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短編集

真実の愛を手に入れた話

作者: きむらきむこ

ジャンル違いですよ、との感想を頂いたので、恋愛にお引越ししてきました。

確かに「純文学」は違うと思う。なぜそのジャンルにいたかと言うと、単に当時初心者過ぎて「ヒューマンドラマ」を見つけられなかったんです。


 妻問いをすることになった。


 貴族学校を3年前に出た。本来なら幼い頃からの婚約者がいて、卒業後1年以内に挙式する、というのが大多数の貴族の習いとなっている。


 私の婚約者は一昨年、流行り病で儚くなった。十歳くらいで婚約した彼女が亡くなって、すぐさま新しい婚約者をというのも忍びないと言う体で、そのままになっていた。正直に言うなら新しい婚約者を探すのが面倒だったのだ。


 自分ながらに薄情なものだな、と思うが、婚約してから互いに手紙や贈り物の交換はしていたが、実際に会ったことは十歳の婚約式の時だけなので、愛情も育たなかった。


 元婚約者は、貴族学校ではなく女学院の方に進学したので、学校で会うこともなかった。折々に肖像画なども交換していたが、絵に向かって話し掛けるような情緒が自分には無かった。

 肖像画を見て思ったことは「画家は何割増しに盛って描いてるんだろうか」だった。つくづく恋愛には向いてないんだろう。


 先月21才になった。男とは言え適齢期の後半に入ったので家族から、結婚をせっつかれた。そこそこ裕福な伯爵家の嫡男に、釣書の一つも来てないのか?と問うと、情緒の無さが世に知れすぎていて、良い話は来ていない、とのことだった。


 同世代にやたらと愛想の良い侯爵家の跡取りが独身でいるので、おそらく彼に一極集中しているのだろう。仕方ない、夜会で適当に見繕うとしよう。


 


 夜会は相変わらずの煌びやかさだった。

 侯爵令息に女性が群がっていた。ガッツがあるとは思うが、あの積極性は、私と気が合うとは思えない。


 脂粉と香水の匂い、笑い声と駆け引き。しみじみと思うよ。面倒くさい。


 人いきれに疲れて、夜風にあたりに大きな窓から外に出た。出た途端言い争う声が聞こえてゲンナリする。


「…さま、どう言うことですか?」


「君には済まないと思ってる」 


「済まないでは済みませんよ、結婚はもう半年後ですのよ。どうなさるおつもりですか」


 暗がりで良く分からないが、キツめの美人が、小柄な女性を身体でかばうように隠している男性を糾弾していた。


 女性の声がどんどん大きくなる。怒りが抑えきれないようだ。確かに聞いている限りでは、不実な婚約者を許すいわれもないだろう。他人に聞かれて嬉しい話でもないだろうと思われたので、来た道をコソコソと戻った。



 散々な夜会を後にして、今晩は帰ることにしよう。とりあえず、婚約解消か破棄になりそうなフリーの女性がいる事が分かったので、まずは個人の特定を急ぐか。



 ハイエナと呼びたければ呼んでくれ。自分では見つけられそうにないし、先程の女性に問題がないようなら婚約を申し込もう。少なくとも、顔立ちもハッキリと物申す態度も、嫌いではないなと思った。




 帰宅後、家人に件の女性の話をして求婚しようと思うと伝えたら、顔色を青くしてすぐに調べるから待て、と言われた。まぁ、そうだろう。私も調べて欲しいと思ってたよ。どこの誰ともわからない人に求婚するほど向こう見ずではないつもりだよ。いや、さっきの求婚しようと〜は、調査結果によっては、っていう枕詞があったんだよ。


 説明するも、家人も執事も信じてはくれなかった。普段の行いのせいよ、と年の離れた妹が言ったが、普段から私は愛想はないが誠実だと思うんだが。





 結果、あの夜会の彼女に妻問いすることになった。

 執事が調べたところ、彼女はジェニファー・タウンゼント子爵令嬢と言って、たまたま隣の領のご令嬢だった。タウンゼント領を挟んでウチと反対側の領の子爵令息と婚約してたそうだが、彼の不実で急遽破談になったらしい。


 あまり記憶にはないが、近隣の領の集まりで、子どもの頃に妹共々一緒に遊んだ仲だったようだ。


 破談の原因もはっきりしてるし、貴族学校での評判も悪くない。これなら問題はないだろう、と家族からのゴーサインも出た。


 縁談の申込みをし、見合いとなった。


 タウンゼント子爵家の応接室でジェニファー嬢と向かい合い、互いに優雅な手つきで茶を飲んだ。暗がりでは分からなかったが、ジェニファー嬢は暗めの金髪に青い目のほっそりとした美人だった。


 あの男は何が不満だったのだろう。


「ジェニファー嬢 私と結婚していただけませんか?」


 直球すぎたのか、ジェニファー嬢はちょっと紅茶にむせていた。


「ご存知かどうか分かりませんが、わたくしは先日婚約を解消したばかりなんですが…」と、すぐに態勢を立て直してそう言ったジェニファー嬢は、やはりシッカリしている。


「解消されたのなら、婚約を結ぶのに問題はないと思いますが、私のことはお気に召しませんか?」


「…」間を保たせるためか、彼女は黙ってティーカップを手にとって、再度お茶を飲んだ。


「私はあなたのようなハッキリした人は好ましいと思ってます」


「わたくしは、傷物扱いを受けると思って…」声を詰まらせた彼女は、そのまま涙を流した。


 彼女に私の事情を説明した。婚約者が亡くなって数年経つこと。新たな結婚相手が必要なこと。自分は確かに愛想がないが、不実はしないこと。付け入るようでは有るが、お互いに婚姻関係を結ぶのはメリットがあること。


「メリットとは?」  


「タウンゼント家としては、ブレナン伯爵家と縁が出来る。ジェニファー嬢にはすぐに縁談が決まることで、元の婚約者より家格が上がるし、下品な言い方をすれば見返してやる事が出来る」


「ブレナン家としては、ジェニファー嬢を迎え入れることが出来るのは大きなメリットだと思う」


「過分な評価をありがとうございます。この縁談をお受けいたします」ジェニファー嬢はそう言って、美しいカーテシーをした。


 世間的には、元々私がジェニファー嬢を想っていたのを、コレ幸いと婚姻の申込みをした純愛のように思われているらしい。不実な婚約者と別れさせ、真実の愛(笑)を手に入れたとして、しばらくは劇場で芝居が上演されていたようだ。


 まあ、真実とさほど乖離しているわけでもないので、我々もそれが真実です、という顔で通している。


 ジェニファー嬢は思った通り、申し分のない妻になった。少々パンチの利いた性格で時々私を困惑させることもあったが、彼女のそういった処を私はとても気に入っていた。


 全体重をかけて寄りかかってくる妻よりも、何かあれば夫の尻を叩き、自分でしっかりと足の置きどころを見つけて、自立する妻の方が一生を共にするのに安心だと思う。


 あの夜会の夜に男に一方的に庇われてた女性よりも、しっかりと間違ってることは間違っていると発言してたジェニファーは、美しかった。



 あの時の判断を悔いたことは一度もない。

 




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