第一章 5【デバフ放浪者】
一回目の火球、というより俺がさっきから打ちまくっている火球は一つ残らず全て浮いている。まぁ正確に表現するなら『遅くゆっくりと前進んでいる』なのだが、この発生率は明らかにおかしい。このゆっくりと進む火球がミブの言うように失敗だとするなら、5回連続失敗率は…失敗率は…えぇーと、15%くらいかしら…だけれど成功だとしたらもっとおかしい。30%を5連続は…まぁ0でいいや、0じゃだめだ。0.3くらい?はは…俺の残念な計算パワーをみせたところで話を戻す。閑話休題ってやつ。『成功した火球』と『失敗した火球』なにか決定的な明確な違いがあるはず。俺はそんなことをつらつら考えながら柄を握りなおす。
「まぁ考えてもしかたないよな。お前ら倒して実験再開だ。」
俺の周りにはイノゴが群れを成していた。敵だらけで四面楚歌というより十六面楚歌。
「逃げるだけの俺じゃないぜ、周りに火球を残しておいた伏線の回収時だ。」
俺は突っ込んできたイノゴに剣筋と火球を合わせ『ファイアーソード』いや、『バーニングソード』を…『属性付与炎剣』を…やめよう。火で火力を上げた太刀を浴びせる。
眩しすぎる光が目の中に入ってきた瞬間、俺の意識は飛び、目を覚ますころには洞窟の中にいた。
――――――――――――――――――――――――
「…これが『死』ってやつ?」
俺が心の底で恐れていた『死』があまりにも唐突に降りかかり俺はなぜか安堵した。
「ダメージが感覚として伝わるこのゲームでの『死』はちょっと怖かったんだよな…手足…全身が痺れるくらいで助かったかな。」
説明書を読まないせいで全て俺による主観による考察になるが、多分あの時太刀が触れた火球は失敗していた火球で触れた瞬間に大爆発を起こしたのだろう。その証拠に経験値が一匹にしては多すぎる。あの場にいた16匹が死んだというなら納得できる経験値量だ。
「とりあえずステータス振るか」
俺は経験値を振ろうとステータス画面を開いた瞬間
≪王女の父 ケフェウス≫
と表記が出る。
「は!?俺準備も対策も何もしt」
ステータス画面を閉じ振り返ろうとした瞬間、俺の首から上は無くなっていた。
≪隠しアチーブメント『強者への試練』達成≫
≪パシッブスキル『弱者の徴』入手≫
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「うぁぁあああああ!」
俺は思わず首を触る。なにか、なにかがあることは分かるがそれしか分からない。手の感覚だけが現実世界にはあった。
「はぁ…はぁ…流石に首がなくなった訳じゃないよな…」
ヘッドセットを思わず投げ出し自分の家を見て安心する。
「脳に影響どころか心臓弱いと普通に死ねるぞ…これ…」
あまりにものめり込みすぎてゲームの死=現実世界でも死という事件が今までないのが不思議なくらいだ。
「いや…この第二の人生にのめり込む時点で現実でも死んでるみたいなものか。ハハ…」
それにしても、それにしてもだ。俺が死んだ直前に入手したモノはなんだろうか。気になるがBNTに対し少し恐怖心を抱いている。
「ま、まぁ死ぬのなら問題になっているはずだし、今発売されているのはおかしい。半年も経ってるんだ。これは俺がビビりすぎなだけだな…」
俺は謎を追求すべくヘットセットを装着した。
――――――――――――――――――――――――
俺は町にリスポーンしていた。
「ここ…『エスポワール』か?」
今度はまともな場所にリスポーンできたようだ。
「まずはステータスを確認だ。」
PN 恋咲
LV.1
STR 4 CON 8 DEX 9
INT 8 POW 4 LUCK 12
《特殊技能》
火球(30)
《能力》
弱者の徴
《装備品》
「始まりの装備」
※この装備はセットのため部分ごとに外すことはできない。
《所持品》
200アト 初心者向け魔導書
「…経験値無くなってね?」
俺はただ一つだけ増えた項目《能力》を見ながらぽつりと零した。
さっきの戦闘で俺は何を得たのだろうか。『下手すりゃ自爆する火球』『メイン武器にするには頼りない太刀』『よくわからない能力』…とりあえずはよくわからない能力の解析からだな。名前的に良い能力とは思えないが…
そんなことを考えていると電話が鳴りだした。ヘットセットを一旦外しスマホを確認する
『水俣袋渡』
と画面に表示されスマホはバイブレーションを続ける。俺は出ることにした。
「もしもし、恋窪?俺だけどBNTやらない?」
思いもよらない発言に俺は何と答えるのが正しいのか俺は反応が遅れる。
「恋窪?聞こえてる?」
「あぁうん、おけ、できる。」
「了解ッ!じゃフレコ送るからPN教えて。」
「PNはコイザキだから、よろしく。」
「おけおけ、じゃタイトってやつから申請来たら承認しといて~それ俺だから。よろしく~」
「んじゃ、先入っとくわ。」
「了解。」
俺はまたヘットセットを装着する。
≪フレンド申請通知≫
画面に表示させられているその通知画面を無意識の内に開き許可をした。テキストで画面…視界に文字が浮かんでくる。
「コイザキ?今お前どこ?」
「なう、エスポワール」
「了解、ちと待ってて」
二分もしないうちに水俣…タイトがやってきた。金髪になぜかキラキラしている目…顔から分かる聖人感。現実のこいつをそのまま金髪にしたようなデザインだった。
「おっす!恋…コイザキ!」
俺もこいつも本名で常に知っている分もPNで呼び合うのに妙な抵抗感がある。
「タイト…お前は『騎士』、『勇者』あたりか?」
「『騎士』だね。コイザキは…『狙撃手』だな!」
「流石俺のことを俺の次に分かってるだけある、だが残念。『放浪』だ。」
「それ、お前のことをよく知ってい奴が居なさすぎるだけだろ…『放浪』そんなのあったか?」
「ま…ですよね…」
「さて、二人でやるメリットってなにかあるの?」
「あー戦闘が楽になる…とか?」
「友達と話すことがメインだからあんま知らんのよね…」
「あ、ふーん。おけ。」
「ところでだけど『弱者の徴』っていうパッシブスキル知らない?なんか死んだとき入手したんだけど…」
「申し訳ないけど分からないな…お!マジで持ってる。」
「え?何が?」
「お前のスキルだよ「弱者の徴」ねぇ…ってか能力書いてるよ。」
「マジ?」
「マジ。」
「ステータス画面に表示されたそのスキル触ってみな。」
俺は視界に表示されているステータスを触ってみる。
「うわ!マジで触れる!」
「えぇーと何々…『あなたはモンスターから狙われやすくなります。あなたが得る経験値は通常の1.2倍になります。但し得た経験値の3割は特殊技能のポイント付与分になります。』…と。」
「俺LV低いのになんで狙われなきゃいけないの?っ」
俺は少し見栄を張りLV.1だがあえて低いという事にした。
「低いってかお前1じゃん。」
意味がなかった。
「いや、結構これ大問題じゃないか?今のLVは最低、特殊技能は一つのみ…」
えぇーと、仮に100の経験値が入手できたら1.2倍されて120そこから3割引いて84くらい…
「普通に貰う経験値より少なくなってね?」
「なってるな。」
「…イノシシ狩り行くぞ。」
「了解。」
俺たちは経験値集めに向かった。
結論から言うと狩りは上手くいかなかった。
「クソっお前の意味わからんスキルのせいで俺の『デコイ』が約に立たねぇ!!」
「なんだよデコイって!!『攻撃を自分に向けさせる』だぁ!?攻撃スキル持ってこいやァァァ!!」
「お前こそ持ってくせになんで使わねぇんだよ!!『火球』使って焼きイノシシにしてもみろや!」
「使ったら最悪俺ら死ぬんだよ!!これ70%で発動する自爆技なんだよ!!!!」
「使えねぇ!!!!」
俺らはイノゴ一匹に殴る蹴る、太刀で切る短剣で切るを繰り返す。イノゴは斬撃(俺らの武器が弱いせいかも知れない)打撃に対し体制があるらしく中々ダメージが通らない。ようやく2匹倒し終わったあとLVを上げることにした。
「LV.2…やっと2…お前は?」
「今9レベ。」
「は?」
タイトはドヤ顔で俺を見ていた。
「なんでそんなに高いんだよ?」
「逆に俺はなんでお前がそんな低いか知りたいわ。」
「なんでって…そりゃ草原にスポーンしたり、逃げたり、死んだりしてたら…」
「逃げ?『放浪』って最初から武器持ってないのか?あと草原?俺は普通に町から始まったぞ?」
「え?ないけど。町?なんか優遇度全然違くね?」
「あー分かったわ。『放浪』って武器なしスポーンリスポーンランダムで始まるんだ、俺の友達全員町でスポーンしたし。」
「「…」」
「気を取り直してさダンジョンにでも行こうぜ?コイザキ。別に戦えない訳じゃないしさ。」
「そうだな…初心者向けなら問題はないだろ…」
俺はタイトについていき洞窟の前に止まった。
「あ、ごめんこれ3人居ないと入れないわ。」
「お前の友達は?」
「いいけどお前は?」
「自分から言っといてあれだけど、やだ。」
「諦めるか。」
「そうだな…」
俺たちが諦めて帰ろうとした時後ろから話しかけてくる人物がいた。
「良かったらで良いんだが私をパーティーに入れてくれないか?」
こういうのはタイトの仕事だ俺はタイトに任せることにした。
「あぁ大丈夫ですよ。お前も大丈夫だよなコイザキ?」
俺が肯定しようと頭を上げその人物の頭の上のPNを見た瞬間俺は固まった。
「『ナビリア』…ナビリアさん!?」
「あぁ。覚えていてくれたか。」
俺は思わぬ形で恩人と再会した。
余暇乃です。アチーブメントの達成条件は30秒以内に2回死ぬことです。BNTの製作者はLVを上げ終え特殊技能のLVを上げたいと思うプレイヤーが出る読みで、このアチーブメントとパッシブ能力を作りました。まさかLV.1の雑魚がこのパッシブを得るとは…これを初心者で入手する方法はリスポーン地点がランダムな放浪者のみです。あと+α。