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第6話 記憶操作


 精神力を回復させた女性騎士たちは意気揚々と自分たちの拠点へと帰っていった。


 あれならばしばらくは狂魔との闘いも問題はないだろう。だが、クラリスの顔は晴れなかった。


 娼館から呼び寄せて、女性騎士たちを癒す一時的に修道士になった彼らを娼館へと返したり、他の修道士たちを自分の部屋に返した後で、クラリスは真剣な表情でソルに向き直る。




「お前ならば……彼女たちを救えるかもしれない。


 その魔術にかけてみよう。こちらだ。」




 そう言いながら、彼女は修道院内部にある地下に続く階段から地下室へと降りておく。何重にも鍵がかけられたドアが存在する隔離された空間。


 それは、最重症患者たちを閉じ込めて他人や患者自らの安全を確保するための隔離室である。




 大抵、こういう修道院は心を病んだ人間を隔離する精神病院の役割もかねている。


 そして、その中には手の付けられないほどの重症の人間を保護する隔離室もあるのだ。


 なぜ隔離室があるのかというと、ふとした事で自分が制御できずに、あるいは狂気のために幻覚を見て暴れだす人間たちを他害行動させないように保護するためである。




「あああ!あーー!!ああああ!!」




 壁一面に毛布が張られている隔離室……いや、保護室。


 そこでは一人の緩やかな金髪のウェーブのロングヘアと、紫色の瞳をした釣り目の少女が絶叫しながら一心不乱に壁を叩いていた。


 資料によると、彼女、エレオノーラはエルも名前は知っている大貴族の公爵の娘だが、最近姿を見せていないと思っていたら、こんなところにいたのか、とソルは驚愕した。初陣の際に狂魔によって部隊が全滅し、たった一人狂気に陥った彼女だけが救い出されたとのことである。




「助けて!助けて!奴らが来る!仲間を全て食べた悪魔が来る!


 私を食べないで!私の心を食べないで!助けて!誰か助けて!!」




 恐らく狂気に捕らわれた彼女の意識の中ではずっと狂魔に襲われ続けているのだろう。狂魔は人の心を食べる、とはよく言われている事実である。


 人の心を食べ、人を狂気へと導く。


 狂魔と戦う時には心を保護しなければならない。


 だが、向こうもそれを知っており、戦う女性騎士たちを狂気と恐怖に陥らせるために、わざと仲間を食らって一人だけ残したり楽しんでいたぶっていたりしている。


 恐らく、彼女はそれにやられて狂気に陥ったのだろう。




「……【鎮静】【安眠】」




 エルの精神魔術により、彼女は瞬時に倒れるように眠りにつく。


 恐らく常に壁をたたき続けていた結果なのだろう。


 彼女の拳は血まみれになっていた。


 そして、それによって叩かれていた毛布も一面血の跡がべったりとこびりついていた。彼女にとって、この程度の痛みより自分を食らいにやってくる怪物たちの幻影が恐ろしかったのだろう。


 正気を失った彼女は、常に狂魔から追いかけられる迫真の幻影を見ているのだ。


 その状況を見た彼は、隔離室内部へと入ると、久しぶりに安らかな寝息を立てている彼女の額に手を当てると、宣言を行う。




「このままの状態だと危険だな……。一時的に正気を取り戻しても、また狂気に捕らわれるのなら根本的な治療を行うしかない。よし、彼女の狂気の源である狂魔との闘いの記憶を全て消去する。」




 そのエルの言葉に、クラリスは目を見開いて驚きの声を上げた。




「き、記憶を操作する!?そんな魔術許されるとでも思ってるのか!?いくら何でもやっていけない事があるだろ!?」




 そう、記憶を操作する魔術というのは、その特性上嫌われている魔術だ。


 偽の記憶など刷り込まれて術者の重い通りに操られる人間も少なくない。


 いくら治療のためとは言え、そのような事を平然とするなど、この世界の常識からはかけ離れていることだった。




「彼女が正気を取り戻すのならこれくらい容易い事だ。偽の記憶をすりこもうが、記憶を操作しようが、彼女の正気が戻ればいいんだ。ほかのことなどどうでもいい。」




 エルの言葉に、修道院長は信じられない、と思わず首を振った。


 




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