2 世界の歴史
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2 世界の歴史
大賢者アーロンの家には書籍が大量に山積みしていた。
これだけの知識を蓄えているのだ。
相当、賢者として優れているのだろう。
トムとアーロンは椅子に腰かけて改めて対面する。
アーロンの見据える目はとても澄んでいた。
お茶を出されたが、トムは酒場で飲み物も食べ物も十分にとったのであまり要らなかった。
「こうして近くで見るとやはりお主は確実に上位魔族の血を引いておる。
歴史のかなたに消えた伝説の上位魔族……震えが止まらんよ」
アーロンは言葉通り体が小刻みに震えていた。
彼の長年求めていた存在が確かに目の前に存在するのだ。
それも仕方がなかろう。
「上位魔族はその魔眼の力によって遥か古の時代に人族を絶滅寸前にまで追いやったと伝え聞く。
それほどまでに魔眼は強力なのじゃ。自然エネルギーの使い手よりも……。
魔眼は相手の心を読み、戦闘においてはこの世のありとあらゆる技が全て使用可能。
それが魔眼の力の一端にすぎぬ。上位魔族の始祖、魔王は究極魔法で魔族の国家を造り上げた。
汎用性の高さも凄まじい。魔眼を開眼したものは正に最強の力を手に入れる。
それを目に付けた者が大勢いた。自分の眼に魔眼を移植したもの……しかし何れも制御できなくて破滅したのだ。
お主の父親は上位魔族の特徴を有してはいない。
何者かの魔眼を移植した可能性があるが、そもそも上位魔族は歴史のかなたに消えたことになっている筈なのじゃ」
アーロンは興奮して捲し立てて言った。
「アーロンさん、上位魔族が最強なのは理解しましたが、自然エネルギーの使い手とは?」
「うむ。自然エネルギーとは炎、雷、水、氷、光、木、土、風などの使い手の事じゃ。
物理的攻撃が通用せず、真に強い。それとは別に聖属性、暗黒属性なるものもある。
自然エネルギーの光は勇者が持ち、聖属性の力は聖女が持つとされておる。
アーロンは大賢者と言うだけあって学識があり何でも知っていた。
トムは自然エネルギーについても知らなかったのだ。
勇者となった幼馴染ライラが光の光線で川の魚を焼いて食べる事は見て知っていたが……。
「勇者となった僕の幼馴染ライラをご存じですか?」
「ああ、知っておる。光属性を持つ勇者様じゃな。今のお主では雲の上の存在じゃ」
「………」
雲の上の存在……確かにその通りだ。
自分は未だに魔眼を開眼できない。
何かきっかけが必要なのかもしれないが、自分は所詮、僅かに上位魔族の血を引いた半端者という訳か。
「お主はまだ若い、魔眼を開眼するときは必ず来る。
そして儂の情報では遂に魔王が魔界より軍勢を引き連れて来訪するという。
その名は大魔王コールド……自然エネルギーの一つで氷を操る大魔王じゃ」
アーロンは険しい顔をして言葉を吐く。
大魔王の軍勢……それも自然エネルギーの使い手。幼馴染の少女ライラは勝てるのだろうか。
「大魔王コールド……」
「そうじゃ。大魔王コールドは氷属性の魔王じゃ。
氷の魔物の軍勢を生み出し、世界征服を成し遂げようとしておる。
儂はもっと以前から大魔王コールドの存在を掴んでいた。
儂もその為の対抗策として異界より、大魔王コールドを倒す為の人材を召還する召還魔法を編み出した」
アーロンは何でも知っていた風に話した。
流石大賢者アーロンだとトムは目の前の老人の有能ぶりに唸った。
「じゃあ、早く召還してください」
トムは召還魔法を急かした。
「うむ。だが、召還魔法というのは危険を伴うものじゃ。
召還した人物が言う事聞かなければ本末転倒……だから儂は躊躇しておる」
大賢者アーロンは意外と慎重な人物のようだ。
だが、アーロンの口ぶりでは強力な人物が召還できるようだ。
「まあいい。召還魔法を使うときは本当に村に危機が訪れた時じゃな。
今日は儂の家に泊まるが良い。あの男……お主の父アレクは何か重大な秘密を抱えている。
それが透けて見える。『魔将』アレク……あの男は十大神天王……世界の十人の達人の中の一人。
その中でも三番目に強い。お主にとっては父じゃが、危険な男にしか見えん」
アーロンは父アレクを危惧していた。
『魔眼』のアレク『魔将』とも称されるのはトムでも知っている。
でも、トムから見てもアレクは不審だった。
いつも無表情で淡々としていて美麗な顔を覗かせる佇まい。
そしてトムは幼い頃、母を亡くした。
そんなトムを育ててくれたのもまた父アレクなのだ。
考えている最中にトムは眠くなってしまい、気付いたら朝を迎えていた。