9 超大国の王の最後(アラスター)
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9 超大国の王の最後
世界一の強国であるホーリーナイト神聖国の王、アラスターは病床に伏せていた。
元々、病気がちであったが、それを周囲に悟らせない威厳に満ち溢れている王である。
だが、遂に症状は深刻化し、王の寝室で病床に臥せっている。
傍らには第一王女であり、世継ぎ王女である、アラスターの唯一の娘、ローズが心配そうに父を見つめる。
超大国の王であり、剛腕を以て国を率いて来たアラスターであったが、子には恵まれなかった。
だから、唯一の娘であるローズを可愛がっており、それは自他ともに認めるほどだった。
「父上!」
ローズは父、アラスターの震えるような手を取り、呼びかける。
そんな娘の将来を案じ、アラスターは考える。
まだ十六歳という年若い娘に超大国の舵取りが出来るのだろうかと。
そう考えて娘の隣に立っているホーリーナイト神聖国の最大戦力である聖女ミラベルに視線を送る。
聖なる衣に身を包み、白髪に白色の双眸でアラスターを見据える聖女ミラベル。
彼女は歴代最強の聖女と謳われ、来る大魔王との戦役で旗頭として動き、それを打倒するために生まれ落ちた。
「聖女ミラベルよ……余は伝説の魔眼を持つ少年、トムにローズと婚約しトムを王位に就かせたいと思う」
アラスターは溺愛する我が子、ローズをトムに嫁入りさせ、トムを国王にさせようと画策する。
それは娘の意志であり、それがこの国を繁栄させると、アラスターは思っていた。
聖女ミラベルはその場に片膝附き、言葉を放つ。
「分かりました。このミラベル、国王となられるトム様と王妃となられるローズ様をお支え致します」
その言葉を聞けて、アラスターは満足したように頷く。
「父上! 死なないで! 私を置いて行かないでください!」
ローズは普段は気丈な娘であった。
しかし、この時ばかりは号泣し、冷たくなりかけているアラスターの手を取る。
「ローズ……可愛い我が娘よ。王妃としてトムを支えるのだぞ。
そして聖女ミラベル……年若い二人を頼む……」
それだけ言うとアラスターは事切れた。
享年61歳……長年、超大国の王として君臨し、世界の盟主と謳われた偉大なる王であった。