4 ティナリアとルイ
人間の服を着たティナリアとルイは、お祭り会場の広場を目指して歩き始めました。
ティナリアは、初めて身につけた人間の服が気に入ったみたいで、時々くるりと回転しては、ふわりと揺れる白いスカートの着心地を確かめています。
ルイは興味がなさそうな表情をしていますが、ティナリアがくるりと回ると、目で追っているので、やはり気になるみたいです。
「ねぇ、似合ってる?」
ティナリアが一歩前に出て、ルイを覗き込むように見上げて尋ねました。
「まぁ……似合ってるんじゃない?」
ルイの素っ気ない返事に、ティナリアがぷぅっと頬を膨らませます。
「可愛いって言ってよ」
「はいはい。可愛い、可愛い」
やれやれといった感じのルイの言葉でしたが、ティナリアは「えへへ、ありがとう」と嬉しそうな笑顔です。ルイは恥ずかしがり屋で、素直でないことをティナリアは知っています。その証拠に、ルイの耳が少し赤くなっているのを見逃しませんでした。
「ルイの格好も良い感じだよ」
「……ありがとう」
ちょっと複雑そうな顔でルイはお礼を言いました。
「ほら、早く行こう。今日はせっかく人間の姿になったんだもん。いっぱい楽しもうね!」
ティナリアはルイの手をひっぱり、「早く、早く」と急かします。
昔から、ティナリア自分の気持ちに正直で、行動力があります。
嬉しいときや楽しいときは、今のように、まるで太陽の光みたいにキラキラとした顔をルイに見せます。
ルイは自分が地味で、素直でない性格なことを知っていました。
だから、なんで、ティナリアがいつも自分と行動しているのか不思議に思うことがあります。
(きっと、小さいときから側にいるから、その頃の習慣で一緒にいるんだろうな)
ルイはそう思っています。
ルイは小さなころ、「海の底の魔女の孫」だと同年代の人魚から遠巻きにされていました。
元々ひとりでいるのは嫌いじゃなかったので、みんなと少し離れた場所で潮の動きを見たり、小さな魚と追いかけっこしたりして過ごしていました。
一人が好きという訳ではないですが、別に一人でもさみしくはありませんでした。
そんなルイに話かけてきたのはティナリアの方からです。
ティナリアは小さなころから好奇心が旺盛で、可愛らしい顔立ちをした女の子でした。他の人魚たちよりも目立った存在だったので、ルイもティナリアのことは知っていました。
そんなティナリアが、地味で目立たないルイになんで話かけて来たのか? それは、きっと「海の底の魔女」が気になってルイに話かけてきたんだろうと、ルイは思っています。
ルイのおばあちゃんは薬作りが趣味で、色々な薬を作っています。本を読むのも好きで、人魚の言葉だけでなく、人間の言葉や精霊の言葉なんかも知っていて、とても物知りなおばあちゃんです。ただ、人魚付き合いは消極的で、自分から他の人魚の輪に入ることはあまりありません。
海の底で薬を作る物知りな人魚はいつの間にか「海の底の魔女」と呼ばれ、他の人魚たちから遠巻きにされるようになっていました。
その孫であるルイも、人魚付き合いが得意ではありませんでした。みんなでワイワイ騒ぐよりも、静かな場所でボーッと過ごす方が好きなのです。
「海の底の魔女の孫」だという理由で、他の同世代の人魚たちから距離を取られていましたが、ティナリアは逆に興味を持ったのでしょう。
なので、興味がなくなったらティナリアは離れて行くだろうとルイは思っていました。なのに、相変わらずずっとティナリアの思い付きに振り回されている毎日です。
そんな日々も嫌いじゃないと思っているのは、ティナリアには内緒です。