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ダーストとKOと合計

 一方――、呪祭拝堂(ナーム)の中では、


「ひょおお……」


 今まさに、ぽっかりと大穴が開いた天井の向こう側で炸裂した、荒れ狂う九首の蛟龍の如き“極龍雷撃呪術(デスト・ラディ)”を目の当たりにしたヴァートスが、感嘆の声を漏らした。


「凄まじく派手な技じゃったのう……うだつの上がらない遣い手の方とは打って変わって」

「いや、『うだつの上がらない』って……。ヴァートス様、それはさすがに失礼じゃないか……?」


 傍らのファミィが、呆れ顔で老エルフの言い草を窘める。

 そして、再び上に顔を向け、夕焼け空の中で徐々に消えていく雷龍の残滓を見つめながら、小さく頷いた。


「でも、確かに……凄まじかったな。あんなに綺麗だったとは知らなかった。何せ、以前に魔王があの技を出した時は、途中までしか見れなかったからな」

「前の時は、途中でシュータに防がれたんだよね」


 ファミィの言葉を受けて、ジェレミィアがクスクス笑いながら続ける。


「あれは確か……メラド平原で戦った時だっけ? 珍しくシュータが慌ててたよね、あの時」

「シーッ! シュータ殿に聞こえますわよっ!」


 エラルティスが、慌てて人差し指を唇の前に立てて、ジェレミィアの言葉を遮った。

 そして、彼女たちから少し離れた瓦礫の上に腰を掛け、暇そうに小指で耳をほじっているシュータの顔をチラリと見て、潜めた声で窘める。


「あの時の事、シュータ殿は上手く誤魔化せたと思ってるんですから。もし、自分が内心クソビビってたのをわらわたちが勘付いてた事を知ったら……絶対に面倒くさくなりますから、あの見栄っ張りクソ童貞(チェリー)は」

「いや、エラリィさぁ……一応は聖女なんだから、もう少しこう何というか、言い方というか……」


 ジェレミィアは、エラルティスの歯に衣着せぬ言葉に思わず苦笑を漏らした。

 そんな三人の様子を見ながら、スウィッシュは訝しげに首を傾げる。


「……っていうか、ひょっとして貴女たち、勇者シュータの事が嫌いなの?」

「「「好きだなんていつ言った?」」」

「あっ、ゴメン……」


 ふと口から漏れた疑問に対して、即座にこれ以上無く息が合った三人の答えが返ってきた事に色々と察したスウィッシュは、思わず素直に謝った。

 と、そんな四人の掛け合いをよそに、ヴァートスが白髯を撫でつけながら小さく頷く。


「さて……ギャレの字と勇者の兄ちゃんのおかげで、ゾンビどももだいぶ減ったようじゃな。じゃあ、ここいらでゾンビを何匹斃したか確認してみるとしようかの」


 ヴァートスはそう言うと、おもむろに指を折り始めた。


「まず……聖女のお姐ちゃんが浄滅(たお)したのが一人……」

「――その後、私とスウィッシュが協力して斃したのが二体だ」


 ファミィが続いて答える。

 その答えを聞いたヴァートスが、頷きながら指を更に二本折ったのを見て、ジェレミィアが映像化困難なほどに破壊されて転がる三つの肉塊を指さした。


「シュータが瞬殺したのが三人だね」

「……うむ」


 ヴァートスは、アニメ化したらモザイク処理必至の凄惨な光景に思わず眉を顰めながら、右手の指全部と左手の親指を折る。


「これで六体……あとは」

「陛下と戦っていて……シュータが仕留めそこなった王族ダーストの無指向性雷系呪術攻撃の巻き添えで斃された、元四天王の“堅土将”マカーワホダ様と“迅鉾将”リヒート様です」


 少し複雑な表情を浮かべながら、スウィッシュが答えた。

 その答えを聞いて、ヴァートスが更に二本の指を折り、「そして――」と言いながら頭上を見上げる。


「今、ギャレの字が斃したのが一人。これで――合計九体じゃな。……って、おろ?」

「「あ……」」


 ヴァートスの言葉に、スウィッシュとファミィはハッと息を呑んだ。


「ダーストたちは合計で十二体だったはず……」

「じゃあ……」


 ふたりは、思わず顔を見合わせる。


「「……あと三体足りない……!」」

「え? あと二体じゃなくって?」

「……貴女は計算がからっきしダメなんですから、黙ってなさいな、ジェレミィア」


 エラルティスが、キョトンとした表情を浮かべるジェレミィアを呆れ声で窘めた。

 一方のファミィは、慌てて身構える。


「じゃ、じゃあ……その、残った三体のダーストはどこに……?」


 ――と、ファミィたちが警戒しながら周囲を見回した……その時、


「……二体は、己()()が破壊した」

「ッ?」


 不意に、暗い声色の男の声が上がり、それを聞いた彼女たちは驚いた表情を浮かべて振り返った。


「あ、アルトゥー! ……と」

「マッツコー……様?」

「うふふ」


 自分の姿を見て驚きの声を上げたスウィッシュの顔を見ながら、癒撥将マッツコーは愉快そうな笑い声を上げる。


「やぁねえ。そんな死体人形(ダースト)ちゃんを見るみたいな目で見ないでよん。ワタシはまだピンピンしてるわよん。ただ、ネクラちゃんに捕まっちゃったダ・ケ」


 そう言いながら、彼は自分の体をきつく縛る太縄を顎で指した。


「一応、ネクラちゃんの気配は感じてたから警戒はしてたんだけど。暴走したダーストちゃんを、ワタシの“細胞変異超過剰誘発(オーバーオール)”で壊してる隙を衝かれて、不覚を取っちゃったのよねぇん」

「お、オーバー……なんて?」


 スウィッシュは、マッツコーが口にした聞き覚えの無い単語に戸惑いの声を上げる。

 そんな彼女の反応にクスクス笑いながら、マッツコーは答えた。


「要するに、“過剰治癒(オーバードーズ)”以上に“治癒(ヒール)”を施すのよん。そうすると体内の細胞が分裂しまくるから、それを利用して、細胞分裂の段階で発生するコピーノイズ……つまり、癌細胞をどんどん増殖させまくる事で体細胞維持機能を暴走させてぶっ壊したってワケ」

「が……癌細胞を増殖……暴走……?」

「あぁ、ごめんなさいねぇ。おてんばちゃんには話が難しすぎたかもねぇん」


 頭に大きな疑問符を浮かべながら首を傾げるスウィッシュに、マッツコーは皮肉げな薄笑みを向ける。

 それに気付いたスウィッシュは、ムッとしながら口を開こうとするが、ファミィがすかさず彼女を制した。

 そして、安堵の表情を浮かべながら、マッツコーを縛り上げた太縄の端を握っているアルトゥーに声をかける。


「本当に、無事でよかった、アルトゥー……!」

「あ、あぁ……」


 心の籠もったファミィの言葉に思わず顔が緩みそうになるのを堪えながら、アルトゥーはぎこちなく頷いた。


「し、心配させてしまったようだな、ファミィ。すまない」


 彼はそう詫びながら、血が滲んだ肩口の傷を手で押さえる。


「見ていたと思うが、あの時ダーストのトドメを刺した闇奥義があと少しでもズレていたら、俺もゾンビの仲間入りをするところだった……」

「え……? や、闇奥義……?」


 アルトゥーの言葉を聞いたファミィが、キョトンとした顔をした。

 それを見たアルトゥーは、嫌な予感を感じつつファミィにおずおずと尋ねる。


「……あれ? ひょ……ひょっとして、見ていなかったのか? あの、己とダーストの激戦を……」

「あ……す、すまない……」


 アルトゥーの問いかけに、ファミィは気まずげに目を逸らした。


「じ、実は……見てなかった……」

「見てないっていうか……お主がオカマの兄ちゃんを捕まえに行った事自体を忘れておったのう」

「な……?」


 ファミィとヴァートスの答えに絶句するアルトゥー。


「……『ぶっちゃけ、存在自体をうっかり忘れてたわ、てへぺろ』――そう、創造主(さくしゃ)はおっしゃっております」


 愕然とする彼に、エラルティスが更に追い打ちをかける。


「……そーかそーか。どうせ己なんて、あんな死闘を繰り広げていても一文字も描写されないような、使い捨てのモブみたいな奴なんだな……」

「ほ、ホントにゴメン、アルトゥー!」

「そ、そういじけるでない、ネクラの兄ちゃんよ! ある意味、ちゃんとお主のキャラが立っておるという事じゃあないか! むしろ喜ぶ……のはまあ、さすがに難しいかもしれんが……」


 おもむろに膝を抱え、虚ろな目でブツブツとボヤキ始めたアルトゥーを必死で慰めるファミィとヴァートス。

 ――と、


「……って、ちょっと待って!」


 突然、指を折っていたスウィッシュが、ハッとした表情を浮かべながら叫んだ。


「計算が合わない! アルたちが斃した二体を加えても、合計で十一体しか……!」

「おや? そうじゃったか?」


 スウィッシュの声に首を傾げながら、ヴァートスはそれまでの経緯を思い返しながら数え直す。

 ――と、その時、


「……あと一匹は、ウチが“倍返し(フルフルカウンター)”で黒焦げにしてやったヤツだろ」


 離れた所でヴァートスたちのやり取りを聞いていたツカサが、そう言いながら手を挙げた。

 そして、「ほら、あそこに落っこちて――」と指さそうとしたが――、


「……あれ、無い?」


 先ほどまで黒焦げになったダーストの身体が転がっていた場所に何も無い事に気付いて、訝しげに首を傾げる。


「確かに、あそこにあったはずなんだけど……おかしいなぁ」

「えっ……」


 ツカサの声を聞いたスウィッシュが、思わず表情を変え、周囲を見回した。


「じゃ、じゃあ……ダーストがあと一体残ってるって事じゃ――」

「うわあああああああっ?」

「っ!」


 スウィッシュの声を遮るように上がった野太い悲鳴に、一同は慌てて声の上がった方向に顔を向ける。

 彼らの目に映ったのは――重度の火傷で半ば炭化した身体で、それでもじりじりと獲物ににじり寄るダーストと、そんな死体人形(ゾンビ)を横ばいになったままで見上げている禿頭の中年男の姿だった。


「い……イータツ様ッ?」


 恐怖と驚愕に満ちた轟炎将の顔を見たスウィッシュが、上ずった声で絶叫する。

 ――その後ろで、聞き耳を立てるように掌を耳に当てたエラルティスが、呆れ顔をしながら言った。


「……『あ、そういえば、アイツの存在も完全に忘れてたわぁ。いやぁ、うっかりうっかり♪』――そう、創造主(バカ)はほざいております。やれやれ……」

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