00. プロローグ
この国に生まれたものならば一度は耳にする。
赤い瞳を持つものは、人ならざるものを引き寄せる。もし愛し子を傷つければ、神を怒らせてしまう。
そんな赤い瞳を持ち、髪すら一族のものと全く違う白を持って生まれたセツは少し過保護な両親のもとで育った。
種族によれば、赤い瞳を持つものは脅威になり得る。
人ならざるものとは、魔法を使うのに不可欠な精霊から、家畜、その繋がりから獣人など。
益になるものなら良いが、野生の動物、果ては魔物まで寄せつける。
言葉のわかるものならいい。どっかに行ってくれと言える。知能の低いものが問題なのだ。
もしただの人間が赤い瞳を持てばどうなるか。
人里に魔物がやってきて関係ないものが襲われるのだ。
そうして、本来一番赤い瞳が現れる可能性が高い人間達には忌み嫌われていた。
しかしセツは最強種である龍族として生まれた。
龍にとっては益になることの方が多く、さらにそれに付随して才能もあったものだから、周囲は自然と期待していた。
そんな周囲に飽き飽きしていた頃。
普段足を踏み入れてはいけないとされる神々の森にて、十離れた兄の二十歳の成人の儀があった。
初めて来た森に少し舞い上がっていたのかもしれない。森は不思議な空気に満ちていて、上質な魔力が溢れていた。
何かに突き動かされるように進んでいると、気付くとぽつんと一人きりになっていた。森の上空を飛んではいけないので、一緒に歩いていたはずだが家族がいない。
普段知らない場所へ行くと集まる精霊もいない。心細い気を落ち着かせるように左手を撫でる。
そうしていると、今までなかった気配が視界の端で動いた。濃霧の中から出てきたように、いきなり視界に現れたのだ。
人間の子どもだろうか、もしかすると上位精霊かもしれないと思うほどに澄んだ気配。
なぜか警戒する気に全くなれない。
「こんにちは。迷子かなぁ」
そう言うとこちらを見上げてくる。被っていたフードが脱げてセツと似たような白い髪が見えた。目が見えないのか、瞳は閉じているがセツを窺っているのがわかる。
そう、小さな子どもの様子を観察していると龍体の腕をとり、こっちよと手を引いてくる。
「泣かないで。大丈夫よ」
化かされていてもいいかという気になり、引かれるまま着いていく。
気付くと先程とは逆にいつのまにか、家族のもとに戻っていた。どこに行っていたのだと心配されたが、自分でも何が起きたのかわからなかった。その後の儀式の事も心ここに在らずでほとんど覚えていない。
ただ初めて、この珍しい髪を好きになれた気がした。自分の容姿に然程興味はないが、周りの目を惹くこの髪は嫌いとはいかないまでも面倒に思っていた。
あの子とお揃いならば、この白も悪くはない。
それに、あの子のように髪を伸ばしてもいいかもしれない。
後に、セツ・レイ・ラヴァはこの時を振り返り、惚けていないで名前はとかどこに住んでるのかとか、連絡先はなど聞いておけばと後悔する。