3. 愛深き狼
当日。
夏よりは早く陽が落ち始める頃。
今夜のためにお昼寝をたくさんしたシキが、ケィヨスに連れられて巣にやってくる。
ナディアとガカリを一番奥に、その向かいに左からダレル、ガガル、ナガン、ダリオンの順でくつろいでいる。
肉を食べ、花を贈り、毛繕いをして、思い出を語り合う。
その間中、ずっとガカリがナディアの側にいる。
耳の先から体中全身を撫でてやっている。
「ガカリったら」
「やっと仕留めた雌だぞ。どこまでも逃がさないさ」
「まぁ、怖い」
クスクスとナディアが笑う。
その笑顔が好きだ。
「君を一人にはしないさ」
そう言うと、かぷっとナディアの口吻を甘噛みする。
お互いあぐあぐとじゃれ合う。
「見てるこっちが恥ずかしいよ」
「いいじゃないか。これを見るのも最後だよ」
「そうだぞ。もうすぐしたら俺たちも混ざろう」
「それもそうか」
「シキもあぐあぐしようねぇ」
こちらも今日が別れの日であるガガル、ダレル、ダリオンが呆れながらも笑い、ナガンが隣に座るシキに話しかける。
シキがナガンの鼻を噛んでやると、ナガンはブンブンと尻尾を振る。
「ずるいぞ」
「そうだ。まぜろ〜」
ダリオンがそれに気付きシキの頭を齧る。
そうして兄弟達でじゃれ合う。
「やっぱりシキもガルたちといく!」
唐突に宣言するシキに、兄弟達は顔を見合わせると、さらにシキをもみくちゃにする。
ほとんど同じ年齢、日にちで言えばシキの方が生まれは早いが、狼と狼獣人の血をひいたガガル達はシキを妹のように可愛がっていた。
狼の速度で大人になり、そのあとは人間の速度で歳をとる。
「いつでも会いに来るよ」
「ぜったいよ?」
「シキの匂いを忘れないようにしなきゃ!」
シキの髪にスンスンスンと4頭で鼻を寄せる。
シキがきゃっきゃと喜ぶのを見て少し安堵する。
泣いてしまったら、どうしたらいいかわからない。
特に甘やかしていたナガンやダリオンあたりは、森を出ないとか言い出しそうだ。
先に群れを出てケィヨスと暮らしているとはいえ、本当に兄弟のように過ごしたのだ。
「みんな、こちらにおいで」
ナディアに声を掛けられて皆で近寄る。
ケィヨスだけは離れたところで静観している。
ひとりずつナディアと甘噛みし合う。
ガカリとは大きくなってからはしなかったが、今日は一緒に甘噛みしてくれる。
「ガガル、森を頼むな。ケィヨスとシキのことも、まだ起きない寝坊助のことと、あとそれから、」
「大丈夫ですよ」
「そうか、そうだな」
いよいよ、日も暮れた。
出立の時だ。
「よいな」
「ケィヨス様、皆をお願いします」
「承った」
最後の最後までガカリに抱えられたナディアはシキに毛繕いしてやっていた。