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「ええと、武器用のニトロンと、ポーションと……」
アメリースでの買い物から一週間後。ついに例の空き家に行く日だ。俺は準備の為、アトリエでポーチの中に、物を詰められるだけ詰めていた。
ちなみに、ニトロンはガラスのような見た目をした錬金術製の爆弾である。威力は大体その辺の小さな岩であれば壊せるくらいの軽いものだ。
…………まぁ、ゴーストに物理的な攻撃が効くとは思えないけれど、一応……。
あとは、ポーション類に、真っ先に研究したいから例の石と麻布と、変装用の服……まぁ、こんなものだろうか。
さて、あとは……抜け出しの準備である。今日は勉強はお休みの日なのだが、アイダの目をすり抜けるため、今日はアトリエに篭って一日中勉強ということにしてある。そうでもしないと母上やアイダに話が行ってしまうからな、事は慎重に進めよう。
と、そうしたら、まずはこの扉の隅にあるレンガをどけ……と。
実はこのレンガに細工を仕掛けてある。取り外せるようにレンガの目地材を溶液で溶かし、代わりに見た目は同じだがぷにぷにした質感のものを取り付けてあるのだ。
なので、ここは丁度俺一人くらいならば抜けられるというわけである。ふふ、この屋敷にこの手の細工はいくつか施してあるが、そのうちの一つだ。
俺はささっとレンガを積みなおして、証拠を隠滅すると、アトリエの裏手を見つからないように走り出した。さぁて、レインズ家に急ごう。
庭の端を抜け、正面の玄関口ではなく、使用人さん達の通る道を抜け、通りに出ると、あとはいつもの脇道を使ってっと。
ふっふっふ、基地が手に入ると考えると足取りも軽い。と、スキップしながら小走りしていたら、あっという間にレインズ家のお屋敷に着いた。
ここもいつも通りに正面の門ではなく、向こう側の塀をよじ登って、あとはリアの部屋に転がりこむだけだ。
窓は……お、開いてる。
「リアー?」
俺が小さい声でリアを呼ぶと、窓からいつもの顔が現れた。なんだよその「やれやれ」とでも言いたそうな表情は……。
「シャーリー……やっぱりこっちから来るんだね」
「そりゃ、秘密だし」
「はぁ。ほら、引っ張り上げてあげる」
「さんきゅー」
リアに引っ張り上げられ、部屋に上がった俺は『クリーン』の魔法を使って、全身の汚れを落とすと、背負っていた鞄を傍に置いて、中身を開けた。
「相変わらず器用な魔法……」
「ん?クリーンの事?やるなら教えるぞ?」
「いや……普通に使うのは無理だよ……」
「そう?」
むう、折角広める良いチャンスだったのだが……まぁ、無理強いはしない。それに、今日の目的は魔法の講習じゃないしな。さて、まずはこっちの服に着替えないと。
「ちょ、ちょっと!シャーリー!なに脱いでるの!」
「え?変装……」
「あーもー!わかったよ!僕あっち行ってるから!終わったら呼んで!!」
そう言うと、リアは踵を返して部屋を出て行ってしまった。裸になるわけでもないし、そんな気にしなくても……。
ま、いいや。それよりも早く着替えてしまおう。えーとシャツにオーバーオールに……あとは髪を一纏めにして、キャスケットの中にしまってと……。
「シャーリー、もう来てたのね」
俺がささっと変装を終えたところで、セリーン姉上が部屋にやってきた。そして、つかつかと俺のほうに歩み寄ると、そのまま俺の体を捕まえて抱き上げた。
ちょ、ナチュラルに抱き上げないでください。
「……いつもの服も可愛いけれど、こういうのもいいわね」
「おろして?」
一回ぎゅっと抱きしめてから名残惜しそうに俺を下した姉上は、廊下で待っていたリアを呼び寄せた。
……しかし、姉上の恰好だが、完全にドレスである。え、もしかしてこれで行くのか……?
後ろに立っているリアにジェスチャーで姉上の服を指さし、確認してみた所……んー?首を横に振ってらっしゃる。うむ、ぶっちゃけ意味は分からん。本人に聞こう。
「お姉ちゃん、その恰好で行くの?」
「あぁ……まぁ、町のゴースト程度なら装備はいらないわ」
「お、おぉう……」
さらりと言いのけた言葉の端に強者の風格を感じる……こ、これがレインズ伯家最強の娘……!
と、俺が目を丸くして姉上を見ていると、姉上がじとりと俺の顔を見つめて、手を伸ばしてムニムニと俺の顔をいじり始めた。
「……余計な事は考えないの」
「ふぁい、ふぉふぇんふぁはい」
その後、俺の頭を撫でて満足したのか、手を取ると、姉上はにっこりと笑った。
「……さて、それじゃあ行きましょうか」
「「はーい」」




