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……―――道中色々とあったが、無事、例の空き家が見えてくる所までやってきた。
町はずれという言葉よりもっと外れたかなり辺鄙な場所にあるようで、後ろを振り返ると、最後にすれ違った民家が結構遠くに見える。
肝心の空き家は、小さめの家で、縦に少しだけ長い。2階建てだろうか。建物の前には立ち入り禁止と書いてあり、お触れの通り、誰も入ってはいなさそうだ。
閉じられていた門を潜り抜けると、家の周りは草が生え放題で、端には蜘蛛の巣が掛かっている。所々にある柵や石畳もボロボロで、長い間放置されている事が分かる。
うん、ゴーストが出ると言われてもなんの違和感もない家だ。お化け屋敷的な雰囲気がある。
「さぁて、鬼が出るか蛇が出るか……」
「ゴブリンもランドスネークも出ないよ、居るのはゴースト」
「物のたとえだよ」
俺が意気揚々と扉を開けようとしたところ、後ろから姉上に体を掬い上げられ、ストンと後ろに下された。
どうやら「危ないからダメ」という事らしい。うーむ……まぁ……仕方ない。ここは姉上に任せる事にしよう。
姉上は俺に「めっ」と軽く叱ると、振り返ってそっと戸に手をかけて、ゆっくりと扉を開けた。中は……埃だらけだが、家具がそのまま置いてあるようだ。
「デテ……イケ……」
……姉上が一歩家の中へと歩を進めたところで、家の奥から頭の中に響くような声が聞こえてきた。ゴースト……やはり、住み着いているようだ。
そして、姉上がもう一歩踏み込もうとしたとき……物凄い風と共に、白い氷塊が目の前から飛んできた。
「っ!下がって!」
姉上は腰に差していたレイピアを抜剣すると、飛んできた氷塊を2個、3個と切り落とし、前へと構えた。
うお、すげぇ……。
俺とリアは言われた通りに少しだけ後ろに下がり、近くの茂みの中から姉上の様子を見守る事にしたが……。姉上が扉から離れると、その氷塊は飛んでこないようだ。また、もう一度扉に近づいて、2歩目には突風と氷塊が飛んできている。
んー……?なんというか……。
「……ねぇ、リア」
「うん?」
「あの攻撃……なんというか、手加減してない?」
「手加減?」
感じた違和感。あの氷塊だが、恐らくは魔法で作った感じのものなのだろうが、精度が甘い。
姉上の動体視力やら反応速度が半端ないにしても、当たっても大した怪我にはならないようにわざと柔らかくしてあるような……。
そう、そもそも氷塊と言ってはいるが、白く濁っており、なんというか、雪玉に近い気がする。レイピアでも十分叩き斬れ……いや、レイピアで叩き斬れるのは姉上だけな気はするけど。
それは置いておいて、突風に関しても、あんなわざと押し出すような風にする必要性を感じない。精度を上げて研ぎ澄ませば初級でも肌を切れるくらいの風になる事は薄っぺら魔法入門の本に書いてあった。
「……うーん、もしかして」
「え?ちょっ、シャーリー!?」
俺は茂みの中からすっと立ち上がると、そのままたったと姉上に走って近づいた。
「こ、こら!危ないから下がってなさい!」
そして、今しがた攻撃が止んで、臨戦状態だった姉上の警告を無視して扉から2歩ほど前に出た。
「デテイケ……」
……と、言われたが、そのまま歩を進めてみる。
「で、デテイケ……」
もう一歩。
「で、デテイキナサイ……」
うーん、もう一歩!
「コ、コラ。ハイッチャダメ……」
……うん、なんというか……。
相手が帯刀した姉上だったから、それなりに攻撃したのだろうが、姉上よりも小さい丸腰の俺相手だとまったく魔法が飛んでこない。ゴーストは思念の残滓という割に……明確に意思を感じるんだけど……。
俺がスタスタと家に入ったと同時に後ろの姉上にひょいと抱き上げられたが、結局そこからも攻撃は飛んでこないようだ。
「ハイッチャダメって言ってるでしょう!」
「んわっ!?」
すると、どこからともなく、空中に女性の姿がふわりと浮かび上がった。ご、ゴースト……?
なんというか、ゴーストというのは初めて見たけれど、こんなにハッキリバッチリ人の姿が見えるものだったのか……。
そのゴーストは、黒い長髪に黒い耳、ローブ姿のラブラドール種の女性だ。恐らく、20代後半か30代くらいだろうか。
「まさかこんな小さな子が脅かしても入ってくるなんて思わなかったわ。はぁ……」




