20 告白
テンポの良い音楽が終わり、ティナリアとルイが動きを止めると、周りから大きな拍手が沸き上がりました。
二人のダンスは、本当に楽しそうで、見ている人たちは元気をもらえたみたいです。
そのあとも二人は、穏やかな音楽と少し大人っぽい音楽に合わせて踊りました。
どちらのダンスも、周りの人たちに好評でした。
「はぁ、楽しかった。ちょっと休憩にする?」
「休憩って……まだ踊る気なの?」
ティナリアほど踊るのが好きではないルイには、今踊っただけでも十分です。
「うん。だって、こんな経験ってもう出来ないかもしれないんだよ。だから、たくさん楽しんでおかないと!」
ティナリアとルイは海の住人です。
人間に混ざって舞踏会で踊るなんて経験は、そうそうありません。だったら、目一杯楽しんでおかなければ損だとティナリアは言います。
「仕方ないなぁ……とりあえず、少し休んでからね」
ティナリアとルイは、静かに休めるところを探して、中庭に出てみました。夜の風が、踊って熱くなった体を冷してくれて心地よいです。
「あ、そうだ。私もルイに手紙を書いたんだよ」
思い出したように、ティナリアは小さく折り畳んだ紙をルイに渡しました。
文字の練習はたくさんしましたが、誰かにあげるための手紙は書いたことがなかったので、ティナリアはドキドキしてしまいます。
「手紙?」
「うん。読んでみて」
ティナリアに促されて、ルイは紙を丁寧に開きます。
『ルイ、好きだよ。結婚して』
「──っ、けほっ」
ティナリアの手紙と呼ぶには短い文を読んだルイは、手紙の内容に咳き込みました。
「何で、いきなりプロポーズなの?」
何気なく渡された手紙の内容がプロポーズだとは想像していませんでした。
「だって、ただ好きって書いただけじゃ、伝わらないでしょ?」
ティナリアがルイの事を好きなのは、当然の事ですが、幼なじみとしての「好き」ではなく、男の子として「好き」ということを、ティナリアはルイに伝えたかったのです。
小さな頃からルイの隣にいるのはティナリアだと思っていました。
これから先も、ずっとそれは変わらないと思っていました。
だけどルイが、「人魚姫の物語」のように助けた相手を好きになってしまったんじゃないかと思ったとき、ティナリアは自分の気持ちに気が付いたのです。
「……とりあえず、この手紙は保留で」
「もしかして、迷惑だった?」
ルイの保留という言葉に、ティナリアはシュンッと悲しそうな顔になります。いつもティナリアの思いつきに振り回して迷惑をかけている自覚はあります。やっぱり、ティナリアの気持ちは、迷惑だったのでしょうか。
「違うよ。結婚の前に恋人でしょ? ──ちゃんと僕から告白するから」
ルイの言葉に「え?」とティナリアは顔をあげます。
ルイは、すぅっと深呼吸をしたあと、口を開きました。
「僕もティナの事が好きだよ……これからも、ずっと一緒いたい。幼なじみじゃなくて、一人の男としてね。だから、僕の恋人になってくれる?」
とても真面目な声に、ルイの想いが詰まっているように感じました。
「うんっ!!」
ルイの告白に満面の笑みで元気よく返事をしたティナリアは、勢いよくガバッとルイに抱きつきました。
「わっ」
よろめきそうになりながら、ティナリアを受け止めたルイは、照れたような、だけど嬉しそうに彼女を抱き締めました。
いつもティナリアに巻き込まれるルイですが、好きな女の子だからこそ巻き込まれてあげているのです。




