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だ い4の冠位

「さすがはソフィア様。冠位昇格、まことにおめでとうございます!」

「アリガトウ」


 ファタ・モルガーナ城に戻ってさして時間もたっていないのに、ソフィアはヴァンパイアの冠位が上がった。今の冠位はアリストクラット。ヴァンパイアの貴族階級だ。


 城に戻ってきて以来、レベル上げに精を出してはきたが、それにしても今回の昇格は早すぎる。

 手を叩かんばかりに祝いの言葉を述べるアモルの笑顔はいつにもましてうさん臭く、”私がやりました”と背景にテロップが流れてきそうだ。

 まぁ、原因はパテッサの街で見かけたアレ(・・)だろう。まさに今飲んでいる“お祝いのヴィンテージワイン”とやらにも混ぜ込まれているに違いない。非常に美味であるのが悩ましいところだ。


(なんにせよ、冠位は上げておくべきね。どうせアモルは口で言ってもやめないんだから。どうしようもない行動をしでかした時は力づくで止めるしかないもの。そのためにも冠位は上げておかなくちゃ)


 脳筋ヴァンパイアのソフィアは、拳でオハナシするシミュレーションをいくつかしているのだが、冠位が上がった今でも、本気のアモルに勝てる気がしない。むしろアモルの強さをますます実感している状況だ。

 なんだアレ、化け物か。と最近本気で考えている。


 残念なことに折角冠位が上がってアリストクラットになったのに、戦闘能力は大して向上しなかった。肝心の日光への耐久性能も以前までのトゥルーブラッドと変わりなく、日中の能力70%ダウンはそのままだし、日光でダメージを受けるから1時間も活動すれば灰になって活動停止に追い込まれる。貴族であろうとなかろうと、ヴァンパイアという種族として平等なのだと言わんばかりだ。


(過保護悪魔のアモルと本気で戦うことなんてないんでしょうけど、いつまでもおんぶにだっこっていうのもねぇ)


 悩ましい限りだ。

 しかし、悩めるソフィアに朗報だ。なんとアリストクラットになってしまえば、お貴族様らしく自分の眷属を創ることができてしまう。


「血を与えて犠牲者をヴァンパイアにした血族と眷属って、たしか別物だったわよね?」

「そうですね。血族はヴァンパイアの血縁関係を示し、血を与えたヴァンパイアの最上位者が血族の長となります。下級のヴァンパイアでも犠牲者をヴァンパイアにすれば血族は持てます。下位者は上位者には逆らえませんが、それと忠誠心は別のもの。高位のヴァンパイアと血の契りを交わし絶対の忠誠を誓う者だけが眷属としての栄誉を得られます」


 ヴァンパイアというものは、生まれついての者を除けば、自ら“望んで”なるものだ。

 ヴァンパイアに血を捧げ、死ぬ寸前にその血を頂き受け入れることで、生者の時計は反転し死者の時間を刻み始める。


「ヴァンパイアって一番なりやすい魔族だからねぇ。若気の至りでなりたがる子もいるのよね。あと魅了も有効っていうのが我ながら卑怯だわね」


 冷静に考えれば人間を辞めてヴァンパイアになろうなんて、随分思い切った決断なのだが、若いというのは黒い歴史を産むもので“若く美しいままでいられないなら死にたい“なんて倒錯的な考えを持つ年頃も人によっては存在する。それに”望んで“という状況の中にヴァンパイアによる魅了状態も含まれる。犠牲者の元へ何回か通って魅了しながら吸血すれば、「どうぞ私を眷属にお加えください」などという、洗脳患者の一丁上がりだ。


「身の程を弁えない下級のヴァンパイアが下等な人間に血を与え、屍鬼(グール)を量産する事件は時折ありますね」

「あー、やっぱあるんだ」


 ちなみに最弱のレッサー・ヴァンパイアでもヴァンパイアは作れるけれど、その場合、問答無用で屍鬼(グール)になる。知性も記憶も残っていないし、これを血族と称するヴァンパイアはまずいない。

 次のノーマルなヴァンパイアの場合は、相手が純潔であればレッサー・ヴァンパイア、そうでなければやっぱり屍鬼(グール)。要は自分以下のヴァンパイアしか創れないわけだ。


「下級ヴァンパイアの支配力など、無いに等しいですから。そのしもべは親の前では従順に振舞ってもそばを離れた途端に好き勝手する場合がほとんどでしょう」

「それ、アモルが言っちゃう?」


 裏で何やってるか分からない代表が言うと、重みが違うなとソフィアは思う。

 実際、アモル一人でさえ動向を把握できていないのに、これ以上何するか分からない配下が増えても困ってしまう。だからソフィアは血族を作ってはこなかった。


 しかし、アリストクラットとなれば話は別だ。さすがは貴族階級というべきか、アリストクラット以上の高位ヴァンパイアの支配力はとんでもなくて、創られた血族は、もれなく自動で絶対の忠誠心を持ってしまうのだ。この忠実なしもべたちを眷属と呼んで区別している。ちなみに、支配力が多少弱くはなるがヴァンパイアにせず生きたまま血を与え、眷属に迎えることも可能だ。日中の警護を任せたい場合などは、この方法をとる場合が多い。


「アリストクラットになったんだもの、私もそろそろ眷属を持とうかしら」

 アモルはナチュラルボーンな悪魔で安定して残虐だが、その能力は折り紙付きだ。今までは甘え切っていたけれど、そろそろ自立したいところではある。


「それがよろしいかと存じます。アリストクラットになられたのです。ヴァンパイアの本領が発揮できるというもの」

 なんと、アモルも賛成してくれた。こちらは効率を重視した上での賛成だけれど、“自分がいるから”と反対されるものと思っていた。


「うんうん、そうね。ヴァンパイアって、孤高な雰囲気を漂わせてるくせに、力は数の種族だものね。やっぱり元々が人間だから、人間臭さが抜けないのかしらね!」


 弱点の多い吸血鬼が人間に狩られるリスクを冒して、弱くて言うことを聞かない下位のヴァンパイアや屍鬼(グール)なんてものをせっせと量産する理由。それはヴァンパイアという種族が、血族の魔力の一部を上納させることができる点にある。


 マルチ商法的な仕組みと言えばわかりやすい。

 人外の力を与える代わりに、子の魔力の一部が親のものとなる。子のヴァンパイアが血族、つまり孫を創っても、得た魔力の一部が上納される。血族が増えれば増えるほど自分の力が増すのだから、人間に追われるリスクを冒しても弱いうちから血族を増やそうとするのも頷ける。

 ましてソフィアはアリストクラットだ。配下を制御できるのだから、配下の暴走を抑制し、人間に反撃されるリスクを避けることもできる。ここまで待った甲斐があるというものだ。


「よ、よし。吸血する、眷属をゲットするわ……!!」

 間接的に血液や生命力を摂取してきたけれど、首筋にガブリと行くのはソフィアにとっては一大決心と言える。それでもソフィアはヴァンパイアとして生きていくために決意を固めたのだった。


 ……そう、決意を固めたのだけれども。


「はい。それでは第一の眷属となる栄誉を私に」

「え?」


 吸血の決意を固めたら、なぜかアモルがソフィアの前にひざまずき、首筋をさらしてきた。これでは自立もあったものではない。それ以前に。


「いや、アモル。悪魔でしょ。まだ無理じゃない」


 アリストクラットやトゥルーブラッドが血族にできるのは人間種だけで、人間種より強力な魔力を持つ魔族は抵抗が高すぎてヴァンパイアにできない。そもそもヴァンパイアは一度死んでヴァンパイアとして蘇った者だから、もとから不死である悪魔がヴァンパイアになれるかは分からないし、なる必要も感じられない。

 眷属ならば理論上は可能だが、できたとしても真祖と呼ばれる最上級の冠位、バンパイア・ロードになってからだ。


「ソフィア様の冠位不足など、このアモルの忠誠心にて補わせていただきますので。どうぞ、ささ、どうぞお召し上がりください。お気が変わらないうちに」


 どうぞ、どうぞと、ネクタイを引き下げ、シャツのボタンを半ばほどまで外して首筋をさらす。膝を付き見上げる姿勢になったせいで、鎖骨に繋がる筋や喉仏が強調されて、悔しいことに美味しそうだ。

 大変不本意であることに、100歩、いや1万歩ほど譲って言うならば、ちょっとセクシーでさえある。


「ばっ、馬鹿にゃこと言わないれ」


 動揺しすぎて思わず噛んだ。

 失態だ。慌ててソフィアは背筋を正す。


「……こほん。眷属は適当に使えそうな人間を探すわよ。それにアモルは私の悪魔でしょ? 今更眷属になる必要なんてないじゃない」

「ございますとも」

「何があるのよ。先に言っておくけど、ワインにアモルの血を混ぜたら飲まないからね」

「でしたら、どうぞ首筋から直飲みで!」

「直飲み言うな」

「人間はかつて“いちご狩り”や“ブドウ狩り”と言った、実りをそのまま口にする狩りを楽しんだと聞きました。そのようなものとお考えいただければ」

「いや、アモルにそんなフルーティーさ皆無でしょ!? どっちかって言うと生肉系? 百歩譲っても、乳牛の乳しぼりでそのまま口に絞り入れる感じじゃない? そういうの、なんか無理。ほら、衛生面とか」

「ソフィア様の前では常に清潔を心掛けておりますが、気になるようでしたら、イソジンで消毒を」

「イソジンあるの!? 医療行為か! いや、余計なしでしょ、変な味するし!」


 論点が、だんだんおかしくなってきた。


「とにかく! アモルを眷属にはしないから」

「なぜでございますか!? 筆頭眷属はなにとぞこの私に!」


 そして、議論は平行線だ。

 いつものことではあるのだが、たぶんアモルに遊ばれている。


 眷属を持つということは、吸血をするということで、それ自体、ソフィアにとっては一大決心だったのに、これでは当分眷属など持てそうもない。


(アモルは筆頭眷属よりも近い場所にいるでしょうに。私の自立はまだまだ遠そうね)


 ソフィアは小さくため息を吐く。

 それは自立が遠のいた落胆によるものか、それともまだ血を吸わなくていいという、安堵によるものだっただろうか。


 グラスに注がれた赤い液体は、美味だがワインの味がして、その人間としての味わいがソフィアの心を鈍らせるのだ。


たぶんよくわかるこんかいのまとめ


ソフィア「ソフィアとー」

アモル 「アモルのー」

二人  「よくわかる、ヴァンパイア講座~」

なお、本作オリジナル設定も混じってます。

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