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こちらは、リアムくん視点となっています。
……昼下がり。昼食も食べ終わり、今日は何も予定がない僕は、読書を楽しむべく、自分の部屋に閉じこもっていた。
この部屋は、元は蔵書室であり、読める本はたくさんある。自分の部屋を移動したいと僕が我儘を言って、今は僕の部屋だ。
僕は本棚から本を2冊見繕うと、すぐそばにある読書用の机に置いた。今日は植物学の本と、錬金の伝承の本……錬金、錬金か。
錬金は特別な血と特別な家名を合わせ持つ人物にだけ発現する、この世界の不可思議の一つ。錬金術はいわば世界における最終手段とされている。ある国では奴隷のように扱われる事もあるし、またある国では宗教と結びつき、一切の自由を奪われる。
ここ、フェルロニア王国では国に囲い込むために、世界にある五大家の一つ、ワイズマンの家が貴族として扱われているが、国から出る自由はない。
そういう意味においては、世界に翻弄されてしまう、そんな運命を背負った不遇の家と言ってしまっても過言ではないだろう。
僕が静かに錬金の本を読み進めていると……ふいにトコトコと窓が音を鳴らし始めた。はじめは風が窓を揺らしているのかと気にしないでいたが……そこから物凄くトコトコトコトコと断続的に鳴り続けている。
……あぁ、この良く分からない現象は……。
僕は本を一旦傍に置いて、窓に近づいて様子を見てみると……。
うん、自信満々な顔をしながら相変わらず良く分からない魔法を使っている、本に書かれた噂の錬金伯の娘さん……。
「よっ、リア。遊びに来た」
「……シャーリー。また一人で来たの?まったくもう……」
僕はシャーリーに手を伸ばして、家の中に引っ張り上げた。さて、この子は今日はどんな事をしに来たのか。この前は新作の魔法の発表……586ヘルツ、なんか癒されるかもしれない音が出る魔法だったか。ヘルツってなんだ……。
しかし、この子の魔法はなんというか、こう……えっとぉ……うぅん……そ、そう、独創的だ。しかし、他の人がコレを真似しようとすると、とんでもなく難しいどころか、真似ができない。そんな魔法ばかり使う子なのだ。爆発とかしませんように……。
「で、今日はどうしたの?」
「俺の自立計画について話に来た!」
「自立……?」
……なんだろう、もっと大変な話をしに来たような気がするぞ?
「あしながおじさんとなるためには資金力が必要なのだ!だから、安定した収入を得るため、起業する必要がある!」
「起業!?」
き、きぎょっ……起業……。起業って……これはまた……。
「……ほら、椅子。座って」
「あぁ、あんがと」
えぇ……ほんとこの子はとんでもない事をさらりと……いや、あしながおじさんを諦めていなかったのはなんとなく想定内だったが、そのために起業??
ま、まじで言ってる……っぽいですね。目がキラキラと輝いている。シャーリーがこの目をしているときは、大体物事に情熱を注いでいる時だ。
ともかく、詳しい話を聞いてみないと……。
「えっと……とりあえず、全部話してみて」
「あいわかった!」
―――……。
うん、一通りのやりたい事は聞いたし、色々なツッコミはしたが、やっぱり考えを曲げるつもりはないらしい。いや、本当にどうすんだこれ。
そして、シャーリーの事だ、今すぐにでもその準備を始めたいのだろう。ただ、単純に僕に報告をしにきたのだろうか?いつものように「リア、見てみて!魔法出来た!」ではないから、何とも言えない。
「えっと……僕にどうしてほしいの?」
「一緒に起業しよ?」
「お、おーう……」
……ま、マジか……マジかぁ……。
まぁ、第三者的な目線で行けば、事業展開するにしても、うちの領から発信していくことになるだろうから、経済が潤うのは大歓迎だろう。
しかし、例えば扱うものが中毒性があったり、社会秩序に多大な影響を及ぼすような物を許可するわけにはいかない。
シャーリーは悪い事はしないだろう、そういう子ではない。だが、無自覚に社会秩序に影響は十二分に及ぼす可能性がある。恐らく、父上も同じような所感になるはずだ。
しかし、僕個人の感想で言えば……シャーリーを応援したい気持ちはある。
シャーリーは、優秀な錬金伯の子の中でも、言動や行動は置いておいて、飛びぬけて優秀な子だ。
現在すでにほぼ一人前に錬金術を使いこなし、あと数年もしないうちに父であるロレイアス氏の腕を超えるだろう。このまま、彼女の腕が知られれば、大錬金術師と呼ばれる事になる。しかし、そうなってしまえば、将来もっと厳しい監視もついてしまう。
だから、今まさにレインズ伯内で緘口令が敷かれているような子である。少しくらい好きにさせてあげたい。
……けど、起業……起業かぁ……。それはちょっと……なぁ……。
「……そんなすぐには決められないよ」
「むう。プレゼン不足か」
「いや、そうじゃなくて」
しかし、シャーリーを説き伏せるというのは至難の業だ。ディアスさん、ティアナさんあたりならもしかしたら説き伏せられるのかもしれないが、それでも結局従ったフリして続けていたりするから……一度決めたらなかなか曲げない。それでいて、行動力の化身みたいな子だから、放っておくと大変な事になる。
はぁ……そうしたら、僕が暴走しないようにしっかりと面倒を見てあげないといけないかも。
「わかった……じゃあ、協力はするよ」
「ほんと!?やったぜ!リア、大好き!!」
「あぁ、コラ。だから気軽に異性に抱きつかないの。まったくもう……」
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