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「さて、シャーリー。何を企んでいたの?」
「な、なーんにも?ただのセケン話ですヨー?」
見つかってから即座に俺はセリーン姉上に、詰められていた。どうやら話の端を聞かれていたらしい。俺は視線を全力で横に逸らしているが、姉上の疑惑の視線が突き刺さる……。
「いや、もう無理でしょ。姉さん、実はー……」
「あー!あー!あー!ダメだってばー!」
まだ事実を赤裸々に話される訳にはいかない!リアめ、こんなところで裏切りそうになりおって!早いよもうちょっと粘って!!
しかし、俺が全力で阻止したことで、さらに強い疑惑の視線がこちらに向けられている。ば、万事窮す……。
くっ……こうなったら……。
「あの……あのね。おねえちゃん……おれっ、じゃなくて、わたしね、ひみつきちがね、ほしかったの」
必殺中の必殺。あとからの自傷ダメージが半端ないから使いたくない秘奥義。その名も泣き落とし!上目遣いでちょっとだけ瞳を潤わせて、姉上の顔をじっと見つめる!おいそこで冷めた目で見つめているリア、後で覚えてろよ!
「……くぅっ、か、かわいい……ずるいわ、こんなのぉっ」
姉上は俺の迫真の演技に、顔を赤らめながらぎゅっと俺の事を抱きしめた……あ、あの、ぐるじいです離して。この秘奥義中の秘奥義。なんだったら今からでも穴があったら入りたい秘奥義はセリーン姉上には初めて使ったのだが、こうかはばつぐんだ。
なんだかんだセリーン姉上は俺とティアナ姉上には甘めである。
「もう、しょうがないわね。で、秘密基地って?」
「……ぶふぇっ。リアが、町はずれに使ってない空き家があるって……」
「あぁ。ゴーストが住み着いたとかで放置していたあそこかしら……で、子供だけでいけないから、護衛を探そうって事ね」
どうやらゴーストの出る空き家というのは姉上も知っていたようだ。あれ、意外と秘密じゃねぇな?
「……よしっ。私が護衛するわ。見に行くのはいつ?」
「え゛」
「あら不満?」
え、いやだって姉上……戦えるの?姉上は筋肉質ではない至って普通の健康的な女性という見た目だ。それに俺の前では、いつもお淑やかにしている印象だから、護衛なんて想像がつかない。
言い方はあまり良くないのだけれど、いっそそこいらに置いてある辞典のような本ですら「重たい」と言いそうな気がするのだけれど……。
「シャーリー。こっち」
「ん?」
俺が目を丸くしている所で、リアがこちらに耳打ちしてきた。
(姉さんはうちで一番強いよ。なんだったら下手な傭兵よりも)
「ほぁ!?」
リアから告げられたのは驚愕の事実だった。なんと、あのアンジェロ兄上よりも、セリーン姉上のほうが強いらしい。しかも、そこいらの傭兵よりも強いとの事らしい……え、嘘だろ。この体のどこにそんな膂力が……!?
あ、いや。もしかして、いつも俺が持ち上げられたり、抱きしめられて割と苦しかったりしているのって、単に俺が軽いとか潰れやすいとかではなくて、セリーン姉上やティアナ姉上が力持ちだったりするのだろうか。
「リアム?失礼な事は伝えていないわね?」
「ううん。姉さんはこう見えて強いよって言っただけだよ」
姉上はリアの耳打ちに少しだけ警戒したようだが、リアの言葉に「じゃあいいかしら」と呟いた。しかし、少々予想外だったけれど、何とか空き家の内見もできそうだ。丁度良いし、姉上のお言葉に甘えてしまおう。
「じゃあ、おねがい……」
「……あっ、でもぉ」
俺がお言葉に甘えようとしたところで、姉上がその言葉を遮った。むむ、何か不都合な事を思い出したのだろうか。そして、俺のことをちらちらと見つめると、にっこりと頷いてこちらに顔を近づけた。
「せっかくだから、報酬がほしいわ」
「ほーしゅー?」
姉上はそう言うと、ゆっくりと俺の頭を撫でた。報酬……まぁ、そりゃ護衛してもらうのだから、報酬があって当然か。
しかし、傭兵に勝る強さな姉上となると、報酬額は高くつきそうだ……うぅん。本当は手元のお金に手を付けたくないけれど、初期費用として見積もるべきだろう。
果たしていくらくらいなのだろうか。
「おいくら?」
「お金はいらないわ」
俺が値段を聞いたところ、姉上はそうではないと首を振った。どうやら金品が欲しかったわけではないようだ。そして、姉上は俺の肩に手を置いてまたにっこりと笑った。
「少しの間、おねえちゃんと遊びましょう?」
「…………あ、あそ……び?」
……な、なんだろう。悪寒がするぞ?
俺がぼわっと膨らんだ尻尾を後ろに隠した所で、姉上は「もう」と冗談っぽく怒ると、困ったような笑顔を見せた。
「怖い事なんてしないわ。シャーリーったら私の所に来てくれないのだもの。結婚したらあまり会えなくなってしまうでしょう?だから、ね?」
……俺自身、魔法の開発に熱中していたし、歳も離れているし、用事もあまりなかったから、淑女教育以外で姉上の所へあまり行かなかったのは事実だ。結局依頼にお金もかからないみたいだし、それならば良いだろう。
「ん……そういうことなら」
「ふふ、折角ならティアも誘おうかしら。楽しみね」
そこから、姉上とリアと俺とで3人で日程を話し合い、今週末は1日、姉上に付き合って、次の週末に空き家に行くという事になった。
今週末と急な日程なのは、ティアナ姉上が早くしないと王都の学園へ帰ってしまうからだ。まぁ、すぐ済むに越したこともないだろう。
「……あら、もうこんな時間。シャーリー、早く帰らないとラモーナ様に怒られてしまうわ」
「……あ、やば。それじゃあ俺帰るから、リア、後は任せた!姉上はまた今度!」
「おねえちゃん。」
「……せ、セリーンおねえちゃん、また今度」
「はい、またね」
俺は窓から身を乗り出して、とびお……りようとしたところ、姉上に「あぶないからダメ」と引きずり降ろされたので、リアの部屋からほど近い裏口のドアから屋敷を後にした。
ふっふっふ、ここから俺の起業計画の第一歩が始まる。ようし、これから頑張るぞ、目指せあしながおじさんライフ!
―――……。
「……乗せられてるなぁ、シャーリー」
「余計な事は言わないの」
「はーい」




