12 王子さま
「わあっ、ここがお城かぁ」
町から小さく見えていたお城は、近づいて見ると、とても大きくて立派な造りをしていました。
ティナリアは馬車の窓に張り付くようにして外を眺めています。
お城までの道のりが分からないティナリアとルイのために、王子さまは馬車を用意してくれたのです。
「なんで、こんなことに……」
祭りの後は、もう一度本のお店に寄って帰る予定だったのに、予定が変更になってしまい、ルイはため息を吐きます。でも、予定が急に変わることは、いつもの事といえば、そうなので既に諦めています。
それよりもルイには気になっている事がありました。
「素性もしれない僕たちをお城に招待するなんて、なんか怪しくない?」
見ず知らずの、コンテストに飛び入り参加したティナリアと、その連れのルイをどうして舞踏会に招待したのか分かりません。馬車まで用意してくれた上に、ドレスやアクセサリーも貸してくれるというではありませんか。
「コンテストで優勝したからでしょ?それにルイも歌ってくれたから、私と一緒に参加したようなものだし」
「いや、僕は参加した事にはならないでしょ……まあ、コンテストで優勝した特典と言われれば、そうなのかなって気持ちもあるけどさ」
ルイが読んだ人間の本には、お城は王さまや王妃さまなど、王族が住む場所で、とても厳重に守られていると書かれていました。舞踏会も由緒正しい貴族の男の子や女の子が参加するものだと思っていました。なので、こんなにあっさりとお城で開かれる舞踏会に招待されて、色々と良くしてもらうことに裏があるのではと、警戒してしまったのです。
「僕の知識も本で読んだものだし、実際は少し違うのかもしれないね」
ルイは、そう思うことにしました。
お城に入ると「こちらで、少しお待ちください」と、部屋に通された。
外のベンチとは違った、フワフワなのに弾力のある椅子の座り心地にティナリアは「わ、この椅子おもしろい」と無邪気に立ったり座ったりしています。
しばらくして、軽いノックの音がしたあと、なんと王子さまが部屋に入ってきました。
「あ、王子さまだ。舞踏会に招待してくれてありがとうござい……むぐっ」
「ちょっと、ティナ!」
まるで友達のように王子さまへ話しかけるティナリアの口を、ルイは慌てて両手で塞ぎました。
「王子さまは、その辺の人間とは違うんだよ。とても身分が高いんだから……」
陸に来る前にルイは人間の世界について勉強しました。
人間の世界では王族が一番身分が高く、失礼なことをすれば罰せられる可能性があることも学んだのです。現に、王子さまと一緒に部屋に入ってきた付き人は、ティナリアの態度に驚いた顔をしています。
「ははっ。大丈夫だよ。ここは私的な部屋だから、畏まった態度にならないで」
ティナリアとルイのやり取りを見ていた王子さまが、笑いながら言いました。
「君たちは、この国の者じゃないみたいだし、気にしなくていいよ。私のことも気軽にヒューリックと呼んでくれ」
お城の場所を知らなかったり、お祭りに「初めて来た」と言っていたりしていたことから、ティナリアとルイが他の国からやって来た者だと思ってくれているようです。
「……ありがとうございます。ヒューリックさま」
ティナリアの口から手を離したルイが、王子さま──ヒューリックに頭を下げます。
どこまで、その言葉を鵜呑みにしても良いか分かりませんが、とりあえず罰せられる様子はありません。
本で学んだとはいえ、王子さまへの正しい接し方だとか、貴族の作法なんてものは、勉強熱心なルイでも身に付いていないので、「気にしなくていいよ」と言ってもらえて安心しました。




