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5 人魚の歌声

 しばらく砂浜(すなはま)に沿って歩いていた二人(ふたり)でしたが、重要なことに気が付きました。

「ところで、お祭りしている場所ってどこなんだろう?」

 海で生まれ育ったティナリアとルイにとって、陸に上がるのは今日が初めてです。陸に上がれば、お祭りをしている場所はすぐに分かると思っていましたが、周りを見渡(みわた)しても広い砂浜と、それを囲うように木がたくさん生えていて、町らしいものは見当たりません。

「本当に、この近くでお祭りがあるんだよね?」

 少し不安そうに(たず)ねるティナリアに、ルイは(うなず)きます。

「紙には、ここの海辺に近い町の名前が書いてあったから、間違(まちが)いないはないはずだよ」

 一応、地図を見ておおよその場所に泳いできました。ティナリアが持ってきた紙に書いてあって地名は、この沿岸のすぐ近くのはずです。

「きっと、木で見えないだけだよ」

「そっか、木がたくさんで向こうの方は見えないもんねーーあれ?」

 背伸(せの)びするようにティナリアは辺りを見渡します。再び、ルイの方に視線を(もど)したときに、ルイの後ろの方に気になるものを見つけました。

「ねえ、あれ何かな?」

「何?」

 ティナリアが指差す方にルイは()(かえ)ります。

 二人が歩いてきた砂浜から大きく外れた、ゴツゴツとした岩だらけの海岸に何かが見えます。

「人間? (たお)れてるのか?」

 そう岩と岩の間から見えるのは人間のようです。ここから見る感じでは全く動かないので生きているのか、死んでいるのか分かりません。

「行ってみましょう。もし生きてたら、あんな所で倒れてたら危ないわ」

「……分かった」

 一瞬(いっしゅん)考えたルイでしたが、ティナリアの言葉に頷きました。

 今は引き潮ですが、しばらくすればまた潮が満ちてきます。もし人間が生きていたら、(おぼ)れてしまうかもしれません。


 岩肌(いわはだ)に近づいていくと、やはり間違いなく人間が倒れていました。

「女の子だ。生きてるみたいだね」

 長い金髪(きんぱつ)の女の子は、目を閉じてぐったりとしています。青白い顔ですが、よく見れば浅く息をしているのが見えました。

「ティナはここで待ってて。その(くつ)じゃ、岩で足を傷つけるかもしれないから」

 ティナリアが()いているのはサンダルです。(すべ)りやすいので岩肌には向きません。ルイが履いている靴の方が、靴の裏にギザギザした模様があって滑らなさそうです。

 慎重(しんちょう)に岩の上を歩いて、ルイは女の子が倒れている所に向かいます。歩き慣れないーーというか初めて岩の上を歩いたので、何度か(ごけ)に足を取られて転びそうになりながら、女の子の近くまでたどり着きました。

「ねえ、大丈夫(だいじょうぶ)?」

 ルイが声をかけますが、女の子はぐったりとしたまま返事をしません。意識がないようです。

 ルイは女の子を(うで)(かか)えあげ、今来た岩肌を(さら)に慎重に歩きます。もし()けて女の子を落としてしまったら大変です。

「よいしょっと」

 ようやくティナリアの待つ砂浜まで戻ったルイは、抱えていた女の子をそっと下ろしました。

「ねえその子、大丈夫?」

 心配そうに尋ねるティナリアに、ルイは「うーん」と首を(かし)げました。

 ルイには医術の心得はありませんが、この女の子がとても弱っているのは分かりました。海に長時間()かっていたのか、とても冷たくなっていて、呼吸もかなり弱いのです。よく見れば、足に怪我(けが)もしているみたいです。もし、サメなどの肉食の魚が近くにいたら食べられてしまっていたかもしれません。

「ティナ、その子の目を(かく)しててくれる?」

(うた)うの?」

「うん。このままじゃ、その子死んじゃいそうだから……でも、もし詠ってる途中で目を覚ましたら大変だし」

 ティナリアはルイの説明に「わかった」と神妙に頷くと、女の子の両目を手でソッと被いました。


 ルイは、すぅっと息を吸い込むと詠い始めました。

 それは、柔らかく穏やかな旋律で、聴いていると心が清らかになるような、不思議な歌声でした。

 女の子の冷たい体が、少しずつ温かくなっていくのが、触れているティナリアに伝わってきます。浅く弱々しかった呼吸も、落ち着いてきました。

 人魚の歌声には不思議な力が宿っているのです。人魚によって、その力は違っていて、ルイの歌声には体を癒す力がありました。

 もし、不思議な力を使っているのがバレれば面倒なことになってしまいます。だから、ルイはティナリアに女の子の目を隠しておくように言ったのです。


(もしかして、人魚姫の物語に出てくる魔女は、歌声の力を封じるために人魚姫から声を奪ったのかな?)

 ルイの歌声を聞きながら、ティナリアはふとそんなことを思いました。

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