出会いはいつも突然に(今回は墓場)
これはそう遠くない、少しだけ未来のお話。
世界中の戦争がその戦いの幕を閉じ、平和になったこの世界でも人々は
さらなる娯楽を求め続けた。より派手で、より刺激的な娯楽。それを求めるあまり、人々は次第に既存のスポーツではその欲望を満足出来なくなっていった。
だから人々は渇望した。既存のスポーツに取って代わる、全く新しいスポーツを。そんな人々の飽くなき娯楽への渇望と比類なき技術力が遂にこの世界に
新時代のスポーツを創造した。
その名は【バトル・オブ・スティール】。人よりも数倍デカい金属の塊、
通称タイタンが小さな町ほどもあるコロシアムの中で戦いを繰り広げるスポーツである。
それまで漫画やアニメでしか見たことがない景色が現実となる。その期待と
高揚感が人々をコロシアムへと駆り立てた。
その結果、このスポーツはオリンピックさえも押しのけてしまう程の
超一大ムーブメントへと成長していった。
そんなコロシアムでは今日も戦いが繰り広げられている。槍を持つもの、
銃を持つもの、山のように大きいものや、人とそう変わらないもの。彼らが人々を熱狂させる熱い戦いを繰り広げる時、この世界に生きる人々はふと思った。
『この世界最強のタイタンとは一体誰なのだろう』と……
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「行っけー!!そこだー!やっつけろーー!!」
飛び交う歓声、エンジンの駆動音、そして鳴り響くガトリング砲の銃声。
2R目で戦いは早くも終盤、観客のボルテージは最高潮に達している。そんな会場の中心にいるのは2体のタイタン。一人は片腕がガトリングになっているブラック級タイタン、それに対抗するのは悪魔のような姿をし、槍を持ったプラチナ級タイタンだ。槍を持った方は撃ち続けられる弾丸の嵐を遮蔽を使ってしのいでいる。だが次第に遮蔽は弾丸の嵐によって破壊されていき、悪魔は逃げ場を失っていき、ジリジリと追い詰められている。まるで天災とそれに逃げ惑う人間、そう思えてしまうほどに圧倒的な力の差。そんな戦いの勝敗は明白だった。
「ああっと!ジェットブラックデビル!狂気の嵐に隠れ家を全て破壊され、もう逃げ場がない!」
「やっちゃえー!!蜂の巣にしろーーー!!!」
「決死の覚悟で向かっていくジェットブラックデビル!だがバイオレンスサンダー!まだ弾薬は尽きていない!向かって来る悪魔に対し、無慈悲な一斉掃射!」
「キャーーーー!!」
「バイオレンスサンダー!!圧倒的な暴力で悪魔を打ち砕き、この戦いを制しましたァ!!!」
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「てことがあったんすよ!いやーほんとに見れてよかった〜!!」
ジリジリと燃えるような日が差しヒマワリたちが太陽の黒点を見つめる夏。クソ熱いこの季節でトラックに揺られながら先週末に生で見た試合のことをこれまた熱く語るこの女性。彼女の名前は岩峰葵。整った顔立ちにショートボブの艶のある黒髪、そして持ち前の明るい性格で話しかけた異性をたちまち勘違いさせてしまう魅惑の女性。だが彼女は自他ともに認めるバカだ。神はこういうところでバランスを取ろうとしているのだろう。
「ほーん。そいつは見れてよかったな」
そしてこのトラックを運転しながら話を興味なさげに聞く男。彼の名前は斬島リア。先月入社したあのおバカの一応の先輩だ。職場に同年代が居らず、彼女とそこまで年が変わらないために上司と部下でありながら対等な話し相手になっている。
「あー!先輩まーた私の話ちゃんと聞いてなかったでしょ〜!」
「いや、ちゃーんと聞いてるさ。でけえのが勝ったんだろ?……つーかこの話、
一体俺に何回聞かせたら気が済むんだ!もういい加減飽きたぞ!!」
「え、ええ!?嘘、私そんなに何回も話してたんすか!?」
驚きの表情を見せる岩峰。そんなに何回も話してたのかな?と唸っていると二人の乗るトラックが止まった。
「え?」
「ホラ、もう着いたぞ。なにボーッとしてんだ?準備しろ、ロック」
「あ、イエッサー!」
……どうやら目的地に着いたようだ。手短に準備を済ませ、グレイブヤードエリアの門を叩き中に乗り込む。彼らの仕事は捨てられてしまったタイタンたちを回収し、修理してその部品を売る、いわゆる廃品回収だ。……普通と少し違うのは廃品をゴミ捨て場から直輸入しているところだろうか。
「今日もいっぱい回収しましょうね!!!」
「ったく、お前は元気だな…」
「当たり前じゃないスか!だってまだ私、仕事も覚えてないピカピカの新卒社員なんすから!元気しか持ってないっす!」
「アホ、仕事はさっさと覚えろ。…つってもまぁ教えることもないか。なんなら俺よりタイタンのこと詳しいし…」
(ん、待てよ?まずタイタンの知識は間違いなくアイツが勝ってるだろ?そんで若さもアイツが勝ってる……あれ?もしかして俺が勝ててるところなくね!?)
リアの心のなかでリストラの4文字がちらつく中、二人は捨てられたタイタンの腕やら足やら頭やらをトラックについているクレーンで回収していく。ちなみに回収している部品は全て岩峰が選んだものだ。
「つーかロック?なんでお前はこの会社に入ったんだ?ここよりいい待遇の会社はごまんとあるのに」
積み上げの暇な時間にふと湧き出てきた疑問を投げかけるリア。それに対し岩峰は少し驚きながら答える。
「え?なんでって……そりゃ私!タイタンが好きだからッス!」
予想通りの反応。『そりゃ好きじゃなかったらここにいねぇだろ』というツッコミを飲み込んで質問を続ける。
「まぁそう言うと思ってたけど…だったらサビサビのオンボロとかしか見ないここよりもっといい職場…例えば【タイタン研究所】とかあったんじゃないか?」
『タイタン研究員』は古い時代のプロサッカー選手のようにこのスティールウォー一色に染まったこの時代で人気の高い職業である。ちなみにお賃金もこの廃品回収を生業とする零細企業よりだいぶ高い。
「うーん…まぁそれも良かったんすけど…やっぱこっちのほうが古いレア物が見れると思って!最近で『おお!!』って思ったのはテック社の【T-364-3】すね。あれはテック社が3番目に開発した機体で、当時では最新鋭のエンジン、【V-810k……」
「だーわかったわかった!……やっぱお前本当変わってんな」
「厶!別に普通っすよ!ちょっとタイタンについて詳しいだけで。そういう先輩
こそなんでこの仕事してるんすか?」
「うーん…さぁ?なんでだろうな?成り行き?拾われた?」
「なんすかそれ!?」
談笑しながら二人はまだ未界の墓場の奥へ奥へと歩みを進める。奥に進むに連れて捨てられた屑鉄たちが月のように光を反射し、気温と雰囲気が大きく変わって来た。至るところから伸びる錆びた鋼鉄の巨腕、無造作に投げ捨てられたかつて時代を彩ったであろう英雄たちの武具。それらがこの場をを熱気に包むだけでなく、言いようのない神秘的かつ恐怖を感じてしまうような独特の雰囲気を創り出しているようだ。このパワースポットにも似た場所で彼らは信じられないものと出会うことになる。
「…え!!ちょ、せ、センパイ!見てください!ねぇ!先輩!ねぇ!アレ!?」
「わ!?なんだようるせぇな!…一体どうし…た……」
岩峰がビビりながら指さした方向を見たリア。その指さした先にいたのは、錆びついた歴戦の英雄でもなく、無念を感じさせる折れた剣でもない。
彼らの目の前に現れたもの……それは無数の錆びついた腕に支えられてその場に立ち尽くす、薄汚れた一体の白いタイタンだった。
<週刊ギガントファイターズ>
タイタン達の大きさは3つの区分で分けられており、小さい方から
ゴールド級・プラチナ級・ブラック級と分けられている。
先週末にあったジェットブラックデビルVSバイオレンスサンダーの試合で勝ったバイオレンスサンダーはブラック級、前年度のJapan Duel Steel Championship、通称JDSCの優勝タイタンだ!