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ダーストたちと三叉鉾と土系魔術

 パァンと音を立てて、勢いよく両手を打ち合わせたギャレマスは、「雷あれ!」と高らかに叫びながら、一瞬で飛び掛かってくるダーストと自分との距離を目算で測った。

 そして、合わせた両掌を素早く離しながら右拳を握り込み、同時に力強い声で雷系呪術を詠唱する。


薄雷手甲拳撃呪術(スタ・ンガ・ン)ッ!」


 その声に応じるように、ギャレマスの右拳は一瞬で青白い稲光の膜を纏った。

 次の瞬間、彼は雷膜を纏った右拳を振るい、長い白髭を振り乱しながら自分に挑みかかってきたダーストのうちのひとり――四百年前に活躍した四天王のひとりである“迅鉾将”リヒートが鋭く繰り出した三又鉾の穂を弾き飛ばす。

 ――と、その時、もうひとりのダースト――マカーワホダが、その肥満体からは想像もつかないスピードで、リヒートの鉾に意識を向けたギャレマスの隙を衝く形で、彼の背後に回り込んだ。

 そして、石床の上に掌をつき、しわがれた声で土系魔術を発動する。


『……礫蜂弾雨魔術(カ・イン・ズホー・ム)


 マカーワホダの詠唱と同時に、彼が手をついた石床に無数の亀裂が入り、細かく砕けた。そして、噴き上がるように中空へ浮き上がると、まるで個々に意志を持つ蜂のように群れ集まりながら、ギャレマス目がけて襲いかかる。

 それにいち早く気が付いたスウィッシュが、慌てて魔王に向けて注意を促した。


「――陛下ッ! 左からっ!」

「分かっておる。案ずるな」


 だが、ギャレマスは、そんなマカーワホダの動きを読んでいる。

 彼は、自分の頭上に降りかかろうとしている無数の礫弾雨を一瞥するや、背中の黒翼を素早く展張し、上空へ向けて力強く羽搏かせた。

 次の瞬間、


 “ごおおおおぉぉぉぉっ!”


 という黒龍の唸り声もかくやという音を立てながら轟風が吹き上がり、降り落ちようとしている礫弾雨を迎え撃つ。

 ひとつひとつのにマカーワホダの理力が籠められ、貫通力を増した礫蜂弾雨魔術(カ・イン・ズホーム)の礫弾だったが、魔王ギャレマスが黒翼で巻き起こした凄まじく濃密な轟旋風の前には無力だった。

 礫弾雨は、ただのひとつも吹き荒ぶ旋風の壁を貫通する事は能わず、空中でさんざんに撹拌された後にその方向を変え、逆にマカーワホダの方に向かって襲いかかる。


『……っ』


 自分が放った攻撃を全身に受けたマカーワホダは、全身に無数の穴を開けられ、無言でその場に崩れ落ちた。

 ギャレマスは、マカーワホダが倒れる様にも目をくれず、“迅鉾将”リヒートが次々と繰り出す三又鉾を、雷を帯びた右拳一本で捌き続ける。

 そして、裏拳で三又鉾を大きく弾き上げ、それによってリヒートに隙が生じたのを見るや、すかさず空いていた左手の指をパチンと鳴らした。


真空風波呪術(バー・ルミュ・ウーダ)!」


 彼の詠唱と共に一瞬で生じた真空の刃がリヒートの首を薙ぎ払わんとする。

 だが、リヒートも元四天王のひとりだ。


『……』


 一度は崩された体勢を立て直そうとしていた彼だったが、ギャレマスが真空風波呪術(バー・ルミュ・ウーダ)を唱え、彼の手元の空気の流れが変わるのを敏感に感じ取るや、先ほどまでとは逆に、弾き飛ばされた三又鉾に追従するように、そのまま身体を大きく仰け反らせた。

 そのせいで、ギャレマスが放った真空波の刃は、リヒートの首を刈り取る事は出来ず、彼の長い顎髭を半分ほど切り落とす事しかできなかった。

 ――だが、それもギャレマスは見越している。


「――雷あれ!」


リヒートが身を大きく仰け反らせるのを見たギャレマスは、即座に両手を大きく打ち合わせた。


穿刺雷槍呪術(エ・レパ・レス)!」


 そう、彼がリヒートの体勢を崩し、更に追撃の真空風波呪術(バー・ルミュ・ウーダ)で体を仰け反らせるように仕向けたのは、リーチのある雷長槍を創り出す時間を稼ぐ為だったのだ。


「……長物に対応するには、長物を遣うのが一番だからな」


 そう独り言ちて、創り出した雷の長槍をグッと握り込んだギャレマスは、ようやく体勢を立て直したリヒートに向けて次々と鋭い刺突(つき)を繰り出した。


『……』


 リヒートも負けじと三又鉾を縦横無尽に振り巡らせ、ギャレマスの刺突を捌き、反撃を放つ。

 ――と、その時、


「……」


 それまで仰向けに倒れていたマカーワホダがムクリと起き上がった。

 痛覚を失ったダーストである彼は、全身に開いた無数の傷穴も意に介さぬ様子で、理力を込めた両掌を石床に付け、新たな土系魔術を発動する。


圧搾土饅頭魔術(ジョ・イフ・ルホンダ)

「――っ!」


 彼の詠唱と共に、ギャレマスの立っていた石床が大きく盛り上がり、その下から噴き出した大量の土砂が、彼の身体を覆い尽くすように降り積もり、巨大な土饅頭と化した。

 ギャレマスを中に封じ込めた土饅頭は、そのまま凝縮し始め、その圧力で中にいる魔王を圧し潰さんとする。


「へ……陛下ぁッ!」


 ミシミシと嫌な音を立てながらみるみる小さくなっていく土饅頭に、スウィッシュが上ずった声で叫んだ。

 と、幽鬼のような佇まいで(まあ、実際に幽鬼の類なのだが)土饅頭の前に立ったリヒートが、三叉鉾を逆手に持ち替える。


「……ヒオウギ・ゴウウノマイ」


 そう、ひび割れた声を上げたリヒートは、土饅頭ごと内部のギャレマスの身体を刺し貫かんと、逆手に持った三叉鉾に理力を込めて大きく振り上げた。

 ――と、その時、土饅頭の中からくぐもった声が上がる。


『――たかが四天王ごときの術で、魔王の身体を捕らまえる事が出来ると思うなよ』


 次の瞬間、土饅頭の表面に一筋の亀裂が走った。

 亀裂はみるみる大きくなり、幾重にも分かれ、土饅頭の表面に広がっていく。

 そして遂に限界を超えた土饅頭は、轟音と共に千々に弾け散り、四方八方に散った土塊の欠片は散弾となって、至近距離にいたふたりのダーストの身体を襲った。

 それと同時に濛々と立ち上った土煙が辺りを覆い尽くした。

 そして、その土煙の中から――、


「ご、ゴホゴホッ……! む、むう……些か派手にやり過ぎたな……へ……ヘックショインッ!」


 土饅頭の中に囚われた時に、咄嗟に黒翼で全身を覆って体が潰されるのを防ぎ、その後大きく展張し羽搏かせる事で土饅頭を内部から粉々に破壊したギャレマスが、噎せたりクシャミしたりしながら姿を現したのだった――。

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