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人魚姫ティナリア  作者: 佐倉穂波


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15/22

15 理由

「ちょ、ちょっと待って、ローズマリーさん」

 我に返ったルイがローズマリーに立ち止まるように声をかけますが、足を止める様子はありません。

 腕を引っ張られていますが、女の子の力なのでルイが力を入れれば()りほどく事は簡単でしょう。しかし、人間の女の子相手に、どれくらい力を出せば良いのか加減が分からないので、ルイは引っ張られるままローズマリーについて行きます。


 長い廊下(ろうか)()けて、中庭に出たところで、やっとローズマリーは足を止め、引っ張っていたルイの腕を(はな)してくれました。

「ごめんなさい、ルイさん。勝手に連れ出してしまって……」

 ローズマリーは、丁寧(ていねい)に頭を下げます。さっきまでヒューリックに対して怒っていた顔は、今は落ち着いたように(おだ)やかになっていました。

「いえ、確かにびっくりしましたけど……そんなに舞踏会に参加したかったのですか?」

 ローズマリーが溺れたというのは事実なのです。確かにヒューリックの言い方はトゲがあって、ローズマリーを拒絶(きょぜつ)しているように聞こえました。でも、ローズマリーが部屋に入って来る前のヒューリックの様子を見る限り、彼女(かのじょ)のことを心配しているのは分かりました。

「だって、約束だったんですもの……」

 小さな声でローズマリーが(つぶや)きます。

「約束ですか?」

「ええ。ずーと昔にヒューリックさまとした約束です。でも、あの様子じゃ、ヒューリックさまは、忘れてしまっているみたいですわね」

 悲しそうにローズマリーは項垂(うなだ)れます。

 ローズマリーの様子を見て、ルイは少し考えてから口を開きます。

「……良かったら、話を聞かせてもらっても良いですか?」

 部外者のルイが関わることではないと思っていましたが、すでに巻き込まれてしまいました。このまま訳も分からずにローズマリーと舞踏会に参加するのは良くないと思ったのです。

「話を聞いてくださるの?」


 中庭のベンチに並んで座ると、ローズマリーはポツポツと話し始めました。

「わたしとヒューリックさまが初めて会ったのは、婚約が決まったときでしたの。わたし、一目でヒューリックさまの事を好きになって、婚約者になれたことがとても嬉しかったですわ」

 二人の婚約は親同士の決めた、政略的な婚約だということでしたが、ローズマリーにとっては、好きになった男の子との婚約です。とても嬉しかったに違いありません。

「ヒューリックさまは、とても優しくてかっこよくて、優秀な王子さまですわ。でもお茶目なところもあって、小さな頃は一緒にお忍びで町に遊びに行ったり、海や森を散策したりしていましたのよ」

 今は顔を合わせれば難しい顔で、怒ってばかりですけど、とローズマリーは寂しそうに呟いています。

「小さな頃に、町人に変装してお祭りに遊びに行ったことがありますの。その時に、『ローズが成人して初めての舞踏会では、私にエスコートさせてね。もちろんダンスも』と約束してくださったのですわ」

 この国では、女の子は成人するまでは、婚約者がいても親や兄弟がエスコートをするそうです。そして、今夜が、ローズマリーが成人して初めての舞踏会でした。ローズマリーは、ヒューリックにエスコートしてもらう日をとても楽しみにしていたのです。

「でも、あの様子では、小さな頃の約束なんてヒューリックさまは覚えていないみたいでしたわね……きっと私のことは、親の決めた婚約者としてしか見ていないのですわ。それで腹が立って、つい近くにいたルイさんにエスコートして貰うって言ってしまいましたの」

 ローズマリーの目には涙が溜まっています。

 ルイは考えます。

(僕にはヒューリックさまはローズマリーさんのことを気にかけているように見えたんだけどな。確かにローズマリーさんに対する言葉とか態度はツンツンしてたけど、なんか言いながら後悔してるようにも見えたし……そういえば、何で海に近づいたのか気にしていたな)

 ルイの目には、ヒューリックがローズマリーに冷たい態度を取りながら、その事を後悔しているように見えたのです。

 そして、ローズマリーが部屋に来る前にヒューリックに尋ねられたことを思い出しました。

「そういえば、どうしてローズマリーさんは海で溺れたのですか?」

「ちょっと落とし物をしてしまって……それを探しているうちに波に(さら)われてしまったのですわ」

 ルイはローズマリーの言葉に「そうでしたか」と考えるように頷きます。

「話を聞いてくださって、ありがとう。ちょっとスッキリしましたわ」

 ローズマリーの表情は、話をしたことで心のモヤモヤが少し取れたみたいで、さっきよりも明るくなっていました。


 ローズマリーは、怖い海に近づいてでも探したい落とし物があったということです。それはヒューリックと関わるなにかではないかと、ルイは思いました。


 

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