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人魚姫ティナリア  作者: 佐倉穂波


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18/22

18 手紙

「私は……」

 ローズマリーに親の決めた婚約者だと思われていると、ヒューリックは思っていました。なので、小さな(ころ)の約束を覚えてくれていたことや、お(しの)びで行ったお祭りで(わた)した指輪を今も大事にしてくれているとは思っていませんでした。実はローズマリーに好かれていたのだと分かり、ヒューリックはとても(うれ)しい気持ちになりました。

 でも、やはり素直(すなお)になれないため言葉に()まります。

 ローズマリーは顔を()()にさせ、緊張(きんちょう)した顔でヒューリックの返事を待っています。

 なかなか返事をしない事が、ローズマリーを不安にさせているのは分かっているのですが、よい言葉が出てこないのです。

「ヒューリックさま、手紙は書けましたか?」

 ティナリアの問いに、ハッとさっきまで書いていた手紙の存在をヒューリックは思い出しました。

「ああ、さっき書き終わったところだ」

 書き終わって、変なところがないか読み返していたらローズマリーが()たので、(あわ)てて本の下に(かく)したのです。

「ローズ、少しだけ待ってくれないか」

 そう言ってヒューリックは、あわてて机に向かうと、本の下に隠した手紙を手に取りました。

「言葉では上手(うま)く伝えることが出来(でき)ないから……ローズへの(おも)いを手紙にしたんだ。読んで()しい」

 そう言って、ヒューリックはローズマリーに手紙を渡しました。


『ローズマリーへ


 いつも君に冷たい態度をとってしまい、すまないと思っている。本当は、君に(やさ)しくしたい。一緒に笑い合いたいって思っているんだけど、なかなか素直になれなくて……。

 今日の舞踏会のこともだ。

 小さな頃に約束したのを覚えてるかい? 「ローズが成人して初めての舞踏会では私がエスコートをしたい」って約束をしたよね。だから、本当は約束通りエスコートしたい。だけど君が溺れたと知らせをもらって、もしも体調が悪くなってしまったらと心配になったんだ。舞踏会はこれから先、何回でもある。無理して今日の舞踏会に君が参加して、もしものことがあったら、私はすごく後悔(こうかい)するよ。だから、エスコートしないって伝えたんだよ。

 君のことが大切だから、休んで欲しかったんだ。

 ローズのことが好きだ。

 婚約者だからじゃなくて、一人の女の子として君のことを愛してる。

 どうか、素直になれない私のことを(きら)いにならないでくれ。  ヒューリック』


 手紙は、何度も何度も書き直した(あと)がありました。

 よく見れば、机の横にあるゴミ箱には、グシャグシャに丸められた紙が、こんもりと入っています。


「ヒューリックさま……っ」

 ローズマリーはボロボロと(なみだ)を流しながら、ヒューリックの胸に()()みます。

「私こそごめんなさい。ヒューリックさまの気持ちに気がつかないで……意地をはって「ルイさんにエスコートして(もら)う」って言ってしまったの。本当はヒューリックさまにエスコートして貰いたい。今日の舞踏会のこと、本当に本当に楽しみにしていたから」

 楽しみにしていたからこそ、エスコートを断られたことが悲しくて、ローズマリーはつい意地をはってしまったのです。

「私、本当に体は何ともないのです。だから、ヒューリックさまにエスコートをして貰いたいです。ダメですか?」

「ローズマリー……」

 やはりローズマリーの体調を心配するヒューリックは、困った顔をしています。

「……あの、お医者さんに()てもらって問題なければ、舞踏会に参加しても良いのではないですか?」

 このままでは、なかなか話が進まないと思ったルイが提案してみます。お城にはきっと優秀(ゆうしゅう)なお医者さんもいるはずです。そのお医者さんが良いと言えば、ヒューリックも納得(なっとく)してくれるでしょう。

「そうか、それが良い。ローズ、医者に診てもらって許可が出れば約束通りエスコートする。もし医者がダメだと言ったら、今日の舞踏会には私も参加しない。次の舞踏会で君をエスコートする。それじゃ、ダメかな」

 ヒューリックの提案に、ローズマリーは「分かりましたわ」と頷きました。

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