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魔王と氷牙将と詰問

 「それにしても……一体、この噴火は何なんですかッ? 何が原因で――阿鼻叫喚氷晶魔術(アイ・スクリ・イーム)ッ!」


 ギャレマスに尋ねかけたスウィッシュが、ハッと目を見開くと、その腕を交差させる。次の瞬間、放出された無数の氷雪弾が、降りかかってきた砂礫を粉々に粉砕した。


颱呪風術(ウ・ルルト・サ・ララ)ッ! ――い、いや、余も良く解らぬのだが……いきなり、地面から溶岩が噴き出してきて……」


 忙しなく指を鳴らして巻き起こした竜巻で、高温の噴煙を吹き散らしながら、ギャレマスは辟易とした顔で答える。

 それ以上は言葉を交わす暇もない程に、次々と噴煙や火山灰が降りかかってきて、ふたりはその対処に忙殺された。

 そして――激しかった地面の揺れがやや収まったのを確認したスウィッシュは、安堵の溜息を吐きながら乱れた前髪を指で漉き上げると、胡乱げな表情を浮かべて呟く。


「まさか……これも、勇者シュータの所業――?」

「ううん! そうじゃないと思うよ、スーちゃん!」


 スウィッシュの言葉に対し、首を大きく横に振ったのは、ギャレマスの背中に護られていたサリアだった。


「噴火が始まったのは、勇者シュータも予想外だった感じだったから……。こんな事になったのは、あの人のせいじゃないみたい!」

「そうですか……って、そういえば!」


 サリアの答えに頷きかけたスウィッシュだったが、ハッと我に返ると、ギャレマスの背中からひょっこりと顔を出したサリアに厳しい目を向けた。


「姫様! どうして、貴女がこんな所にいらっしゃるのですかっ? てっきり、本陣の幕舎でお休みだとばっかり……」

「あ……ゴメン、スーちゃん……」


 スウィッシュの詰問を受けて、サリアは身を縮こまらせながら、小さな声で答える。


「サリア……どうしても、お父様が戦うところを近くで見たかったから……。だから、無理を言って、お父様についてきたの……」

「……って、そういえば!」


 スウィッシュは、再びその蒼眼を大きく見開くと、気まずそうに目を逸らした男を睨みつけた。


「陛下ッ!」

「あ、ひゃいッ!」


 彼女に怒鳴りつけられ、思わず声を裏返す魔王。

 そんな彼に、スウィッシュは厳しい表情で詰問する。


「陛下、お答えください! 何故、おひとりで砦へ攻め寄せたのですか?」

「あ……いや、その……」


 スウィッシュの剣幕を前に、しどろもどろになるギャレマス。

 彼はふらふらと目を泳がせながら、取り敢えず頭を下げた。


「す……すまぬ」

「あたしが聞きたいのは、謝罪の言葉じゃないんですけど」

「……も、もう二度と、お主らに黙って勝手に出撃したりはせぬ――」

「今後の改善策を聞きたい訳でも無いんですけど」

「も……もうしません……」

「ええ、そうして下さい。――でも今は、そういう決意の言葉を求めている訳でも無いんですよねぇ」

「え……えと……」


 けんもほろろなスウィッシュの返答に、返す言葉に窮するギャレマス。

 そんな彼を、険しい顔で睨みつけながら、スウィッシュは低い声で言う。


「あたしは……『何で、あたしたちに黙って、たったひとりで砦を攻めるなんて危険な真似をなさったんですか?』って訊いているんです!」

「す……スーちゃん! 違うよ! さ……サリアも一緒だっ――」

「姫様は黙ってて下さい!」

「ひゃっ……! ご、ごめんなさい……」


 父に助け舟を出そうとしたサリアだったが、こめかみに青筋を浮き立たせたスウィッシュに一喝されて、シュンとしてしまう。

 それを見たギャレマスが、慌てて声を上げた。


「い、いや! 今回の件、悪いのは全面的に余だ! サリアは悪くない。だから、責めずにいてやってくれ……」

「……らいされてないんですか?」

「……へ?」

「――あたしたち、そんなに信頼されていないんですかッ?」

「ッ……!」


 その大きな瞳を涙で潤ませながらのスウィッシュの言葉に、ギャレマスは思わず言葉に詰まった。

 そんな彼に、スウィッシュは色々なものが入り混じった視線を向けつつ、震える声で言葉を続ける。


「確かに……あたしもイータツ様も、ついこの間四天王に昇格したばかりの未熟者です。……でも、陛下のお力になりたいと思ってますし、なれる自信もあります! でも……やっぱり、陛下の目から見ると、あたしたちは足手纏いなんですか?」

「い……いや、そ、そういう事では無くてだな……」


 必死に訴えかけてくるスウィッシュを前にして、ギャレマスは返す言葉に迷った。

 本当の理由――『シュータの命令で、“台本”通りに戦いの真似事を演じなければならなかったから』を正直に答える事は出来ない。そんな事をすれば、自分の信用と魔王としての権威が地に堕ちるのは明らかだった。

 だが――だからといって、口から出まかせの嘘で言い逃れるのも躊躇われた。

 それは、彼の事を本気で案じているスウィッシュの気持ちを踏みにじるような気がしたからだ。


「ええと……その……実は……うん……いや……」


 ギャレマスは、何とか上手い答え方を見つけようと、目をグルグルと四方八方に泳がせながら、脳味噌をフル回転させる。

 ……が、スウィッシュの大きな蒼い瞳で見つめられながらだと、頭の中がぐちゃぐちゃするばかりで、一向に考えが纏まらなかった。


「そ、その……これには……ふ、深い……理由(わけ)が……」


 彼は、脳の働かせすぎで、頭と頬が熱くなり始めるのを感じながらも、とにかく言葉を紡ごうとする。

 ――と、その時、


「主上ぉぉぉぉおっ! ご無事ですかああああッ!」


 ドスドスと重たい足音と共に、割れんばかりの大音声が三人の耳朶を打った。

 思わず耳を押さえたギャレマスたちが、一斉に声のした方へ振り返る。


「い、イータツ! お主こそ無事か?」


 ある意味絶体絶命の窮地に追いやられていたギャレマスは、思わぬ天祐に少しだけ声を弾ませつつ、徒歩(かち)で近付いてくる巨漢に声をかけた。


「ハッ! もちろんにございます! この轟炎将イータツ、人間族(ヒューマー)の弱兵どもごときに遅れは取りませぬぞ!」


 主上(あるじ)の声に対し、巨大な戦斧を軽々と肩に担ぎ上げたイータツはそう答えると、


「主上の御前に侍る為ならば、たとえ火の中、水の……いや、()()()()()ですぞ、ガーッハッハッハッ!」


 と、豪快な笑い声を上げるのであった。

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