表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
2/25

===1===

 

 暗い海を抜け、気が付いたら、俺は別の世界にいた。


 俺の名前は……いや、以前の俺の名前は『葉加瀬 愛智』という名前だった。日本の社会人……といっても、まだ18歳だったけれど……。高校を中退して働かなければならないほど家計が火の車であり、いつもせかせかと動きまわっているような、そんな人間だった。


 さきほどから、「だった」と表現しているのは、つまるところ、俺は命を落としたからだ。


 死ぬ間際、何をやっていたかとか、死因はなんだとか、そういうのはあまり思い出せないが、前世として別の世界の人物だったというのは間違いない。で、この世界……地球のような名前が付いていない、未だ天動説な世界に、俺は生まれた。


 ……女の子として。


 今の俺の名前は「シャルロット・ワイズマン」という。何だかカッコいい家名になったものだが、この家は錬金伯と呼ばれている、錬金術を生業とする家らしい。そこの、末娘が俺、シャルロットだ。

 この家は代々土地を持たない家らしく、今はレインズという伯領に間借りをしているような状態になるのだが、財政はかなり良いらしく「裕福」と言ってしまって差し支えないだろう。

 しかし、錬金というのがまず胡散臭いと思ってはいたが、板金彫金や調剤調薬、果てには爆弾的なものを作れるようだ。実にファンタジーである。

 そして、なくてはならない……というか、今現在俺もなっているファンタジー要素が他に2つある。


 1つ目。それは、この世界の住人は、皆、頭に犬、もしくは猫のような耳、お尻に尻尾があるという事だ。特徴は体格などにも顕著に表れるようで、様々な体格の人がいる。そして、種族種別として、なぜか地球と同じ犬種や猫種と同じ名前が付いているのだ。

 ある程度法則は決まっているとの事だが、生まれるまではどんな種の子かはランダムのようで、顔立ちは似るようだが、家族の体格は結構異なる。


 父上、ロレイアス・ワイズマンは、リカントと呼ばれる、狼っぽい耳にごわごわの尻尾。その体格は錬金伯というより、戦闘伯なんて言葉が似合いそうな大男だ。

 母上、ラモーナ・ワイズマンはサルーキ。垂れた耳に線の細い体が特徴で、父上とは対照的な清楚系の美人である。

 あとは、俺より6つ年上のディアス兄さんとティアナ姉さん。二卵性の双子らしく、種が一緒で、ラフコリー。茶色と黒の髪に、大きな耳が特徴だ。

 で、俺……シャルロット。シャムと呼ばれる、犬系ひしめくワイズマン家に生まれた、唯一の猫系の種である。生まれた時「ちっさ!?」と驚かれたんだそう。


 ちなみに、こんなだと不義の子とかの判別って大変そうだなぁとか思っていたら、どうやら魔力を見て、個人を特定できるらしく、血液型だとかの代わりに使われているんだそう。俺はしっかりとこの家の人間である。


 さて、ちょろっと出てしまったが、もう1つのファンタジー要素が、魔力……そう、魔法である。


 文化水準で行けば、お世辞にも良いとは言い難いこの世界であるが、錬金術とは別に、魔法が存在するのだ。魔力は大小こそあれど、誰しもが持っているらしく、一般的には訓練すれば、自分に合った魔法をつかう事ができるようになるらしい。


 ……まぁ、簡単にまとめると……。


 わんにゃんワールドな魔法の世界に女の子として転生しちゃったぜ☆


 というわけである。死んでしまったものは戻せないのだろうし、今更前世に未練は…………未練、が…………。


 そう、あったのだ、1つ、デカいのが!大アリだったのだ!!


 皆さんは名作である「あしながおじさん」はご存知だろうか?


 凄く簡単な説明をすると、孤児である少女が、自分を支援してくれたおじさんに手紙を書きながら成長して、最後にはそのあしながおじさんであった男性と結ばれるという物語である。前世の幼いころに、児童文学として、この話を読んだ俺は子供心にこう思った。


「……究極の推し活では?」


 と。


 世間では男に下心があって、支援したのちに結婚したとか、そんな事を言われたりもする。


 勿論そういう見方だって、一種の文学としての側面であり、色々な意見があるのは当たり前なのだが、俺はそうは思わなかった。

 しかし、俺は何も原作よろしく結婚したいわけではない。俺には俺なりの「あしながおじさん」的美学があり、原作では最終的には愛ある結婚をするために正体を明かしてしまったが、俺的には最後まで正体を明かさないというのに美学を感じるのだ。

 こっそりと支援し、こっそりと推し活したその子の様子を遠くから後方腕組みスタイルで見守りたいのだ。


 つまり、無償の支援をしてくれる心優しいおじさん……しかし、身分や正体は決して明かさない。そんなミステリアスなシチュエーションを求めているわけである。

 で、支援した人物の事は分からないけれど、ぼんやりと「あしのながいおじさんだったなぁ」という感じに、見てもらえるのがベストな塩梅である。完全に無視だと寂しいから、たまには思い出してね!


 前世では、それはやる前に……やれたかどうかも分からないけれど、父の蒸発、母の浪費癖のせいで、結論、自分はバイトや家事、仕事に忙殺されて、推し活らしきことは一切できずに死んでしまった。


 ……だがっ!今回は時間もたっぷりあるわけなので、そんな「あしながおじさん」として、暗躍をしたいわけなのである!


 ん?キモイ?なんとでも言うがいい。俺は「あしながおじさん」になるぞ!!十二分に推し活するんだ!!


 ……足も長くなければ、いっそ女の子なのは、追々考えることとする!!


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ