第一章 4【魔法!武器!!初戦闘!!!】
おっちゃんは俺に『あと一時間くらいで作ってやるから町でも散策してこい、お前さんここに来てそんな経ってないだろ。」と言い俺を追い出した。
今気づいたのだが、ここの町は『エスポワール』という名前らしい。エスポワール…確か希望とかそういう意味だっけ。洋風の建築が多いこの町とスタート地点としてのこの町、噛み合っていてエスポワールという名前になったのも頷ける。
「さてと…やることもないしおっちゃんの言う通り散歩でもするか。」
現実で散歩した数時間後にゲーム内でも散歩をするとは思わなかった。元々俺の散歩の意味は現実から目を背け…違う違う。えぇーと、そうだそうだ。コーヒー片手に休憩時間決め込み人生を達観、つまり先達した視点で人生を観察することが俺の散歩の意味だ。そんな散歩ではない、ただ町を眺める散歩というのは人生初かもしれない。
銭湯、ショップ、道場、本店、etc…歩けば歩けば、見れば見るほど現実との違いが分からなくなってくる。でも一つだけ非現実的なモノがある。それは本屋の前に書かれた『魔導書初心者向け』と書かれているPOPだ。
「初心者向けねぇ…」
俺の足は本屋の方へと向かっていた。
「いらっしゃいませー魔導書をお探しですかー?」
「あ、はい。ほんとに初心者なんですけど大丈夫ですか…?」
「大丈夫ですよー、お客さん以外のお客さんも大体初心者の方ですからー。」
「…あの初心者ってか放浪者なんですけど…」
「?」
「全然大丈夫ですよー。むしろお客さん…コイザキさん?のステータス見る感じLV.1にしてはINT高い方なんでよゆーですー。」
INTってそういう意味か…それなら探偵とかINTめっちゃ高そうだしもしかして探偵って魔法使いの別名!?
「あのー、コイザキさん?大丈夫っすかー。」
「あ、すみません。んじゃ早速ですが魔導書一冊ください。」
「お買い上げありがとうございますー。コイザキさん魔法初ですよね?私、今暇なんで初級のやつなら教えれますよー。」
「マジですか!?お願いします!」
「了解ですー。ではこちらへどうぞー。」
俺は気だるげそうな店員に連れられ店の地下へと行った。
「まずなんですけどー、コイザキさんはどんな魔法を使いたいんですかー?」
「まぁ攻撃関係の魔法が良いですね…遠距離からチクチク攻撃したいんで。」
「コイザキさんクズっすねー。ま、それならこれっすかねー。」
え?何今ディスられた?この人なんか勘違いしてない?俺は…
「 コ イ ザ キ さ ん - ? 聞 い て ま す か ー ? 」
「あ、すみません。店員さん。」
「はぁー、ミブでいいっすよー。こっちが名前で呼んでるのに不平等じゃないっすかー。」
「あ、すみません。ミブさん。」
「…もういいっす。えぇーと、あ。そうそうコイザキさん魔法でしたよねー。『火球』とかどっすかー。」
「『火球』…ファイアーボール的なやつですよね。」
「そんな感じってか正解っすー。そのまま火の玉っすねー。火力は…まぁ申し分ないですしー、覚えやすいよりの魔法ですしー『これできなきゃ何できるの?』っ枠っすねー。」
「今から実際にやってみるんで見て覚えてくださいー。」
「は?」
「『火球』!」
奥においてある大小さまさまな木箱に向かってミブさんが『火球』と言った瞬間、言葉通り火の玉が真っすぐ木箱に向かい飛んでいき木箱が爆散した。
「私の火力でこんな感じっすねー。コイザキさんもやってみてくださいー。」
「…いや、できねぇよ?」
「?」
「なんでっすかー?」
しまった。こいつ天才型か?
「あぁすみませんすみませんっすー。ほんとに初心者なんすっねー。」
「…」
「ステータス画面開いてくださいっすー。」
「…あのぉどうやって開けば…。」
「コイザキさん…もしかしてNPCキャラってオチっすかー?」
「プレイヤーです。」
「コイザキさん心の中で『ステータスを開きたい』って念じてくださいっすー。」
俺は言われた通り心の中で念じた。『ステータスを開きたい』『ステータスを開きたい』「ステータスを…』
「はい、出ましたかー。」
ぱちんと目を開き前を見る。整った顔立ちに気だるげな目をした少女の横にステータスが開かれていた。
PN 恋咲
LV.1
STR 4 CON 8 DEX 9
INT 8 POW 4 LUCK 12
《特殊技能》
火球(?)
《装備品》
「始まりの装備」
※この装備はセットのため部分ごとに外すことはできない。
《所持品》
300アト
「なんか『PN』とか『所持品』とか…あ!『特殊技能』に火球って書かれています!」
「そうっす!それっすー!それなら一応覚えれてはいるみたいっすねー。」
「それなら今度は『火球を打ちたい』と念じて手のひらを目標に向けてくださいっすー。」
俺はいつの間にか直っている木箱に手のひらを向け念じる『火球を打ちたい』『火球を打ちたい』『火球を打ちたい』『火球を…』手のひらに確かな感覚を覚え目を開く。
「あー、失敗すっねー。コイザキさんINTが高くてもセンスがないっすねー。」
ミブさん。いや、人の心のないクズは失敗した俺を見てケラケラ笑っていた。
「まぁ、安心してくださいっす!確定で成功しないだけで確率でできますからー。あとあれっす。私みたいな本屋に教わるより、その道のプロに教わった方が『こういうミス』も無くなりますからー。覚えててくださいっすよー。」
「んじゃ!コイザキさんまたのお越しをお待ちしておりますっす―。」
俺はとりあえず形式的な礼を良い本屋を後にした。
「だいたい一時間経ったかな。」
俺は鍛冶屋に向かう。
《火球(?)→火球(30)》
《所持品 300アト→200アト》+《初心者向け魔導書》
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「お、タイミング良いなコイザキ!!ちょうどできたとこだ!」
「お前でも使いやすいような武器にしたつもりだが、なにか不満があるなら言ってくれ!俺はずっとここにいるからよッ!ガハハハッ!」
「あんがと!おっちゃん!!でも一時間前の俺と同じだと思わないことだぜ?」
「ほう、それは楽しみだな!お前も第二の人生楽しめよッ!!」
なんか流された気がする。が、貰った武器を早く使いたいし作ってもらった恩もある。目をつぶろう、つぶらせていただこう。
「一日ぶりだな…この道」
俺は今最初のクソみたいなリスポーン地点に向かって歩いてる。イノゴ以外のモンスターがいることももちろん分かっている。だが俺は最初に倒すモンスターは決まっている。
「いたいた、お前だよ。」
HPがMAXではなく少し減った個体、詳しく言えば木に激突したイノゴに向かい言う。
「一日目の俺と思うなよ。」
イノゴも俺に気づいたのか殺気だって突進してくる。昨日の戦い(?)を思い出しながら武器を構える。剣にしては左右非対称で刀身が長い。この武器をメインにするには少々心許ないが俺の戦いには合っている。そんな《太刀》を構えイノゴと対面する。
「食らいやがれ!『火球』!!」
すまん!太刀!!火球の可能性を信じたいんだッ!
俺の手から放たれた火球は確かに火の玉として放出された。だが、その火球は『遅い』。
「クソっ!流石に失敗か!成功率30%は信じられねぇ!!」
イノゴは火球を避けた。その瞬間脳にびびっと閃きの稲妻が走る。
「うぉぉぉぉ!食らえェ!ファイアーソードッ!!」
その場に浮き続ける火球に太刀の刀身を当てそのままイノゴを切る。イノゴは、焼けた音ともにドロップ品を残し消えた。
「初戦闘は勝ちで良いな。」
中学生のころの俺へお前がやってるクソゲーのクソ武器、今まともな武器に変わったぞ。流石に『ファイアーソード』はダサいな、あの時は『かっけぇ』って感動したのに。