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===17===

 

 ―――……3の月、18日。今日も徴税の成果は芳しくなく、このままではこれまで続けていたこの日記も買えなくなりそうだ。しかし、今日、何やら不思議な儲け話があった。

 午後4時頃、とある婦人が家を訪れた。修道服のような真っ黒な装束のラブラドール種の婦人だ。随分焦っているのか、私に『この石を買ってくれないか』と、扉を開けるなり迫ってきた。

 それは、灰色の石。綺麗に研磨されているようだが、そこいらの河原にあるようなただの石である。

 しかし、その婦人がどうにも真に迫った表情をしていたので『いくらだ』と尋ねると『10アイン』だという。10アインなどでは、パン一切れ買えないだろう。そんな値段で売りに来るとは、一体何を考えているのだろうか。

 私はすぐに断ろうとしたが、婦人は続けて『後日、それを20コルンで買い取る』と続けた。なんと、10アインが20コルンになるのだという。私は訝しく思いはしたが、街の財政は火の車である。10アインならばたとえ詐欺紛いのものだとしても痛手はあるまい。

 私は婦人に「買い取ろう」とその場で許諾し、受け取った石を赤染の麻の小袋に入れ、2番目の戸棚にしまっておいた。これが少しでも街の財政の足しになればよいが……―――。


 この国……いや、この周辺の国々の通貨だが、アイン、フロン、シルン、コルンと硬貨に名前がついている。一概には言えないが、ざっくりと前世で言うところの円通貨1アインが1円、1フロンが100円、1シルンが1000円、1コルンが10万円という感じである。

 つまり、この日記の内容的には10円が200万円になる、という実に胡散臭い話だったようだ。そういえば、赤染の麻の小袋って、確か箱の中に入っていた気が……。

 俺は本を横に置いて、再度箱の中身を確認すると……やはり、端のほうに例の小袋が無造作に入っていた。

 というか、他の小物も使い古しの万年筆だの、帳簿を留めてたであろう留め石だの、煤のついた燭台だの、いかにもその町長が使っていたであろう物がまとめて入っている。

 ……これって、もしかして、財政が悪かったらしいその町長の遺族が中身をよく確認せず、そのまま売り払った……物な気がする。売れそうなものを乱雑に集めたのだろう。

 俺は折角だからその詐欺に使われたであろう石ころを拝んでやろうと、小袋を箱から取り出して、中身を確認して見ると……。


 …………ほぁ?


 中から出てきたのは、虹に輝く丸い宝石……店の外からの光を反射し、渦を巻くように光っている。え、いや、滅茶苦茶高そうな宝石が出てきたんですけれど……。


「おばちゃん、これいくら?」

「……見たところ、磨かれてはいるようだが、そこいらの河原の石だな……まぁ、良くて1フロンくらいか」


 …………おん?


「ねぇ、カーク。この石って……」

「……見たところ、ただの石ですね」


 ……これは……どうやら俺以外にはただの石に見えているらしい。


 詳しく観察してみると……中の虹色の光の揺れと連動するように、指先に微弱だが、感触を感じる。このグネグネっとした感じは……魔法を開発しているときに体に感じる魔力の流れに似ている。どうやらこの石、何かしらの魔法が込められているようだ。

 ……物に魔法を封じ込めたり、付与したりなんて、この世界では一つを除いて見た事が無い。その一つとは、錬金術。ポーション類など、アレには魔力が込められている。

 もしかして、錬金術由来のものだろうか。しかし、こんな石を作ったところで大したメリットも無いだろう。うーん……なんだろ、これ。

 とりあえず、ティアナ姉上に見せてみたい。錬金術由来の物ならば、恐らくはティアナ姉上にも虹の宝石に見えるはずだ。


「おばちゃん、この日記と、布の袋と、この石って全部でいくら?」

「1コルン」


 ……吹っかけてきやがった。石だけにしようかとも思ったけど、流石に誰かの日記を売り物にしておくのも忍びないから全部買おうとしたら、どうやら俺の身なりを見て多めに取ろうとしているらしい。


 ははぁん、そっちがその気ならこっちも前世で培った節制と値切り術を使って対抗しますが???


「えぇー?これ日記だよ?箱が店の奥にしまわれてたって事は誰も買ってなかったんでしょ。10シルンくらいでどう?」

「! ふ、バカ言うんじゃないよ。紙は貴重だ。それが日記であれ好事家には売れるだろうさ。80シルン」

「いやいや、年代物のわりには保存も杜撰だし、好事家だってもっと装飾のついた綺麗な本を買うよ。20シルン」

「はん、お嬢さんには分からないだろうが、箱にしまってあるだけでも上等なもんさ。野ざらしだってあり得る。75シルン」

「いくら箱にしまってあっても、骨董価値は低いでしょ。中を確認したけど、本当に出納帳のような日記だったしなぁ。30シルン」

「この箱の品はアタシが店を継いだ頃からあるもんだ。それなりに骨董価値はあるはずだ。50シルン」

「んー……。向こうの店のこれより小さい本でも、もう少し安かったからなぁ。35シルン」

「……40シルンだ、これで底値だろ?」

「40かぁ。じゃあこの万年筆と燭台もつけて?」

「万年筆だけだ。これ以上はまけらんないよ」

「よし、それで買った」


 へっへっへ。10万円を4万円に値引いてやったぜ。

 本当はもう少し行けるかと思ったけれど、紙が貴重は事実なんだろうし、日記もつけると高くなるのは想像していたし、仕方がない。まぁ、この日記と万年筆は、もしベルスダンがまだ存在しているならば遺族に一緒に埋葬してもらうなりしてもらおう。存在していなかったら……俺の方でお焚き上げとしよう。

 俺はカークに持ってもらっていた小袋の中から、40枚のシルン銀貨をひぃふぅみぃと数えながら取り出して、傍にあった古い木の椅子に置いた。


「じゃ、これ貰ってくね。お代はここ置いとくから」

「ああ、毎度……待ちな、お嬢さん」

「うん?」


 俺が日記をカークの下げている鞄に詰めてもらっている時に、後ろから店主のおばさんが俺を引き留めた。お、なんだ?やるか?相手をするぞ、カークが!!


「なかなか面白い商談だった。暇ならまた来な」

「ん?うん、わかった」


 何だか満足気な顔をしたおばさんが俺に笑いかけてくれた……初めからその笑顔で接客すればもっと儲かるのに。

 ともかく、鞄にものを詰め込み終わった俺は、おばさんに「またね」と手を振ると、カークを引き連れて、姉上たちがまだいるであろう建物へ引き返すのだった。


「お嬢様……」

「なに?」

「なかなかに、逞しいのですな」

「へへー、それほどでも」


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