6 人間の女の子
ルイの歌声で体が癒えた女の子は、しばらくすると目を覚ましました。詠っている最中に目を覚まさなくて、二人はホッとしました。
「わたしは……」
「気が付きましたか?」
意識が戻ってまだボーッとしている女の子にルイが話しかけます。
「あなた達は?」
「通りかかった者です。あっちの岩があるところに倒れていたので」
女の子が倒れていた場所を指さします。
女の子はルイが指差した岩岸を見て「あ……」と声を漏らします。
「わたし、確か溺れて……なんとか岩にたどり着いたけど上がれなくて……あなた達がここまで運んでくれたのね」
女の子は自分の状況を理解したように呟きました。
「とても寒くて痛くて苦しかったの……助けてくれてありがとう」
女の子は、にこりと可愛らしく微笑むとルイとティナリアにお礼を言いました。
「いえ、たまたま通りかかって、倒れているのが見えたので、ここまで運んだだけですよ」
人魚の力を使ったことは秘密です。
「でも、なにかお礼をしなくては」
女の子はとても律儀な性格のようです。
「お礼なんて──あ、でしたら、お祭りの場所がどこか教えてもらっても良いですか?」
ティナリアとルイはお祭り会場がどこか分からなくて困っていたのを思い出しました。女の子が「そんなことで良いの?」と首を傾げますが、二人はお祭りを見るために来たので、教えて貰えたらとてもありがたいのです。
三人が話していると、遠くから「お嬢様ーっ」と誰かを探す声が聞こえてきました。
「あ、わたしの従者だわ」
女の子が声がした方を振り返ります。急に立ち上がろうとしたため、女の子はふらついてしまったので、ルイがとっさに支えます。
「あ、ありがとう」
心なしか、女の子の顔が赤くなった気がしましたが、ルイは気がついていないみたいです。
「ここよー」
女の子が、遠くの従者に向かって手を振ると、それに気がついた従者は慌てて走ってきました。
「お嬢様っ、心配したのですよ! この方達は?」
女の子の近くまで来た従者は、怪訝そうにティナリアと、特に女の子を支えているルイを見ました。ティナリアやルイより少し年上くらいの黒髪の青年です。
「わたしを助けてくれた人たちよ。失礼のないようにね」
女の子の言葉に、従者の青年は「そうでしたか」と表情を和らげると態度を一変させて「ありがとうございました」と恭しく二人に頭をさげました。
「この先のお祭りに来たらしいのだけど、道に迷ったみたいなの。誰かに案内させてくれる?」
「わかりました。すぐに手配いたします。お嬢様はこちらに。屋敷に戻りましたら、すぐに湯が使えるように準備させておきます」
青年はティナリアとルイにここで少し待つように言うと、女の子を両手に抱えました。
「あ、わたしはローズマリー。あなた達の名前は?」
女の子──ローズマリーが二人に尋ねました。
「私はティナリアよ」
「ルイです」
「ティナリアさんととルイさんね。もし、また会うことがあったら、今度はちゃんとお礼をするわ。本当にありがとう」
ローズマリーは二人に小さく手を振って、従者に抱えられて去っていきました。
程なくして、お祭り会場までの道案内を命じられたという少年が、ティナリアとルイの元に走ってきました。