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第十章

「もし無理して楽しくしなきゃと俺に気を遣っているなら、と思いまして・・・。」


佐伯さんは黙って視線を逸らすと、前を向いて座った足をぐ~っと伸ばした。


「ありがとう・・・。誘っといてやな空気出すのダメかなって思ってさ・・・。も~・・・会うと思ってなかったからさ~。あのね、元カレなのさっきの子・・・。」


俺は心の中で、やっぱりそうか・・・と思った。


「そうなんですか。」


「別に大ゲンカして別れたとかではないんだけど、ちょ~っとやな感じになって破局しちゃって・・・。聞かせるようなことじゃないから話さないけど~・・・。今回もチケット売れなかったみたいだからしょうがなく買ってあげたんだけど・・・。まぁ悪い子じゃないんだけどさ~・・・とか・・・言ってる時点で私も進歩してないんだなぁ考え方・・・と思って、勝手に自己反省しちゃって・・・ごめ~ん柊くん、逆に気ぃ遣わせたよね。」


「いえ、気を遣ったというか・・・せっかく一緒に出掛けられたので、無理してるなら気楽にしてほしいなと思ったんです。後輩の俺に気を遣うことないですから。」


「ふぅん?後輩とか先輩とか関係ないよ。私はそういう上下関係意識して接してないし、仲良くなりたいなぁって柊くんに興味湧いたからデート誘ったんだよ?」


「そうなんですか・・・。」


俺が若干面食らっていると、佐伯さんは今度は自然にふふっと堪えるように笑った。


「柊くんってあれだね、女の子に誘われるの慣れてないんだね。」


「そうですね・・・。まともに友達もいませんでしたし、女性の知り合いもいないので・・・。」


「そうなの?いが~い。じゃあ私が第一号になれるんだね。」


佐伯さんは嬉しそうに立ち上がって、また俺の手を引いてお勧めだというイタリアンのお店へと向かった。

道中時々サークルの話をしてくれたり、好きな映画の話などしてくれる佐伯さんは、少なからず自分に興味を抱いてくれているとわかったけど、ほんの少しだけど何か違和感を覚えた。

言い表すのが難しい違和感。


「ねぇねぇ柊くん。」


「はい。」


テーブルを挟んだ脇にメニューを戻しながら、頬杖をついて俺を見つめる佐伯さんは、またニッコリ微笑んで言った。


「薫くんって呼んでもいい?そっちの方が呼びやすいし。」


「・・・はい、どうぞ。」


「んふふ、薫くん、ご飯がくるまで・・・というかお店にいる間、質問タイムにしよっか。お互い質問を一つずつする感じで。」


「・・・?はい、わかりました。」


佐伯さんはそう言うと、茶色い瞳をキョロキョロさせてから口を開いた。


「じゃあ~~・・・薫くんは恋人いる?それとも好きな人がいる?」


二択形式なんだろうか・・・


「えっと・・・恋人はいません。好きな人・・・は・・・まぁ・・・でも振られました。」


「え!!ごめん!」


「え?いえ・・・別に構いませんよ。」


俺がしれっと返すと、佐伯さんは申し訳なさそうな笑みを浮かべた。


「じゃあ次は薫くんの番ね。」


「そうですねぇ・・・。」


頭の中であれこれ思案した。同じような質問をするべきか、それとも身近なことを尋ねるべきか・・・。正解などないけど、あまりプライベートなことに食い込む質問はまずい気もする・・・

そもそも質問し合うということを持ちかけた佐伯さんは、俺の人間性を引き出すためかもしれない。

俺からされる質問はあまり重視していないだろう。

だったら何を聞けばいい?素直に気になること?気になる・・・こと・・・


俺は佐伯さんとじーっと見つめ返した。


「ふふ・・・薫くんにそんな見られるとちょっと緊張するんだけど・・・。」


「・・・佐伯さんの、将来の夢はなんですか?」


「え、夢~~?なんだろ・・・あ~・・・笑わないでね?・・・えっと・・・好きな人のお嫁さんになること・・・。」


彼女はそう言ってちょっと子供っぽい可愛らしい笑顔を見せた。

それにつられて俺も笑みが漏れる。


「あ!薫くん今、何言ってんだこいつって思った~?」


「いえ、可愛らしいなぁと思いました。」


「え・・・え~?何それぇ・・・。ああ、子供っぽいから?」


「いや、夢はそれぞれなのでいい夢だと思います。とても幸せなことだと思うので。」


俺がそう言うと、佐伯さんはちょっと考え込むように見つめ返して、やがてまた気を取り直したように聞いた。


「じゃあ私の番ね!えっと~・・・薫くんの好きなタイプは?」


「好きなタイプ・・・・・・・・・。」


まずい、考え出すとわからなくなるやつだ・・・。

頭の中で先輩のことを思い浮かべながらも、そもそも先輩のどこに惹かれたのか考え出しても、遡ることに時間がかかるし、どこ・・と言われても全部だから仕方がない。


「自分に対して・・・真摯に向き合ってくれる人ですかね。」


「・・・それは~・・・真面目な女の子が好きってこと?」


「女性でも男性でもですかね。友人に求める好きな人という意味でもそうかもしれませんけど・・・。ちなみに俺は女性も男性も恋愛対象です。」


俺がさらっとそう言うと、佐伯さんは一瞬表情を止めた。


「ふぇ・・・そうなんだ。そっか・・・そうなんだぁ!」


「はい・・・。」


佐伯さんはまたいつも通りの笑顔に戻ると、俺からの質問を促した。


「えっと・・・じゃあ・・・どうして、初めて会った時、俺を勧誘しようと思ったんですか?」


元々疑問に思っていたことを思い出したのでそう尋ねた。

すると佐伯さんは「あ~・・・」と漏らしながら、少し唇を尖らせて正直に言おうかどうか迷っている様子を見せる。


「えっと~・・・言っても怒らない?」


「・・・怒るような内容なんですか?」


「わかんないけど・・・。えっとね・・・私ね、今まで好きになって付き合ってきた人って、結構大柄で男くさい感じの人が多くて~・・・別にあえてそういう人を選んでたわけじゃないんだけど、系統として偏ってたの。でもさ、趣味で手芸とかぬいぐるみ作ってて可愛い物が好きだし、ビスクドールとかもすごい好きで・・・でね?薫くんと初めてあったとき、私身長155センチくらいしかないんだけど、薫くんたぶん私より10センチくらい高いじゃんか?それで・・・パって薫くんの顔初めて見た時、なんかこう・・・綺麗な顔した王子様の人形かと思っちゃったっていうか・・・。え、かわ・・・綺麗・・・って思っちゃってぇ・・・連れて行っちゃおって・・・思いました。」


尻すぼみしながら俺を伺う佐伯さんは、苦言を呈されることを恐れるように視線を逸らせた。


「・・・はぁ・・・。そうなんですか・・・。」


「え~ごめん、怒らないで・・・。」


「いえ、怒ってませんよ。」


何とも返答に困る答えだった。

まぁ感じ方は人それぞれだし、そう思う人もいるのかな。


「ありがとうございます、印象が良かったなら構いません。好意を向けていただける理由が自分の中でよくわからなかったので、何となく把握しました。」


「ふふ・・・その丁寧な話し方も好きだよ?薫くんって育ちがいいお坊ちゃんとかなの?」


「いえ・・・むしろ金銭面では苦労している最中ですね。まぁだからどうということもありませんが・・・。」


「そうなの?・・・そうなんだ・・・。」


俺は次の質問を待つ間、お冷を飲んで窓の外をぼんやり眺めた。


「じゃあさ、たまに・・・お弁当作ってきたら、薫くん食べてくれる?」


「・・・それは、質問ですか?」


「うん・・・ダメ?」


「何故俺に・・・?」


「え・・・ん~・・・お昼代浮くじゃん?私はお弁当自分の分ももう一人分も作るのそんな変わんないしぃ・・・。薫くんが美味しいって思って食べてくれたら幸せだなって思うよ。」


俺の中にある違和感が、徐々に形を帯びていくのがわかった。

けれど答えを急ぐのは無粋かもしれないし、佐伯さんの心遣いを無碍にするのも申し訳ない。


「けど・・・その、ありがたいですけど、俺としてはそれに対してお返しできることがないというか・・・。」


すると佐伯さんはまた可愛らしく小首を傾げて、ふわふわの髪を耳にかけた。


「お返しは特に求めてないよ?私のお節介だから・・・。それにお弁当渡せたら、中庭とかで一緒に食べられるかなぁって。そういうのよくない?」


佐伯さんはまるで、友達と遊びの予定を立てるかのように嬉しそうだ。


「佐伯さんがご迷惑に感じないなら、ありがたくいただきます。」


「迷惑なわけないじゃ~ん。あ、でも・・・薫くんが断りづらいなぁとか思ってたら遠慮しないでね!別に一つしか歳の差ないのに先輩だから、とか思わなくていいから!」


「はい、わかりました。」


そんなやり取りを終えた頃、料理を持った店員さんがやってきてテーブルに置いてくれた。

佐伯さんは長い髪の毛を腕につけていたシュシュでまとめながら、「おいしそ~」とまた可愛らしい笑顔になる。

女性とのデートの会話ってこんなので合っているんだろうか・・・。

俺があまりにもデートいうものに不慣れで、きっと佐伯さんには違和感を与えてしまっているだろうな。

けれど結果的には、朝野くんも言っていた通り、お互いが楽しいと思う時間を過ごせたらそれでいいのだと思う。

まだランチでこの後もあるけど・・・。


「薫くん、疲れちゃった?いっぱい喋らせちゃってごめんね?」


「いえ・・・そんな気を遣わないでください。別に疲れたわけじゃないんですけど、デート自体初めてですし、この後もたくさん出かける場所があって、そんな風に1日を過ごしたことないなぁってちょっと思ったんです。」


「そうなの?そっかぁ・・・。じゃあ今日は薫くんが羽目を外して、めっちゃはしゃげるようなデートに出来るように頑張るね!」


そう言ってパスタをくるくる巻いて意気込む佐伯さんは、年上だけどその年相応の無邪気さが何とも微笑ましく感じた。



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