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魔王と戦況と打開策

 「おまたせ、みんなっ!」


 巨漢のダーストを倒したジェレミィアは、ヴァートスの体を抱えたまま加速し、ギャレマスたちの元に合流した。


「ゴメン、手こずった!」

「いや! 無事で何よりだ!」


 脇腹の傷を手で押さえ、荒い息を吐きながら、それでもギャレマスはジェレミィアに労いの言葉をかける。

 そして、自分の周りで必死に戦う仲間たちを目で示しながら、手短に指示を伝える。


「……で、来た早々で悪いのだが、皆と力を合わせて、ダーストたち(こやつら)の排除に当たってくれ」

「あ、うん、分かった!」


 魔王の指示にも、嫌な顔一つせずに二つ返事で引き受けた“伝説の四勇士”ジェレミィア。

 だが――彼女は困り顔になりながら、


「……って事だから、そろそろ離れてもらっていいかな、おじーちゃん?」


 と、自分の体にしがみついている老エルフに声をかける。

 だが、彼女の言葉を聞いたヴァートスは、離れるどころか更に腰へ枯木のような細い腕を絡みつかせ、イヤイヤと首を横に振った。


「断る! せっかくの“だいなまいとぼでぃ”を合法的に触れる機会……たかがゾンビ如きのせいで終わらしとうないわ!」

「いや……そもそも全然合法じゃないセクハラ行為なんだがそれは……」


 子どものように駄々をこねるヴァートスに、思わず呆れ声を上げたギャレマスは、老エルフのズボンを留めている腰の帯を引っ張る。


「ほら、ヴァートス殿! 早く離れるのだ! でないと、色々な意味でジェレミィアの迷惑になる!」

「ええい、やめんかギャレの字!」


 ギャレマスに引っ張られてずり落ちそうになるズボンを片手で必死で押さえ、もう一方の片腕でしっかりとジェレミィアの腰をホールドしたヴァートスは、こめかみに青筋を立てながら怒声を上げた。


「先の短い老人のワガママを少しくらい聞いてもバチは当たらんぞ! ……というか、お前さんこそ何じゃい! 獣人のお姐ちゃんを逢引宿に連れ込んで朝までドッタンバッタン大騒ぎじゃとッ? 羨まけしからんぞコノヤローッ!」

「だ、だから! 誓ってそのような事はしておらぬと言うに! ……というか、その話を知っているという事は、実は結構前から目を覚ましておっただろう、御老体ッ!」


 ヴァートスの文句に慌てた声で言い返すギャレマス。

 ――と、その時、


「三人ともッ! 避けろッ!」

「「「ッ!」」」


 ファミィの鋭い絶叫を聞いた三人は、慌てて身を伏せた。

 その次の瞬間――


『風の精 三日月と成す 真の(くう) 全てを斬り裂き 命を駆らん!』


 凛とした声で紡がれた詠唱と共に、耳を劈くような甲高い音を鳴らしながら、三日月型の真空波が彼らの頭上を通り過ぎ、三人に向けて攻撃を仕掛けようとしていた老女のダーストの片腕を斬り飛ばす。


「まったく……何をしているんだ、三人とも! ふざけている場合か!」

「そうだぞ、王」


 片腕を斬り飛ばされても表情一つ変えず、なおも飛び掛かろうとした老女のダーストへ瞬時に無数の飛刀を浴びせて床に(はりつけ)たアルトゥーが、溜息を吐きながら頷いた。


「今は、下らん痴話喧嘩などしている場合では無いぞ」

「いや……痴話喧嘩では無いのだが……」


 アルトゥーの呆れ声に、身を起こしたギャレマスがおずおずと反論する。

 ファミィは、そんな彼とヴァートスを庇うように前へ立った。


「まあ、そんな事はどっちでもいい。お前とヴァートス様は、そこでおとなしくしてなさい。ふたりとも。もうほとんど理力が残っていないだろう?」

「い、いや! 余も戦う……(つう)っ!」

「……無理をするな、王」


 強がりながら立ち上がりかけたものの、その場でよろけたギャレマスの身体を支えながら、アルトゥーが声をかける。


「その傷の深さでは、どの道まともに戦えまい。ここは(おれ)たちに任せて、じっとしていろ」

「だ、だが……」


 アルトゥーの言葉を聞いても、ギャレマスの表情は晴れず、不安げに周りを囲むダーストたちの姿を見回した。


「ま、マッツコーの言葉は嘘ではなさそうだ。……あそこで土魔術を操っておる太った男の顔に見覚えがある。あやつは、余が即位する前に四天王を務めていたマカーワホダに間違いあるまい……」

「あぁ……確か、鳥魔族(バーディアン)側に寝返ろうとして、先代魔王に粛清されたという……」

「それ以外にも……あの、三節槍を操る女は……」

「五百年前の“三族鼎戦”の際の奮闘で伝説になった“嵐槍将カッツェン”か……」

「恐らく――な」


 ギャレマスは、アルトゥーの言葉に小さく頷き、もう一度周囲を一瞥する。


「その他の者も、マッツコーの言う通り、歴代の四天王と魔王なのだろう。そうなると、消耗した今の余たちでは、正直言って些か分が……」

「だからといって、今の王と御老体が戦列に加わっても、事態は好転せん」


 そう言うと、アルトゥーは、力を合わせながら必死に戦う女たちの姿を一瞥しながら立ち上がった。

 そして、少し遠くを見据えながら低い声で言う。


「だから……己は癒撥将を捕まえてくる。そして、無理やりにでも王と御老体の傷と理力を、あいつの“治癒(ヒール)”で回復させる。それが、この状況を打開する一番確実な方法だろうからな」

「アルトゥー……だが、お主ひとりでは――」


 アルトゥーの言葉に、ギャレマスは心配そうな表情を浮かべた。


「相手は四天王のマッツコーだ。あやつの能力は戦闘向きではないと言っても、それを補って余りある体術や戦闘術が――」

「己だって、四天王のひとりだぞ」


 ギャレマスの言葉を途中で遮ったアルトゥーは、口の端を少しだけ緩めてみせる。


「少しは自分の配下の事を信じる事だな、王よ」

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