8.最後の魔法
気がつくと、アサコちゃんの机の上に、一匹の黄緑色をしたきれいなカエルがのっていました。アサコちゃんは言いました。
「あっ、あなたは今夜がアサコの魔法の夜だって教えてくれた……」
――そうです。あのカエルです。
「あなたのおかげで、アサコはあやうく魔女にされるところだったのよ」
――知っています。すべてはそこにいる魔女のたくらみだったのですよ。
「まあ! そうだったの?」
魔女は言います。
「ばれちゃあ、仕方がないねえ。これというのも、あたしの娘に一人前の魔女になってほしかったからなんだよ。アサコには悪いことをしたと思ってるよ」
カエルも言います。
――そういうことなんですよ。けれども、今夜がアサコちゃんだけの魔法の夜であることに変わりはないんです。まだまだ夜は長いですよ。ぞんぶんに魔法の夜を楽しんでください。
それを聞いてアサコちゃんは答えます。
「魔法はもう、こりごりよ。二度と使いたくないし、かけられたくもないわ」
魔女が言います。
「そうかい。それじゃあ、あたしはこれで帰らせてもらうよ。今夜はありがとうよ」
えっ、とアサコちゃんが言う間もなく、魔女はつむじ風のようになって部屋の窓から出て行ってしまいました。あとに残されたのは、アサコちゃんと黄緑色のきれいなカエルだけです。カエルが言います。
――それじゃあ、ぼくもそろそろ帰らせてもらいますよ。アサコちゃん、ノートに「まほうのかえる」と書いてください。
アサコちゃんは言われたとおりに書きました。
「こうかしら」
――そしたらそれを「まほうがきえる」に直してください。
そこでアサコちゃんはちょっと考えました。――魔法が消える、という仕掛けなのね。これが最後の魔法になるんだわ。どうしようかしら――
カエルがせかします。
――さあ、はやく。
「わかったわ」
そう言うと、アサコちゃんは魔法のノートに「まほうがきえる」と書き記しました。
その瞬間のことでした。黄緑色のきれいなカエルがぴょんぴょん跳ねて窓の外へ飛び出してしまったのです。それと同時にアサコちゃんは机の上にうつぶせになって眠ってしまいました。
翌朝になってアサコちゃんが目を覚ますと、ゆうべの記憶をすっかりなくしていました。ただ、机の上にあるノートにだけは「まほうがきえる」とはっきり書かれていました。アサコちゃんは、なんだか魔法の夢でも見ていたような、魔女にさらわれたような、カエルと話をしたような、不思議な気分でしばらくぼおっとしていました。
(おわり)
いかがだったでしょうか? ここで次回の「アサコちゃんの夜シリーズ」の予定をお伝えできれば良かったのですが、じつはまだ考えにあるだけで、一行も書いてはいないのです。なので、いつかこのシリーズの続きをお届けできるときまで、アサコちゃんとはお別れです。このたびはお読みいただきどうもありがとうございました!




