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ある風景  作者: 月明影
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呼吸

 宮田は、しばらく大村を泳がせ、観察する事にした。


「その時、遠藤と話した内容を、具体的に教えてくれないか?」


「はい。分かりました」


大村の表情は、初めと変わらず、落ち着いた表情だ。


「遠藤は私に、3000万円の返済義務があると、契約書を拡げて言いました」


「3000万円とはかなりの額だな。実際に遠藤の所から借りたのか?」


「いえ、借りてません。借りてはないのですが、連帯保証人としての返済義務が有ったようです」


「連帯保証人とは誰のだ?」


「三田 浩です」


「あの三田か?」


「えぇ、三田 浩です。私があの世に送ってやった、クズな男ですよ」



大村は落ち着き払った声色で、一つ目の告白をした。



宮田は幾度となく犯罪人が話す殺しの告白を聞いてきたが、緊張が貼り詰めるこの瞬間は、胃がキリキリと痛む思いがする。



だが大村は、顔色一つ変えず平然と告げたのだ。



それは余りにも普通過ぎた。その表情が、かえって不気味だ。


普通の精神の持ち主なら、人の命を奪う程の罪を犯したのなら、その罪の重さに潰される思いにより、動揺の一つはあってよいだろう。


例えそれが5年前の出来事だとしてもだ。



大村は、呼吸一つ乱れていない。



罪を犯した事への後ろめたさや、頭の中が、後悔の念だけに支配されている事から起こる、体の不調に伴う異常な発汗も見当たらない。


人間が、いや、地球上の酸素を必要とする生き物が、己の細胞を生かす為に必要な――呼吸――という行為を、この世に生まれ出でてから、途切れる事無く、毎秒、毎秒、繰り返している事を、無自覚に行っている。


 宮田は、そんな大村に対して、底知れぬ恐怖を覚えた。


その正体の見えぬ恐怖の源に、自然と心拍数が上がり、取り調べるこちらの方が、追い詰められる様な気持ちになり、自然と脇から、背中から、ジワリと汗が溢れてきた。


――ここは少し気を紛らわす必要があるな。


そう考えた宮田は腕時計をチラリとみた。


「おっと、もう昼の時間か。お腹すいただろう、大村。午前の取り調べは、ここまでだ」


宮田は上手く口実を作り、昼休憩を挟む事にした。






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