第一章 1【絶望のスタートダッシュ】
意気揚々と世界に入り込もうとした分、視界に表示されている『キャラクターデザイン』という文字に俺は面食らった気分になる。
「あ、はい。そうですよね。まずはキャラデザですよね。」
とは言ったものの俺はこの手のタイプのキャラデザは下手すりゃ何時間もかけれる自信がある。小柄の方が動きやすいのかな~とか大柄だと火力上げやすそうだな~と悩んだ末、少し現実の俺をモチーフにしてデザインをした。自分が好きとかじゃないんだからね!これは自分自身の体格と同じ方が操作しやすいと思ったからなんだからね!勘違いしないでよね!
「黒髪、173cm、64㎏…ま、こんなもんだろ。プレイヤーネームは苗字と名前合わせるだけでいいか。」
キャラデザを終えると『職業選択』と表示される
「これ…何種類あるんだ…?」
流石は第二の人生。無い職業がないんじゃないのかと思うほど視界いっぱいに表示させられている職業一覧。「騎士」「魔法使い」「シールダー」「双剣使い」「踊り子」「探偵」etc…「探偵」!?ゲームの中で探偵って何の意味があるんだ…システム下で動いてんだから推理もクソもないだろ。
ここまで職種が多いと迷うな。ある程度候補を絞ることにした。「魔法使い」「剣士」「狙撃手」あたりが気になる。
「『魔法使い』とか『狙撃手』になって安全に攻撃するのも初心者にはあってるな、でもやっぱ『剣士』もかっけぇんだよなぁ…」
しかし、視界に映ったある職業に瞬間、心を奪われた。
「『放浪』…?第二の人生で『放浪』?なんでこんな職業が…職?」
無限に湧き出てくる疑問に押しつぶされそうになりながらも、恋が盲目とはよく言ったものだなと理解する。「放浪」という文字が光って見えるし、それ以外の文字が濁って見える。
特に深く調べる前に選んだ事を後悔するのはほんの少し後の話になる。
『職業≪放浪≫の獲得』
≪放浪≫
PN 恋咲
LV.1
STR 4 CON 8 DEX 9
INT 8 POW 4 LUCK 12
《特殊技能》
なし
《装備品》
「始まりの装備」
※この装備はセットのため部分ごとに外すことはできない。
《所持品》
なし
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意識がはっきり鮮明になっていくと同時に、暗い視界に太陽の光が差し込んでくる。草原の匂い、温かい空気。さっきまで眠っていた気さえするほど心地が良い。恋咲は野原のど真ん中にリスポーンした。
「…部屋とかでさ、神とか母親に起こされるのが普通の始まり方じゃね?…ここ何もねぇじゃねぇかァァァァ!」
さてどうする頭を使え、頭を回せINT8の実力(基準は知らん)を見せろ恋窪八尖ッ!とりあえず周りに味方はなし、モンスターだと思われる何かはちらほら。俺のレベルは1なんならアイテムは0。
「よし!救助を待とう!!」
BNT生活1時間半目。幸運にも≪放浪≫のスペックは高く、体格と筋力に優れていた。そのお陰か高木に登りモンスターとの接敵を避けることに成功。俺は自由気ままなスローライフ(木の上生活)を満喫中。
「いやぁやっぱVRMMOは木の上に登って空を眺めるのに限るよなぁ~」
VR中はある意味現実を見ていない。だからこそ、この現実から逃げた一言は正しい。だからこの状況に関して俺は全く悪くない。悪いのは製作者だ。VR中は現実逃避が捗るなぁ。
何時間経っただろうか、空の色は赤から黒へ変化していく。日が沈んでいき真っ暗になる。…はずだった。一か所だけやけに明るい場所がある。
「…あれ、町じゃね?」
俺のBNTでの最初の目標が決まった瞬間である。テンションが無駄に上がってしまったのだろう。俺は駆け出してしまった。木の上で。
「あ。あ、あ”あ”あ”あ”あ”!!!」
≪落下ダメージを算出。HP変化8→3≫
残りHP3で周りにはモンスターばかり、町までは数㎞といったところか。あぁ運がない。