう話をつけてきました」
朝霧は懐から、一通の手紙を取り出した。
「神主様に、全部説明しました。私の想いも、これからのことも」
「それで?」
「『行ってこい』って」
朝霧の目に涙が浮かんだ。
「『お前の人生だ。自分で決めろ』って、背中を押してくれました」
「いい神主だな」
「はい。とても」
朝霧は涙を拭った。
「だから、精一杯頑張ります」
「ああ」
蒼真は頷いた。
「よろしくな、朝霧」
「はい! よろしくお願いします!」
その時、白金が部屋に入ってきた。
「蒼真様、支部から報酬を受け取ってきました」
白金は銀貨の入った袋を蒼真に渡した。
「銀貨二十枚。約束通りですね」
「助かる」
蒼真は袋を受け取った。
「それと、支部の人が言っていました」
白金は真剣な顔になった。
「蒼真様の噂が、広まり始めているそうです」
「噂?」
「はい。『無所属の若き陰陽師が、神獣を救った』と」
「面倒だな……」
蒼真は頭を抱えた。
目立ちたくない。天御柱家に見つかるかもしれない。
「でも、悪いことばかりではありません」
白金は微笑んだ。
「噂が広まれば、依頼も増えます。つまり、収入も増えるということです」
「それは……まあ、確かに」
「それに」
白金は蒼真の手を取った。
「あなたは強いです。誰が相手でも、負けません」
「お前……」
「だから、恐れることはありません」
白金の瞳は、真っ直ぐ蒼真を見つめていた。
「私たちが、ついています」
蒼真は白金の手を握り返した。
「……ありがとう」
「いえ」
白金は嬉しそうに笑った。
コンコン。
扉がノックされた。
「どうぞ」
扉が開き、宿の主人が顔を出した。
「すみません。お客様に、訪問者が」
「訪問者?」
蒼真は首を傾げた。
この町で知り合いなどいない。
「どなたですか?」
「陰陽師支部の方です」
「支部の?」
蒼真は立ち上がった。
「分かりました。すぐ行きます」
一階のロビーには、一人の男性が待っていた。
三十代半ばだろうか。精悍な顔立ちで、陰陽師の装束に身を包んでいる。
「お待ちしておりました」
男性は丁寧に頭を下げた。
「私は楓支部の副支部長、橘隆之介と申します」
「蒼真です。こちらは白金と朝霧」
「初めまして」
橘は三人に礼をした。
「夜分遅くに申し訳ありません。どうしても、お話ししたいことがありまして」
「話?」
「はい。実は――」
橘は声を潜めた。
「この町で、奇妙な事件が起きているのです」
「奇妙な事件?」
「ええ。ここ一週間で、三人の陰陽師が行方不明になりました」
蒼真たちは顔を見合わせた。
「行方不明……?」
「はい。皆、任務に出たまま戻ってこないのです」
橘の表情は深刻だった。
「そして、不可解なことに、彼らの契約していた式神も、完全に消滅しています」
「式神が消滅……?」
白金が驚いた。
「それは普通、契約者が死んだときにしか起こりません」
「その通りです」
橘は頷いた。
「つまり、三人とも死んだ可能性が高い」
「でも、遺体は?」
「見つかっていません」
橘は苦い顔をした。
「何者かが、陰陽師を狙っている。そう考えるしかありません」
蒼真は腕を組んだ。
陰陽師を狙う存在。式神ごと消滅させる力。
「それで、俺に何を?」
「実は……」
橘は蒼真を真っ直ぐ見た。
「あなたに、調査を依頼したいのです」
「調査?」
「はい。あなたなら、この事件を解決できるかもしれない」
橘の目には、真剣な光があった。
「報酬は、銀貨五十枚。どうでしょうか?」
蒼真は少し考えた。
危険な依頼だ。陰陽師が三人も消えているということは、相当な強敵がいる。
だが――
「分かりました。受けます」
「本当ですか!」
橘の顔が輝いた。
「ありがとうございます!」
「ただし、条件があります」
「条件?」
「この二人も、一緒に動かせてください」
蒼真は白金と朝霧を示した。
「彼女たちは、俺の仲間です」
橘は二人を見た。
そして、頷いた。
「分かりました。三人で、お願いします」
「では、詳しい話を聞かせてください」
こうして、蒼真たちは新たな事件に巻き込まれていく。
陰陽師を狙う謎の存在。
その正体とは――?




