5. 精霊ネリ
「オリンをみにいこう!」
普段ケィヨスは森に異常がないか巡回し、部下の生き物らの報告を聞く。
基本的にはシキはそれに着いて行くが、時には狼の群れで預かってもらったり、他の動物や精霊が見守っていたりする。
まあ一緒に遊んでいるようなものだが。
そこにカイデンが加わり、日中はカイデンに森を案内するといって散策することが増えた。
今日は家より少し離れた場所にある、オリンの木を見に行きたいらしい。
冬には甘酸っぱい実がなるが、今はちょうど花が咲く頃だろう。
「私が行く方とは逆の方角になる」
「カイデンといくからいいよ」
シキのなかではもう確定事項のようだが、カイデンと二人だけで行くには少し遠い。
それにケィヨスよりカイデンがいるからいいと言われているようで少し、いや大分寂しい。
「ケィヨスにはおみやげさがしてくる」
「二人だけでは心許ない」
森で起こることはほとんど把握しているケィヨスだが、対応するには時間差もある。何か起こったその時に側にいなければほとんど意味などない。
木の根に足を取られて転けてしまうやもしれないし、道中疲れて立ち往生してしまうやもしれん。
駆けつけるまでの間不安でシキが泣いてしまってはかわいそうだ。
せめてそういった時に対応できるものを誰か呼ぼう。
そう結論づけると空に手を向け、ネリ、と呼ぶ。
その手をとるように何もなかった場所がゆらめき、二対の羽が生えた女性形の人型の精霊が現れる。
「私は用がある。シキについていてくれ」
すると目を輝かせ、すぐさま地上に舞い降りて恭しく手の甲にキスをする。
「シキ、こんにちは。ネリって呼んでね。あなたのことは知ってるわ。ずっと挨拶したかったのよ!」
手に頬ずりしている。
「シキといっしょにいく?」
「ええ。構わないかしら」
カイデンと二人がよかったと言われたらどうしようと、おずおずシキの様子を窺う。
握られた手と逆の手で、最近覚えた手を使って数える方法を使う。握った拳から指を広げて計算していく。
「いいよ。んと、シキとカイデンとネリといこうねぇ」
何度やっても最後の中指が広がらない。
唇の先がとんがっている。
最終的に親指と人差し指だけ広げた手を見せてくれる。
シキの片手を離してやればよいのにネリは離す気がないようだ。シキも好きにさせてやって気にしていない。
「あまりシキを困らせるでないよ。気をつけてな」
前半はネリに注意をし、後はシキの頭を撫でながら言う。
「いってきまぁす」