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2 お願い

 時は流れ、幼かった人魚の少女ティナリアは、とてもキレイで可愛(かわい)らしい女の子に成長しました。

 ゆるく波打つ長い水色の(かみ)()は、太陽を反射した水の中でキラキラと(かがや)いています。

 好奇心(こうきしん)旺盛(おうせい)な性格は、昔から変わっていません。

 気になることがあると、藍色(あいいろ)(ひとみ)を輝かせながら、イキイキと海の中を泳ぎまわっています。

「ルイ! 今度、地上でお祭りがあるんだって」

 ティナリアは、浅瀬(あさせ)で拾った紙を片手に幼なじみへ声をかけました。

 幼なじみのルイは、相変わらずティナリアの行動に()()まれているようです。

『人魚姫の物語』を聞いて、人間や地上に対しての警戒心(けいかいしん)を持つのではなく、なぜか人間の文字を覚えたいと突拍子(とっぴょうし)もない考えになったティナリアに巻き込まれて、ルイも海の底の魔女(まじょ)に人間の文字を習うことになりました。

 海の底の魔女はひっそりと暮らしているため、他の人魚は不気味がってあまり近づきません。けれど、ティナリアとルイはそれ以前から、海の底の魔女を何度も訪ねていました。

 ルイは海の底の魔女の孫です。小さな頃から何度も会っていましたし、優しくして貰っていました。

 ひっそりと暮らしている海の底の魔女も、別に他の人魚が(きら)いというわけではなく、ただ昔から住んでいたからという理由で海の底で暮らしているだけでしたので、ティナリアとルイが(おとず)れるのは、むしろ(うれ)しいと思っているようでした。

 そんなわけで、ティナリアの「人間の文字を教えてほしい」というお願い事は、すんなりと受け入れられたというわけです。

 好奇心旺盛だけど、()きっぽいティナリアにしては、根気よく人間の文字を勉強しました。

 そのお(かげ)で、拾った紙に書かれているのが、お祭りについてだとわかったのです。

「祭り……まさか、行きたいとか言わないよね?」

「行きたい!」

 ルイの嫌そうな問いかけに、即答(そくとう)で答えるティナリア。

「おばあちゃんに、人間になれる薬を作ってもらって、一緒(いっしょ)に行こうよ」

 ティナリアは海の底の魔女のことを「おばあちゃん」と呼んでいます。

「やだよ。ティナ、絶対色々見ないと気がすまないだろうし、面倒(めんどう)なことに巻き込まれそうな予感しかしないし……」

 ルイはものすごく嫌そうな表情です。

「だって、一人じゃダメって言われてるんだもん。お父さんにお祭りのことを話したら、ルイが一緒だったら良いって。お願い、一緒に来てくれたら、美味(おい)しいもの買ってあげるから。ね?」

 ティナリアは上目使いと、小首を(かし)げ、「お願い」と両手を合わせる。

 他の男の子がされたら、顔を赤めて(そく)オーケーしてしまいそうな可愛さですが、相手はずっと一緒に育った幼なじみなので通じません。

「えー……」と嫌そうな表情のままです。

 いつの間にか、ルイはティナリアのお目付け役だと周囲から思われていました。

 実際、ティナリアのお父さんやお母さんから、「本当に悪いんだけど、あの子のことをお願い」と頭を下げられたことは、数えきれません。

 ルイは「はぁーっ」と大きなため息を付きました。

「一緒に行ってくれたら、しばらく大人(おとな)しくしてるから」

「……絶対だよ。それから、面倒なことには首を()っ込まないようにしてよ」

 ルイは、しぶしぶ承諾(しょうだく)し頷きました。

「わかった! やったぁ」

 ガバッとルイに()きついたティナリアは、すぐルイから(はな)れると、くるくると泳いでいます。

 両手を上げて嬉しそうにはしゃぐティナリアを見て、ルイは苦笑(くしょう)しました。

 面倒事に巻き込まれるのは嫌ですが、ティナリアが楽しそうにしている姿を見るのは、別に嫌いじゃないのです。それをティナリアに言うと調子にのるので、言いませんが。


 こうして、ティナリアとルイは地上のお祭りに行くことになりました。

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