7.お母さんがいっぱい
魔女にとって、迷わずアサコちゃんの家に行くのは簡単なことでした。アサコちゃんの部屋の窓は開けっぱなしになっていたので、魔女はそこからアサコちゃんの部屋に入りました。
魔女はさっそく、アサコちゃんにかけた魔法を解くために、アサコちゃんの魔法のノートを手にとると、アサコちゃんをさらうときに書いた呪文の効果を消してしまう言葉を書き入れました。すると、アサコちゃんの体はようやく、もとの大きさに戻ったのでした。アサコちゃんが言います。
「アサコ、お父さんとお母さんにひどい魔法をかけてしまったわ。どうしたらいいのかしら」
すると魔女が笑って教えてくれました。
「その魔法をかき消す言葉を、この魔法のノートに書きこめばいいのさ」
アサコちゃんは考えます。――お坊さんになったお父さんをもとに戻すには……そうか。「おぼうさん」と書いてから「ぼ」の字を消して「と」の字にすればいいのかな――
「わかったわ。やってみる」
アサコちゃんはそう言うと、さっそく、魔法のノートに「おぼうさん」と書いてから、その「ぼ」の字を「と」の字に書きかえました。
このときです。世界中で不思議なことが起こりました。世界中のお坊さんがアサコちゃんのお父さんに変身してしまったのです。しかし、魔女もアサコちゃんもそのことに気づかずにいます。
さらにアサコちゃんは、おばあさんになってしまったお母さんをもとに戻すために「おばあさん」の「ば」の字を「か」の字に書きかえました。
すると……世界中のおばあさんがアサコちゃんのお母さんに変身したではありませんか。これはもう、一大事です。
けれど、魔女にも、アサコちゃんにも、そのことに気づく手段がありませんでした。だから、ふたりが異常に感づいたのは、家の外が騒がしくなったときです。
アサコちゃんは魔女を自分の部屋に残して、一階におりていきました。そこでアサコちゃんは、お父さんとお母さんがもとに戻っているのを見てひと安心しました。
と、ここまではよかったのですが、外の騒がしさに家の玄関を開けてみると、そこにはたくさんのお母さんがいたのです。おそらく、近所にいるおばあさんがすべて、アサコちゃんのお母さんになってしまったのでしょう。アサコちゃんの魔法はみごとに大失敗したわけです。アサコちゃんはあわてて自分の部屋に戻りました。
「大変よ。お母さんだらけになってしまったわ。きっと、世界中のおばあさんがアサコのお母さんになってしまったのよ」
それを聞いて魔女が気づきました。
「それじゃあ、世界中のお坊さんもあんたの、アサコのお父さんになっているんじゃないのかい」
アサコちゃんの顔色が変わります。
「それは大変。どうしよう」
魔女が少し、がっかりしたように言います。
「あんたは、アサコは、もうちょっと見どころがあると思ったのに……。ずいぶん、間抜けな魔法をかけてしまったねえ」
これで決まりだね、と言ってから、魔女はアサコちゃんに告げました。
「あんたはとてもじゃないけど魔女にはなれないよ。あたしの見込み違いだったみたいだね。あたしの娘も魔女の仕事をついでくれるし、これでもう、あたしもあんたになんの未練もなくなったよ」
魔女は続けます。
「さあ、あんたの魔法のノートに『アサコのまほう』と書いてごらん」
アサコちゃんは魔女の言うとおりに「アサコのまほう」と書きました。それを確かめてから魔女が言いました。
「今度はその『ま』の字を『あ』の字に書きかえるんだよ」
「こうかしら」
魔法のノートには「アサコのあほう」と書き記されました。その直後のことです。アサコちゃんがみんなにかけていた魔力が、嘘のように消えていきました。世界中のお坊さんがアサコちゃんのお父さんになった魔法も、世界中のおばあさんがアサコちゃんのお母さんになった魔法も、この瞬間にかき消えて、すべてがもとに戻ってしまったのです。




