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本屋を後にしてしばらく…………。
ティアナ姉上は、最近は刺繍にハマっているらしく、やってきたのは手芸用品の置いてある小物店。棚にはビーズや植物をモチーフにした小物など、可愛らしいものが置かれている。
さすが姉上、趣味が可愛らしい。楽しそうにどれを買おうか選んでいる姉上を後方腕組みスタイルで見守りつつ、俺は後ろで待機していた。
「シャーリーは何も選ばないのかしら?」
「え?あー、その、ほら……」
ティアナ姉上ときゃっきゃと物を選んでいたセリーン姉上は後方で何もせずにじっとしている俺に気が付いたようで、気を掛けて話かけてきた。
お、おう。俺は刺繍の趣味は無いから今の所、糸やビーズを見ても何が良いかもさっぱりだから、回答が随分濁ってしまった。正直、このまま二人の世界に浸ってもらって、俺はその場でそれを鑑賞しているのがベストだったのだけれど……。
俺がまごまごしているのを見て、セリーン姉上は俺の両脇に手を回してひょいと持ち上げると、商品棚の近くにストンと下した。あの、猫じゃないんだから……。
「ほら、これなんか可愛くない?」
そして、見える位置にあったリモの花と葉の型をしたブローチを指さした。
まぁ、かわ……いい?の、だろうか。ぶっちゃけ良く分からん。横の角と羽の生えた小動物っぽい奴の方がなんとなく可愛く見えるけど……。
「こっちは?」
「……あぁ、カーバンクルね。見た目は可愛いけど、狂暴なのよね」
「きょ、きょうぼう……」
銀のような素材で象られた小動物はどうやら魔生物の一種らしい。
魔生物とは、この世界でありふれた生物だ。唯一違う点としては「穢れ」という原理は解明されていないものを浴びすぎると「魔物」という災害に変化する事だろうか。
というか、そんなのブローチにするなよ……。
「まぁ、見た目は本当に可愛いから。魔物になってしまった時に、討伐を躊躇う人もいるのよ」
俺が微妙そうな顔で眺めていたのに気が付いてか、セリーン姉上がフォローを入れた。
「討伐……俺、見たことないんだけど、強いの?」
「カーバンクルの魔物はそこまで強くないわ。その一段上のヴォルフになると、厄介かしら」
「へえ」
討伐とは災害を未然に防ぐために行われる、いわばモンスターハントである。災害を未然に防ぐために融資、討伐隊の編成をするのは方々を領地として持つ貴族の役目というわけだ。
だから、リア達レインズ伯の兄弟達は、戦時でなくとも、武働きのために剣などの武術を習ったりしている。あとは、民間で軍事会社のようなものもある。いわゆる傭兵という奴である。こちらも貴族に帯同したり、護衛任務を請け負ったりしているようだ。
……ちなみに俺達ワイズマン家は随分特殊な位置にいる貴族なので、武働きは期待されていない。領地もないしね。
「もー、お姉ちゃん!折角遊びに来ているんだからお仕事の話は今日はなしね!」
「まぁ、ティア。怒った顔もかわいいわ……じゃ、なくて。そうね、ごめんなさい」
俺達が手芸に似つかわしくない話をしていたせいか、ティアナ姉上がぷんぷんという感じに可愛く怒った。
うむ、カワイイ。圧倒的可愛い。やっぱり可愛い担当はティアナ姉上である。だから俺、今のうちにコッソリ逃げますね!
と、心の中で言い訳をしつつ、俺はすすっとジャパニーズニンジャのようなすり足で、足音を立てずに2歩3歩と後ろにさがると、機を見て、しゅたたと後ろで護衛として立っていたカークに駆け寄った。
「カーク、後ろかくして!」
「……え、えぇ」
俺はカークのマントの後ろにすっぽりと身を隠すと、少しだけ顔を出して、姉上たちの様子を伺った。二人は、まだ俺がススっといなくなったことに気が付かず、談笑しているようだ。
ふむふーむ。ピレニーズ種のカークはやはり大きい。俺くらいのサイズだったらすっぽりと後ろに隠れられる。
さて、見つかっていないようだし、そしたら少しだけ抜け出してしまおう。実は先程、面白そうなお店を見つけてしまったのだ。
「ねぇカーク。俺、隣のお店見たいんだけど、一緒に来てくれない?」
「……え、えぇ……えぇ?わ、私ですか?」
「おねがい!ちょっと抜け出すだけだから!」
「う、うぅむ。わかりました……」
カークは戸惑いながらも俺を隠しながら頷いてくれた。ふっふっふ、カークなら話を聞いてくれると思ったぜ。アイダだと「ダメです」って言われるんだもの。
俺はカークの背中のマントに隠れながら、そそくさと店から抜け出すと、外に出たのを確認して、カークに「あっち」と指をさした。




