2.お母さんたちの変身
アサコちゃんは夕ごはんのときに、カエルのことを話してみました。するとお母さんはこんなことを言います。
「それはやっぱり夢だったんじゃないかしら。きっと夢を見ながら寝ぼけてノートに『きえる』と書いてしまったのよ」
やっぱりあれは夢だったのかなあ、と思うと、アサコちゃんは少しがっかりしました。がっかりしながら夕ごはんを食べ終わると、お母さんに「アサコ、お勉強の続きをするわ」と言って、テレビも見ずに自分の部屋に戻りました。そして机に向かうと、さっきのノートをじっと見つめます。ノートには「きえる」の文字が書き残されています。
「夢じゃない気がする」
アサコちゃんのなかに、急に元気がわいてきました。そしてノートにこんなことを書きました。「おかあさん」
それからしばらく考えました。お母さんに魔法をかけるには、どうしたらいいものかと。
「そうだ」
アサコちゃんは何かをひらめいたようです。「おかあさん」の「か」の字を消すと、代わりに「ば」の字を書き入れました。「おかあさん」の文字が「おばあさん」になりました。もしも魔法が現実に起こるとしたら、今ごろ、お母さんはおばあさんのようになっているはずです。アサコちゃんは少しドキドキしながら一階へおりていきました。すると、リビングルームのほうからテレビの音が聞こえてきます。お母さんがテレビを見ているのです。アサコちゃんがリビングルームに入ると、お母さんが言いました。
「あら、アサコ。お勉強するんじゃなかったの」
そのお母さんの顔を見て、アサコちゃんは思わず「きゃっ」と叫んでしまいました。アサコちゃんが驚いたのは無理もないことでした。お母さんは見事に「おばあさん」のように年をとっていたからです。アサコちゃんはしばらく目を丸くして、おばあさんになってしまったお母さんのことを見つめていました。
「さてと、そろそろお父さんが帰ってくるわ。夕ごはんを温めておきましょう」
お母さんはそう言ってから、台所のほうへ歩いていきます。しかし、その姿はどう見てもおばあさんにしか見えません。背中が丸まっているのです。アサコちゃんの魔法が効いたのです。
アサコちゃんはもう、面白くて仕方がなくなってきました。こうなってくると、お父さんにも魔法をかけない手はありません。アサコちゃんは二階へ駆け上がると、急いで机に向かいました。ノートを見ると、そこには「おばあさん」の文字。
「お母さんがおばあさんになっちゃうなんて、びっくりだわ。ああ、おかしい」
アサコちゃんはノートに「おとうさん」と書いてから、今度はどうしようかと考えます。
「おじいさんじゃ今ひとつ、面白くないわね。何かいいアイディアはないかしら」
そこでアサコちゃん、パッとひらめきました。「おとうさん」の「と」の字を「ぼ」の字に変えたのです。ノートには「おぼうさん」の文字が記されました。こうなると、お父さんの帰りが待ち遠しくて仕方ありません。
「お父さん、早く帰ってこないかなあ」
「ただいまー」
グッドタイミングとはこのことでしょう。お父さんが帰ってきたのです。アサコちゃんが階段をおりていくうちに、お母さんの、まるでおばあさんそのものの声が聞こえてきます。
「お父さん、お帰りなさい。あら、その格好どうしたの」
「そういうお母さんこそどうしたんだい。おばあさんみたいだぞ」
アサコちゃんが玄関をのぞくと、そこにはお坊さんの姿になってしまったお父さんが立っていました。アサコちゃんはおかしくって笑いが止まりません。
「アサコ、何がおかしいんだい」
お父さんに言われてアサコちゃんは「何でもないの」と言って、それでもクスクス笑いながら二階へあがっていきました。
「アサコ、本当に魔法が使えるようになったんだわ。ああ、楽しい」
――次はどんな魔法をかけようかしら――そう考えているのが、楽しくてしょうがないアサコちゃんでした。




