7 お祭り
少年に案内され、ティナリアとルイはお祭り会場に向かいます。
砂浜から木々の生い茂った林を抜けて、しばらく歩いていくと、家やお店が見えてきました。
海の中からも人間の家やお店は見える場所もありましたが、こんなに間近で見るのはティナリアもルイも初めてです。
拾った紙に描かれていたみたいに、色とりどりな飾りや、花が至るところに飾られています。
すれ違う人の数も少しずつ多くなってきました。
「キレイだねぇ」
キョロキョロと色々なものを目で追いながらティナリアは楽しそうに目をキラキラさせています。
「この道を真っ直ぐ行ったら、お祭りのメイン会場ですよ」
少年は大通りの近くまで案内すると、二人に頭を下げて、来た道を帰っていきました。
ティナリアは、ルイの手を引っ張って「早く早く」と急かします。
「慌てなくても、まだ時間はあるよ」
ルイは苦笑しながら、ティナリアに引っ張られながら歩いています。
「もしかして、体が辛いの?」
いつもよりも元気がないルイに、ティナリアは心配そうな表情になりました。ルイは体調が悪くても全く表情に出ません。ルイの両親すら気がつかないことが多いのですが、ティナリアには昔から分かってしまうようでした。
「少しだけだよ。大丈夫」
ルイはローズマリーを助けるために人魚の力を使いました。普段なら何ともないのですが、人間の姿で使ったことで普段よりも体力を消耗してしまったみたいです。
「ティナリアが変に走り回らないで、僕の近くに居てくれれば、問題ないよ」
興味の向くままに走り回るティナリアを追いかけるのは、流石に疲れそうなので勘弁して欲しいと暗に告げます。
「わかった。出来るだけルイの側から離れないわ。出来るだけ」
「出来るだけ」を二回も言うティナリアに、ルイは小さく笑ってしまいました。それに、絶対離れないとは言わないのが、ティナリアの正直なところでしょう。
「まあ、もう少ししたら体力も戻るから、そしたら普段通りで良いよ」
結局、ルイは幼馴染みのティナリアに甘いのです。「普段通りで良い」ということは「ティナリアの行動に振り回されても良い」と言うことですから。
それに、せっかくお祭りに来たのですから、楽しみたいのはルイも同じでした。
ティナリアに付き合う感じで、仕方なしに陸に来たように見えますが、本当に嫌だったら絶対断っていたと思います。
(ティナリアが来たいって言わなければ陸に来ることはなかっただろうけど、僕も少しは興味があったんだよね)
ティナリアと一緒に人間の文字を習い、人間の世界を知るうちに、ルイもティナリア程ではありませんが、興味を持っていたのです。
だから、もう少し体力が戻ったら、いつものようにティナリアに振り回されながら、人間のお祭りを楽しむ予定のルイでした。