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学校七不思議

作者: HORA

「よし、今夜の事に関しては3人の秘密だぞ。」

「勿論。お墓まで持っていくよ。」

「うん。そうね。あんたら絶対裏切らないでね。」

1974年。小学校の建設予定地。しとしと雨が降る深夜。俺は3人に殺され死体を埋められた。



襲われた時にはそこまで恨まれていたのかと驚いた。仕事の出来ない部下に仕事を主体的にできるように教育したり、借りた数万円を返すのがちょっと遅れているだけだったり、結婚の遅いお(つぼね)を同僚と一緒にからかったりしただけだ。そんな些細(ささい)な事は日本中で、、、どころか俺の仕事のデスクの徒歩5分内のあちこちで頻発している。3人から休日に飲みに行きましょうと誘われ、そのまま森の中に連れ込まれて、角材やらバットやらで撲殺された。そしてその数時間後、殺害現場近くの小学校の建設予定地に俺は埋められたのだ。


死後の世界に関して俺は全く信じていなかったのだが、ボコボコに殴られ、気が付くと痛みが消えており、数m上から俯瞰(ふかん)でもう一人の俺が血を流し動かなくなった様子を確認できている。幽体離脱のような状態なのだろうか?

「はぁはぁ…とうとうやったか!」「ざまぁみろ!」「死ね!死ね!」

うつ伏せで血まみれの俺に3人が言っている。


「お前らふざけんなよ!!!」

と大声で怒鳴って、殴りかかってみたものの、体はすり抜けてしまい、やはり俺は既に死んでしまったのだと思い知らされた。


3人が俺の死体を袋に入れて運ぶ。すると霊体の俺も袋に入っている本体に引きづられるように強制的に移動させられる。死体から半径20m程しか移動ができないようであった。3人は小学校の建設予定地まで死体を運び、3人がかりで俺の死体を埋め、その後にアリバイ工作の口裏合わせの確認をして、車に乗り込んで帰っていった。


世の中の亡くなった人物の全てが霊になってしまってはこの世は大渋滞である。俺が霊体となってしまったのは地縛霊として恨みが残っているからであろう。実際、霊となった現時点であってもあの3人に激烈(げきれつ)な怒りを覚えそれぞれ100回殺しても飽き足りない程。やつらは共謀(きょうぼう)して俺を殺しただけでなくその重罪をも逃れようとしているのだ。俺はこの場からおそらく動けないし、無念を晴らすのは困難であることが予想された。遠ざかる車を見ながらどのように復讐を果たせるかを考える。車が俺から100m程離れた頃、、、車が運転操作を誤ったのだろうか。崖の方へ落ちていった。

「あ…」

復讐…復讐…と考えていたが少し思考が停止した。その数秒後ガシャーン!!と大きな音。そして夜の崖下で火が上がっているのであろう。オレンジの灯りが確認できる。

「あ…」

小学校の建設予定地ではあったが、そこに至る道はまだ舗装されておらず道はかなり分かりづらい。来た時に走ってきた道をシンプルに間違えたのだろう。埋められてから30分も経たない内に俺は最速とも言える復讐を多少もやもやするものの完遂したのだ。


小学校の建設はその事故によって若干遅れはしたもの着工が始まる。作業員が噂をしている。

「すぐ近くの崖の下、車内で3人の焼死体だってなぁ。」

「どっかに繋がると思ってこの道に入ってきちゃったんだろうなぁ。雨で視界悪かったから崖に落ちたんだろう。」

「これは学校が開校したらすぐ学校の怪談になりそうだなぁ。」

「違ぇねぇ。」


さて、俺は何故か成仏できていない。自ら復讐を果たせていないからか…?復讐を果たせた(?)タイミングで怒りが収まっていなかったからか…?俺の死体が発見されていないからか…?何にせよ何にもできず、何にも干渉できず鑑賞するだけ。工事の足を引っ張るでもなく横になり寝っ転がりながら1年後に小学校は完成した。


世はベビーブーム。大して都会とは言えない自然あふれるこの地域ではあるが相当な数の小学生が入学してきている。俺の死体が埋められている地点の上は音楽室のようだった。作業員の予想とは反して子供達には3人の車の焼死事故は伏せられているようで学校の怪談にはならなかった。


地縛霊として音楽室で子供達の歌やピアニカ、リコーダーの音色を聴く毎日。時々霊感がある子がこちらをじーっと見てくるので、これはまずいと壁にかけられているモーツァルトの肖像画に入って、子供たちを見守る事にした。地縛霊なのはそうなのだが特に未練や恨みなどでやり残した事がある訳ではないのだ。

死体が埋められた場所は何もない森ではなく、学校の音楽室の上であったことは僥倖(ぎょうこう)と言えるだろう。子供達は素直で裏表が無く可愛い。


新しくピカピカだった校舎も年月が過ぎ、、、児童が何度も入学と卒業を繰り返し、机や椅子も随分と古くなって来る頃。とうとう学校七不思議がその小学校に生まれた。俺は音楽室で噂する小学生の話に耳を傾ける。


①【音楽室のベートーベンの肖像画が深夜2時に目がぎょろぎょろと動く】

あ~…、、、惜しい。霊が入ってるのはその横のモーツァルト(ORE)だよ。ベートーベンには何も霊は入ってないなぁ。まぁ俺もモーツァルトの霊では無いんだけどね。

…あれ?噂を言い始めたヤツがベートーベンとモーツァルトの顔の区別がついていない可能性もあるのか?


②【3階女子トイレの奥の個室。夜に2回ノックして「は~なこさ~ん、遊び~ましょ~♪」というと中に引きずりこまれて失踪する。】

…ってトイレ使用してる相手を子気味(こぎみ)よく遊びに誘うなよ。キレられて当然だわ。俺は音楽室にいるからその女子トイレに霊がいるかは分からないんだけど。辞めてやれよ。


③【東棟の2階と3階を繋ぐ階段は夜になると13階段になる】

いや、普通に13階段で合ってるし。工事してるおっさんは13階段って言ってたぞ。13が日本で不吉な数字になったの最近だろ。そもそも昼間は誰も数えてないだけじゃないのか?知らんけど。


④【よく防災ベルが鳴ったり校舎の窓ガラスが割れるのはいじめによって自殺した小5の霊の仕業】

これに関してはなぁ。お見合いに失敗する度にあの音楽の先生がストレスでやってたんだよなぁ…


⑤【理科室の人体模型が深夜に廊下を100mを10秒で走っている】

うん。これは違うね。音楽室に遊びに来てた人体模型は100mの自己ベスト23秒くらいって言ってたぞ。


⑥【校長と教頭は実は死んでいる】

…これに至っては誹謗中傷じゃね?


⑦【①~⑥を確かめた上で7つ目の不思議を解き明かしてしまうと死ぬ】

うーん。無理やり7つにしたかった臭がぷんぷんするけどな。


全国的にも5つや6つ、8つの不思議では収まりが悪いらしく学校七不思議になるらしいな。




更に年月が経過。

2024年の夏。



今日も音楽室で小学生達がピアノの音色に合わせ歌っている歌を聴いている。子供達はいつものようにとても楽しそうだ。

時刻は深夜2時。

「お、、、今日もゲストが来るみたいだな。子供達は驚かないだろうか?」




「な?ピアノの音とか、小さく歌が聴こえて来るだろ?」

「………、、うん。確かに聴こえてくるな。」

「え…?また~。俊哉(としや)のドッキリでしょ?」


音楽室のドアがキィーーと開けられると同時に音楽室には暗闇と静寂が訪れる。肝試しで近場の大学生がやってきたのだ。すでにとうに廃校になった木造の校舎。この音楽室で霊現象が多発するのだと大学で噂になっているようで頻繁に大学生がやってくる。3人が音楽室を歩くたびにギィギィと音がする。子供達が楽しんでいる空間をあまり荒らさないでもらいたいものだ。


「何かこの小学校って小学生の変死事件が多発したらしくて、まだ児童が結構通ってたらしいけど廃校になったらしいんだよ。」

「うん。何か一時期めっちゃ新聞とかTVで噂になってたよね。聞いたことある。」

「うちの爺ちゃんから聞いた事あるんだけど、この小学校が作られた時に事故で3人が死んでるらしいよ。これも新聞に載ってたらしくてさ。きっとその地縛霊のせいなんだって。」

大学生は10分程で音楽室を出ていった。


音楽室のドアが閉まると同時に、音楽室には子供達が再び現れ、またピアノの音色に合わせて歌い出す。

「…さて、確かに小学生が変死する事件が続いたんだよな。それは冗談かと思われていた7つの不思議の全てを知ってしまったからだと思っていたが、もしかして俺を殺したあの3人が、あの崖下の地点で地縛霊となって小学生を害していた可能性があったのか…??」


俺は50年振りにあの3人に対して憎悪(ぞうお)の念が湧く。しかし既に廃校となった事もあり新たな小学生の犠牲者は今後出ることはない。その犠牲者となった小学生も今、俺の前で楽しそうに歌を歌っている。

「ねぇ。おっちゃんもボーっとしてないで一緒に歌おうよ。」

「あぁ。そうだな。」

日本全国で廃校となったことで埋もれた学校七不思議は今もこうして生き続けているのかもしれない。

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― 新着の感想 ―
ホラーをいっぱい書かれてて凄いですね。このままちょろちょろお邪魔します。 これは、どっちなんだろうな…。 この語り手上司も真っ当(?)にクソ人間さんしてたみたいだけど、子どもへの感情はニュートラルと…
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