13 相談事
「実は、君たちに聞きたいことがあるんだ」
向かい側の椅子に腰を降ろしたヒューリックは、少しためらい勝ちな声音で口を開きました。
「何でしょうか?」
「溺れていたローズマリーを助けたのは、君たちなのだろう?」
疑問形で聞いていますが、ティナリアとルイが助けたと思っている口ぶりです。
「どうして、それを?」
なぜティナリアとルイがローズマリーを助けたことを、ヒューリックが知っているのでしょうか? やはり、自分達を舞踏会に招待したのには理由があるのかと、ルイは再び警戒するように、ヒューリックに分からない程度に眉を潜めます。
しかし、ヒューリックにはルイの警戒が伝わってしまったようで「待って、待って、警戒しないで」と慌てたように立ち上がりました。
「君たちをどうこうするつもりはないんだ。むしろ感謝しているんだよ。ローズマリーは私の婚約者だからね」
「婚約者?」
ヒューリックの言葉に二人は目をパチパチと瞬かせます。
「そう、婚約者。ローズマリーが海で溺れたと報告があってね。彼女の従者から聞いた助けてくれた人の特徴と名前が君たちと一致したから、確認したかったんだ」
確かに、ルイは目立たない容姿をしていますが、ティナリアは立っているだけでみんなの目を引き付ける魅力を持っています。水色の髪の毛も珍しいので、ローズマリーを助けた二人を特定出来たのでしょう。それに、ローズマリーに名前を名乗ったときに、彼女の従者も一緒にいました。
「では、舞踏会に招待してくれたのは、助けたお礼と言うことですか?」
それなら、ティナリアとルイが招待された理由も分かります。
「それが一番の理由だね。僕の婚約者を助けてくれてありがとう。本当に感謝しているよ」
ヒューリックの言い方を聞くと、他にも理由があるように聞こえます。
「どうしてローズマリーが海に入ったのか、君たちは理由を知ってる?」
「海に入った理由ですか?」
ヒューリックの質問に、ルイは首を傾げました。
「僕たちは、ローズマリーさんが岩場で動けなくなっているとことを、砂浜まで移動させただけなので、どうして海に入ったかまでは……」
ティナリアとルイが見つけたのは、すでに溺れて岩場にもたれ掛かっていたローズマリーなので、どうして彼女が海に入ったのかは知らないのです。
「そうか……どうして、海になんて入ったんだろうね」
「直接、ローズマリーさんに、聞いたら良いんじゃ……ないでしょうか?」
ティナリアが頑張って丁寧な言葉で話そうとしている。
婚約者なら、ティナリアの言う通りヒューリックが直接尋ねたら良いのに、どうして面識のないティナリアとルイに聞いてきたのか不思議です。
「聞いたよ。ローズマリーは、たまたま散歩していたら足を滑らせてしまったと言っていた」
「では、それが溺れた理由なのではないですか?」
確かに岩場は滑りやすく、海に落ちてしまう可能性はあると思います。
しかし、ヒューリックには何か引っ掛かっているようで「うーん」と唸っています。
「あの海岸はローズマリーの屋敷が近いから散歩していたっていうのは不思議ではないんだけど……彼女、小さい頃に海で溺れかけてからは海には絶対近づかなかったんだよね。それなのに、岩場に行ったていうのが腑に落ちないというか……何か理由があったのかなって。助けた君たちなら、何か知っているんじゃないかなって思ったんだよ」
過去に怖い思いをした場所に、無理して近付かなければならない、何か重大なことがあったのではないか? ヒューリックはローズマリーのことを心配している様子でした。




