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不思議の国からの招待状―3

「我々悪魔という種族はね、異世界からの侵略者を駆除するための存在なんだよ。簡単に言えば“隙間”から出てくるさっきのムカデみたいなやつを倒すために、強い力を持つわけだ」


 シビュラの話によると、世界のあちこちに在る“隙間”というのは異世界に繋がる扉のようなものらしい。前世の世界では、『Gate of Gran Guignol~グラン・ギニョルの門』のような仮想世界の中にあって、ソフィアの世界からゲーム内で死んだ人間の魂をこの世界に連れてきていた。


 今いるこの世界では、先ほどソフィアが戦ったムカデのような魔物がやってきて、殺した生物の魂を連れ去るのだそうだ。この世界を管理する神様的な存在は、それを阻止するために“隙間”の大半――およそ98%以上を魔界に集めているという。

 つまり、ここ魔界は対異世界の戦場で、悪魔は異界からこの世界を守る戦士だ。だからこそ、人間の魂を取り込み力を蓄えても見逃される。


「アモルが大量の魂をつぎ込んで真祖になったソフィアが見逃されているのもそのためさ。これ以上魂を消費しないなら、完成した武器を壊す必要はないだろう? だから天使は再来しない。だというのにこの悪魔(アモル)ときたら……。ソフィアもこのあたりの荒れようを見ただろう。ここはアモルの領地――担当地域なんだ。ソフィアが真祖になるまではと、時々私たちで掃除をしてきたのだけどね。この悪魔ときたら、ソフィアが真祖になっても君の尻を追いかけてばかりで帰ってくる気配がない」

「あー、それは……。鬼ごっことかやってる場合じゃなかったわねー」


 シビュラの話が本当なら、ソフィアにも戦う義務があるはずだ。知らなかったとはいえ、アモルと二人、キャッキャウフフと鬼ごっこに興じたせいで、シビュラに迷惑をかけていたようだ。


「アモルの管理が不十分でした。ゴメンナサイ」

「ソフィアが謝ることじゃない。話さなかったアモルが悪いのさ。まぁ、さすがにそろそろヤバいから、少々強引な手段でアモルを呼ばせてもらったけどね」

「でもそれなら、兎が示したタイムリミットは?」


 12時を過ぎたらアモルに何か起こるのではと急いでやってきたのだけれど、兎は何をせかしていたのだろうか。


「あれはね、開演時間のお知らせさ」


 まるでシビュラの宣言を待っていたように、砦の外で先ほど聞いたガラスが割れるような音がいくつも響いた。


 ドォン!

 重たい衝撃音が響いて砦の一部が吹き飛ばされる。ずいぶんと派手なリフォームだ。

 なんということでしょう、光の差さなかった室内に大きな窓が! というやつだ。

 開いた窓から見えた景色は、ひび割れた空とそこから次々と這い出して来る巨大なムカデの群れだった。


「ソフィアが来なければ、今までの分も合わせてアモル一人に頑張ってもらうつもりだったんだが仕方ない。私たちも手伝うとしよう」


 シビュラが身にまとっていた狐の毛皮が風船のように膨らんでいき、肉を持つ狐の形に変わる。銀髪の少女を乗せた馬ほどもある巨大な狐。これがシビュラの騎獣であり、かつてはサポートNPCだった狐の毛皮(コシュタ・バワー)の真の姿だ。


 同時に砦の中に立っていた首のない彫像が一斉に抜刀する。動き出したのは彫像だけではない。砦の壁が天井が、ばらばらと崩れて人の形をとる。

 辺り一面を埋め尽くす、千体の騎士。シビュラを無敵たらしめる能力だ。


   挿絵(By みてみん)


「さぁ、素敵なパーティーを始めよう」

「おっし、燃やすぞぅ」「ラーニャモ」「やりますかー」


 シビュラの騎乗する狐の毛皮(コシュタ・バワー)が咆哮を上げ、血気盛んな三人のアラクネが我先にと飛び出していく。アモルを見れば、アラクネたちが拘束を解いたのだろう、ソフィアが口付けをするまでもなく、糸がほどけてけだるげな様子で首を伸ばしていた。

 ソフィアの前で無様な様子をさらしたからか、それとも隠し事がばれたからか。微妙に視線をそらしながらもこちらの様子を伺っていて、なんだか悪さがばれた猫みたいだ。


「アモル、バフ頂戴? みんなにもよ」

「……承知いたしました」


 なんて不服そうな返事だろうか。

 魔界のこともシビュラや蜘蛛乙女(アラクネ)たちのことも隠して、アモルはソフィアの全て――、思考も関心さえも独占していたいのだ。


(なんて可愛い私の悪魔)


 だから絶対、ソフィアがアモルに夢中だなんて、教えてなどやるものか。


「こんな大切なことを秘密にして。シビュラさんやラーニャやラネアに合わせないなんて。あとでキッチリ説明して貰うからね」

「…………」

 

 ソフィアの機嫌悪そうな様子に、アモルの尻尾が項垂れる。

 本当は怒ってなんていないけれど、怒ったふりをしておこう。二人きりの時間になったら、うんと怒って拗ねて文句を言った後、もったいぶって仲直りするのだ。


 でも今は、懐かしい仲間との再会を楽しみたい。

 ソフィアは晴れがましい笑みをアモルに投げかけると、アラクネたちに遅れまいと前線へと飛び出していく。


「本当にソフィアは強くなったね」

 ソフィアの背を追うように補助魔法を飛ばすアモルにシビュラが語り掛ける。


「ソフィア様のお体は、心血注いで作り上げましたから。……誰にも奪われないために」

 解放されるなりシビュラに威嚇するアモル。澄ました顔をしているくせに、存外余裕がないようだ。なるほどソフィアが気に入るわけだとシビュラは微笑む。


「フィジカルの面だけじゃないよ。それにソフィアが君を選んでくれて、私も内心ほっとしている。ソフィアの不幸は見過ごせないが君にも感謝しているんだ。この世界に招いてくれた神様とやらと同じくらいね。さて、私の千の身体にも、バフをかけてくれるかな? 君の掃除を手伝おうというんだ。大盤振る舞いで頼むよ」

「バフなど無くてもあの程度、シビュラ様なら容易いでしょうに。全く悪魔使いが荒い」


 アモルは嫌そうに文句を言うと、それでもシビュラの千の肉体すべての能力を向上すべく詠唱を始めた。


 複数の肉体の制御に外部の情報処理機構が使えた前世ならまだしも、自分の脳だけで千も同時に操るなんて、この女はこちらの世界で正真正銘の化け物になったとアモルは思う。この世界の神が自由にさせているわけだ。


「肉体を強化される感覚が好きなんだよ。実在する体を得たのだと実感できるからね」


 幼い少女の姿でシビュラは微笑む。

 戦闘用に創り上げた千の肉体はアダマンタイトの硬さを誇る一級品で、折れず曲がらず壊れない。けれど彼女はただの人間と大差ない非力な少女の体が一番好きだ。


 千の身体を操りながら、最後方で少女は両手を上げてきな臭い大気を吸い込む。

 ムカデを焼いたラネアの火炎魔法によって、大気は熱を帯び、異臭は一層強くなる。目に染みる煙、鼻を覆いたくなるような何かが焼ける臭い。

 仮想世界では遮断され感じることのなかった煩わしい情報。こんな醜く汚い現実(リアル)な世界が好きなのだ。


 弱い体も過酷な世界も、かつてシビュラが理不尽に奪われたものだから。


■□■


 ――ギフテッドなどと呼ばれる世界を変革せしめる天賦の才能は、可能性に満ちた世界においてはその通り“祝福”であったのかもしれない。

 けれど滅びを待つだけの可能性の潰えた世界においては、終生逃れることのできない呪い以外の何物でもなかった。


 人類の滅亡をわずかでも先送りにするために突出した才能は不可欠で、必要な人的資源を確保するために優秀な人間を人為的に生み出すことは、その過程で犠牲が生じることも含めて肯定された。


 “人間の脳の成長が急速に成長する乳幼児期に動かせる手足が2本でなく4本ずつあったなら、それを自在に動かせるようになるのだろうか。”

 シビュラという存在の始まりはそのような単純な疑問だった。


 シビュラを含む適正の認められた受精卵は、まだ胎児として肉体が十分形成されない頃合いに肉体を奪われた。手足だけではない。目も鼻も口も耳も。未成熟な脳だけになるまで全て剥がされ、仮想世界に繋がれて、複数の肉体を持つ存在へと作り替えられたのだ。

 培養槽に浮かぶ脳みそだけの存在。それがシビュラの正体だ。


   挿絵(By みてみん)


 仮想空間の中に構築された複数の肉体、複数の目、鼻、口、耳。

 そんな人間とは異なるカタチに適合できたのは、適正があった個体の中でもごくわずかで、さらに高い知能と人間社会に適合可能な人格を有するに至った者は数えるほどしかいなかった。

 そのかわり、適合できたシビュラたちごく少数の存在は、社会を支える部品として極めて高い性能を発揮した。


(あの日、君が部屋を訪れてくれてよかったよ、アモル)


 生きた部品として製造され、部品として消費され、死んでいく人生にはうんざりだ。シビュラはアモルとの取り引きをきっかけに、シビュラのままでこの世界に転生でき、ラーニャたちのように記憶はなくともこちらに転生していたかつての仲間さえ取り戻すことができた。

 この世界は奪われるばかりだったあの世界とは違う。未知に満ち、ずっと多くの可能性に満ち、同時に脅威に満ちている。


「あのムカデたちと言い、無限に存在するだろう異なる世界のことといい、本当に世界は知らないことだらけだ」


 愉しそうなシビュラの声は、ソフィアたちに届いただろうか。


「未知に挑む工程にこそ憧憬があり、輝きがあり、価値がある。分かるだろう? かつて共に虚ろな世界を旅した私の同胞たちよ。

 ここはかつて焦がれた異世界との接点で、終わりなくアップデートが続く無限のフロンティアだ。

 未知が既知へと堕とされた時、落ちて消えた流星のごとく、終わりを迎えた花火のように、陳腐な石くれへと変わるとしても。ここならば未知はいくらでも押し寄せてくる。

 さぁ、ばかばかしい冒険劇を演じてやろうじゃないか!」


 シビュラは笑う。地獄のような光景の中、禍々しい千の暴力を振るいながら。

 シビュラは躍る。可憐な舞台の役者のように。

 こここそがGran Guignol、荒唐にして無稽な世界だ。


リクエストありがとうございました!


「不死者としもべ~」にここまでお付き合いくださった皆様、ありがとうございました!

特にリクエスト内容でしたら、SS分の画像まとめを明日掲載いたします。

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― 新着の感想 ―
[良い点] これ読みたかったやつ!!にさらにそそそっそんなにいいんですか!?ってくらい読みたかったやつが大盤振る舞いされていて最高にめっちゃいい最終回ですね……!! [一言] リクエスト権の使い道、「…
[良い点] 開けたら3話もあるのでビビりました。そしていきなりのウサギ画像にあっ?可愛い、めちゃくちゃ可愛いけどこの展開ホラーよね?絶対ホラーなやつ来るよね?ほらやっぱり来たーーってなりました。うさち…
[良い点] 大団円だ! シビュラさんが最後の最後に主人公してる 主人公力を全部持ってかれたw
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