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===12===

 

 週末。結局あの後すぐに使いの人が来て、ティアナ姉上に言伝をしたらしい。それに対し姉上は二つ返事で「OK」を出し、今は姉上と二人でセリーン姉上を待っている最中だ。


 本日は快晴、澄み渡るような青空であり、絶好の日和だ。外に出るからという事で、軽装であり、俺は熱中症にならないようにとつば広の帽子を被せられている。前が見づらい。


 ……しかし、当日になるまで結局今日何をするかを教えてもらえなかった。ただ「外にいくから身軽めな服装にしてね」とだけ言われたわけである。


 …………一体なにするつもりだろ?


「……レインズ家の方が、お見えです」


 俺が首を傾げていると、傍で控えていた護衛騎士が姉上に呟いた。彼は姉上の護衛騎士であるカーク・カーペンター。Gピレニーズ種の寡黙な大男だ。

 ……まぁ、実は恥ずかしがりやで、いつも前髪で目を隠していたりするちょっと可愛い人だ。ちなみに、アイダも傍で控えている。付かず離れずの位置に待機して何かあった時は駆け付けるというわけだ。


 姉上と俺はカークが手を差し出した方向を見ると、蜃気楼の向こう、遠くの方に馬車が見える。見覚えのある群青色の馬車……レインズ伯が私用で利用する馬車だ。

 馬車はゆっくりとこちらへと向かってくると、丁度俺たちの前あたりで止まった。すると、中から涼しげなドレスを着た姉上が御者の手を借りながら出てきた。うーん、優雅な所作だ。絶対に真似できないわ。


「ごきげんよう、ティアにシャーリー。今日もとっても可愛いわ」

「こんにちは、お姉ちゃん!」

「こんちわ……お、お姉ちゃん」


 ティアナ姉上はセリーン姉上に対していつもの感じでハグしに行って、撫でられている。よし、姉上を盾にして、俺はこっそりやり過ごそう。


「あらシャーリー。今日は大きな帽子を被っているのね。よくお顔を見せて」


 と、視界の悪い大きな帽子を使って俯き具合に気配を消していた俺だが、すぐさまセリーン姉上に見つかってしまった。帽子をそっと上に避けられ、日差しと姉上の顔が俺の視界に入ってくる。ん、とっても満足そうな顔をしていらっしゃる。


「はぁ、今日も小っちゃくて可愛いわ。本当に、食べちゃいたいくらい」

「怖いからやめて」

「冗談よぉ。ふふ、今日は一緒に遊びましょうね」


 セリーン姉上は機嫌良さそうに俺を撫でると、ひょいと俺を持ち上げた。

 ……そういえば、姉上。会うたびによく俺を持ち上げている気がする。ティアナ姉上は、鍛えられているのを知っているから特になんとも思っていなかったけれど、そう考えるとセリーン姉上も相当鍛えているという事なのだろう。

 うーん、俺も鍛えたい。何故か父上と母上からダメって言われているんだよなぁ。


 と、余談はさておき……これだけは聞いておかないと。


「今日は何をするの?」

「んー?アメリースでショッピングね」


 アメリースとは、レインズ伯領の隣のアメリアンス公領にある公領最大の都市の名前だ。

 公と称される通り、以前の王の血脈の公爵様の領地で、交易の要衝であり、商圏が集中した為か小さいながら非常に発達している裕福な領だ。この世界で言う所の『都会』に当たる。


 まぁ、つまるところ、都会で買い物という事だろう。身構えていたが、ただの買い物だったらしい。なら良かった。


「それじゃあ行きましょっか。シャーリーは……このまま私のお膝の上かしら?」

「い、いや……いい、です」

「あら、残念……。もっとお姉ちゃんに甘えてもいいのよ?」


 セリーン姉上は残念そうに俺をそばに下すと、入ってという感じに馬車のドアの方を手で指し示した。それに合わせて御者さんが、扉を開けてくれている。

 馬車のドアにはしっかりとレインズ家の家紋である、盾に鍵とレリリム……前世で言う所の百合のような花の意匠が描かれている。

 中は、お金持ち仕様のふかふか。少々年季が入ってきているから、少しへたっているが、それでも幌馬車とは雲泥の差だ。まぁ、道は当然アスファルトなんかあるわけも無く、土と石な訳で、これががったがたに揺れるから、これでもふかふか具合が足りないくらいだが……。


 それはさておいて、俺はルンルン気分で乗ったティアナ姉上に続いて、馬車に乗り込んだ。


「あ、シャル。一緒に座ろ!」

「うん」


 ティアナ姉上が横をぽんぽんと優しく叩いていたので、俺は姉上の横にぴょんと飛び乗るような形で座った。む、やっぱりへたってる。ちょっとお尻に衝撃が……。まぁいっか。


「仲がいいわね。羨ましいわ」


 それに続いて、セリーン姉上も馬車に乗ってきて、ティアナ姉上と俺の向かいの椅子に座った。すると、ガタンと馬車が揺れた。どうやら、荷物も積み終わったようで、出車したようだ。

 外を見てみると、斜め前のほうに、馬に乗ったアイダが見える。うーん……やっぱりメイド服なんだよなぁ。スカートで馬は流石に乗りにくくないのか……。

 しかし、前に一度聞いてみたら「下にレギンスを履いていますので、問題ありません。これが私の戦闘服なんです」と言っていたから、こだわりがあるのだろう。

 ……それはともかくとして、ここからアメリースまで結構かかるから、のんびりさせてもらおう。


 それにしても、買い物かぁ。まずはアイダやカーク、御者さんに差し入れを用意してー、俺は魔法関連の本がほしいなぁ。レインズ家の書庫にも魔法に関する書物はよくある教科書のようなものしかないし。専門書みたいなものから新しい魔法の知見が得られれば、また研究が進みそうだしな。


 ……あ、そういえば、あの魔法の反応について、まだ検証方法が足りてなかったなぁ。あそこの魔力の流れをこっちの魔力の流れに繋いだ時に―――……。


「あら、シャーリー。考え事?」

「んー?んー」

「あ、お姉ちゃん。この状態のシャルは多分何言ってもこんな感じで反応しないかも」

「そうなのね……なでなで……あら、コレでも反応無いのね」


 ……こうして、アメリースへの道中は穏やかに、かつ、丁度良い思案の場として進んでいくのだった。


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