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道中は特に問題……いや、1つだけ問題があったが、無事アメリースについた。その、問題というのが……。
「うえぇ……やっぱりお尻が痛い……」
土道を馬車で揺られたせいでの、お尻の痛さだ。へたっているなぁとは思っていたが、油断は命取りだったようだ。オレがお尻を気にしながら上へ横へと体を伸ばしていると、後から降りてきた姉上たちもやってきた。
「シャル、大丈夫?さすったげようか?」
「いや、お尻撫でられても困るから……」
そんな高度な変態のような事、ティアナ姉上にさせるわけにはいかない。俺は自分でしわになっていた衣装の裾を軽くはたいて直して、姿勢を正した。
「さて、セリーンあ……お姉ちゃん。どこいくの?」
「まずはー……アレね」
「アレ?」
セリーン姉上がすっと視線を向けた先には……『七色の陽光』と書かれた看板……。
店は結構な大きさであり、窓の多さからなんとなく裕福さが伺える。店の前にはずらりと人の列が出来ており、そのほとんどが女性連れか、女性だけかという構成だ。な、何の店だ?
「わぁ!」
そのお店に反応したティアナ姉上が黄色い声を上げて目を輝かせた。どうやら、有名な店らしい。
「ねぇ姉上、アレなんの店?」
「あ、シャルは知らないんだ。『七色の陽光』セブンスシャインは、最先端って言われている服飾のお店だよ」
「ふ、服……」
ふ、服……服、だと……え、ソレ絶対ドレスとかじゃん……い、嫌だ、コルセットは嫌だ……あれでまた腰を締め付けられたら俺もう動けないじゃないか。これはなんとしても回避しなければ……!
俺はセリーン姉上よりも我儘を聞いてくれそうなティアナ姉上を仲間に引き込むべく、ティアナ姉上の服の裾をちょこっと掴んで、くいくいと引っ張った。
「あ、あねうえぇ……俺は服やだぁ……」
「はうっ、そんな顔しないで……という訳なんだけれど、セリーンお姉ちゃん……」
「あらぁ……大丈夫。コルセットは着ないわ。シャーリーは、お茶会の時にいつも苦しそうにしていたでしょう?だからコルセットに頼らなそうな服があれば良いかなと思ったのよ」
……どうやら俺の為だったらしい。いつも具合悪くしていた俺がコルセットを嫌がっていた事もお見通しだったようだ。
ま、まぁ、あの最悪な淑女教育の苦痛の一つが無くなるのであれば……やぶさかではないか。俺は、頭を撫でているセリーン姉上に、分かったというようにコクリと頷いた。
「よかった。じゃあ行きましょ。予約を取ってあるから列に並ばなくても大丈夫よ」
セリーン姉上はそのまま俺をひょいと抱きかかえると、スタスタと店の方へと歩き始めた。え、このまま入店するんすか?あっ、するんすね……。
抱きかかえられたまま、お店の前までくると、髪を一つに束ねた若い店員さんが、俺達に気が付いたようで、深い礼をしてから、ドアを開けてくれた。そのままドアをくぐると……シャンデリアの吊るされた広いホールが見えてきた。なるほど、この世界でこんな感じでホールがあるような店はほとんどない。
それどころか、大体お金持ちの服選びとなると、大体店に通うのではなく、店を呼び出すのが一般的だ。しかし、このセブンスシャインはあくまでお店まで足を運んでもらう事を主眼に置いているようだ。
きっとこのお店は色々な客層に門戸を開いている事だろう。確かに、色んな意味で「最先端」と言ってしまっても過言ではなさそうだ。
「シャーリー?さっきからきょろきょろしてるみたいだけど……何か気になるの?」
「ん、んー」
「……あ、コレ聞いてないわね」
ふむふむ。エントランスから中で売り物である服が映えるように飾られており、そこから奥行に伸びるように服が置かれている。
なんというか、お客さんの目線をしっかりと把握した造りをしている気がする。これは本当に服飾の人が考え出したのだろうか?だとしたら、凄い才覚だ。
これは、そのうち俺があしながおじさんとしての第一歩である事業にも応用できそうだ。思わぬ収穫だ。それにしても、店……店か。気楽に始められるとすれば小売店のような小さな商店からになるのだろうか。
まだこの国の商取引の方法は良く知らない。どこかで勉強しなくては。で、もし店を構えるのであれば立地も考えないと―――……と、いけない。今はセリーン姉上との買い物中だった。
「お姉ちゃん、もう抱っこはい……あれ?いなくない?」
俺は、カーテンに覆われた小さな小部屋の中、木で出来た小さな椅子に座らされていた。周りに姉上は居ない。それどころか……体に違和感が……って。なんか、着せられてないか……?
腕をすっと動かすと、薄いピンク色の服。袖はフリルでふわふわに仕上がっており、いわゆる、萌え袖のような感じにぶかぶかだ。
下に視線を落とすと、すっごくフリル。少し膨らんだスカートに、小さなリボンがあしらわれていたり……まるでフランス人形のようだ。頭にも、何かヘッドドレスのようなものが付いている気がする……いつのまに。
俺が困惑していると、シャッと前のカーテンが開いて、目の前に可愛らしい小動物のぬいぐるみを持ったティアナ姉上が現れた。
「あ、シャル。これ持ってね」
「え?う、うん」
ティアナ姉上はそう言うと、手に持っていた小動物のぬいぐるみを俺に差し出した。ティアナ姉上だと片手に持てるくらいだけれど、俺の背丈だと、両手で持たないと……っていうか、袖のせいもあって、そもそも抱き込まないと保定が出来ない。
俺がぬいぐるみを抱き込んだのを確認すると、わなわなと口を歪ませて、心底楽しそうな顔をした姉上が半開きだったカーテンを全て開け放った。
「「「キャーッ!!かわいい!!!!」」」
……と、カーテンの前にスタンバイしていた複数の店員さんと、セリーン姉上が一斉に黄色い声を上げた。え……ナニコレ、俺どうなってんの?
「本当にかわいい!妖精さんみたいだよシャルぅ!ほら!」
ティアナ姉上はそういうと、お店の備え付けであろう中くらいのスタンドミラーを俺の目の前まで持ってきた。
……そこには、フリルのついたヘッドドレスに、薄緑と白のコントラストの映えるフリフリのドレスを着た猫耳少女が可愛いぬいぐるみを抱えて、キョトンとした顔をしながら座っている様子が映っている。
あ、遊ばれた……っていうか、最初からこれが目当てだったなセリーン姉上ェ!
「はぁーかわいいぃ……最高よ。それと、シャル?腰は痛くないでしょ?」
「むー……。む?確かに……」
「ここのドレスは無理に腰を圧迫しないような作りになっているの」
「へぇー……って、それとこの服は関係なくない?」
「……流石にバレたか。ふふ、これも報酬って事で」
む、むう。それを言われると、抵抗するわけにもいかない……。
「ふふふっ、次は何着てもらおうかしら」
「あ、それでしたらこんなお洋服が……」
「まぁ、良いセンスね!であればこのアクセサリと……あ、ティアにも着てもらおうかしら」
「わぁー面白そう!」
うん、俺そっちのけで向こうで盛り上がっている。ま、まぁ、これもあしながおじさんライフの為ッ……!今日着せ替え人形になるくらいなら……ッ!
俺は逃げ出したいのをグッと堪え、その場でぬいぐるみをぎゅっと抱きながら、大人しくしているのであった。




