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雷王と霹靂王と第二ラウンド

 百三十二個の肉塊と化したイキビト一号――否、先々代魔王サトーシュ・ギャレマスの身体は、一瞬空中で静止した後、重力に引かれて地上へバラバラに落ちていく。

 黒翼を広げて滞空しながら、まるで紅い雹か霰のようになって降り落ちる肉塊を一瞥したギャレマスは、おもむろに下に向かって叫んだ。


「――ヴァ―トス殿! お主の精霊術で、祖父上(おおじうえ)の亡骸を()いてくれ! マッツコーが治癒(ヒール)過剰投与(オーバード―ス)をしても戻せないくらいに念入りにな!」

「お? お、おお、分かった!」


 ギャレマスの声に一瞬キョトンとしたヴァートスだったが、すぐに彼の意図を理解して、上空から降ってくる無数の肉塊に向けて両手を翳した。


『――火の精霊 (われ)が求めに 応じ給え 群れ集まりて 小さき陽と成れぃ!』


 老エルフの詠唱と共に形成された巨大な火球が直ちに放たれ、上から落ちてきた百三十二個の肉塊を呑み込み、たちまち骨も残さず灼き尽くす。


「――これで良いのか、ギャレの字ッ?」

「……ああ」


 上空から、ヴァートスの火球によってサトーシュ・ギャレマスの亡骸が余さず消滅したのを見届けたギャレマスは、血が滲む右脇腹を押さえながら、青ざめた顔で頷いた。


「それで良い……。これで祖父上(おおじうえ)の御身体は、二度と醜い死体人形(ゾンビ)とさせられずに済む……」


 やむを得ない事態だったとはいえ、己が祖父の身体を細切れにしたという罪悪感に苛まれながら、ギャレマスは沈んだ表情で呟く。

 ――と、次の瞬間、


「――っ!」


 迫り来る危険を察知したギャレマスは、咄嗟に身を翻した。

 一瞬遅れて、青白いスパーク光を迸らせる巨大な雷球が、大きく広げていた彼の黒翼の先端に命中する。


「ぐあぁっ!」


 雷球による感電で黒翼が激しく痙攣したギャレマスは、空中に留まる事が出来ずに下へと落下した。


「くぅっ……!」


 体勢を崩しながらも何とか無事に石床の上に降り立ったギャレマスだったが、その拍子に脇腹から再び血が噴き出し、苦悶の声を上げた。

 ――と、その時、


「ふふ……イキビト一号ちゃんを()()()からって、安心しちゃったのかしらん? 油断大敵よん、雷王ちゃん」

「……マッツコー!」


 左脇腹を押さえ、脂汗を額に滲ませながら、ギャレマスは声の方へ顔を向ける。

 そんな彼をせせら笑うように見下しながら、マッツコーは肩を竦めてみせた。


「まったく……よくもワタシの大切な()()()()()()を跡形も無く壊してくれたわねん。さすがに、ここまで念入りにやられたら、ワタシの治癒(ヒール)でも()す事は出来ないわねん」

「……コレクション……だと?」


 マッツコーの言い草に、ギャレマスの眉がピクリと上がる。

 そんな魔王の表情の変化にも怖じる素振りも見せず、マッツコーは不敵な薄笑みを浮かべた。

 そして、「まあ、いいわ」と言いながら、ギャレマスが手で押さえている脇腹を指さす。


「――イキビト一号ちゃんと引き換えに、“地上最強の生物”雷王ちゃんに手傷を負わせる事が出来たんですもの。安くはないけど、割に合わないって程の損でも無いわねん」

「……」


 マッツコーの不遜な言葉に、ギャレマスはグッと歯を食い縛りながら、ゆっくりと立ち上がった。

 そして、左手を振って掌にこびりついた血を振り払うと、イキビト二号とマッツコーの顔を鋭い目で睨みつける。


「……フン。これしきのかすり傷、どうという事は無い」

「うふふ……その言葉、強がりじゃなきゃいいけどねん」


 そう、ギャレマスの言葉を嗤ったマッツコーは、高々と右腕を上げた。


「じゃあ――第二ラウンド、開始よぉんッ!」


 マッツコーは、そう叫びながらおもむろに指を鳴らす。

 それに応じるように、ギャレマスとイキビト二号が同時に手を打ち合わせた。


「『雷あれ(イカズチアレ)!』」

「『ブ・ラークサン・ダー(舞烙魔雷術)』ッ!」


 ふたりの詠唱と共に、固く撚り合わされた雷がそれぞれの手元から放たれる。

 全く同じタイミングで放たれた二条の雷は、ふたりのちょうど真ん中で衝突し、発生した凄まじいプラズマ光で、呪祭拝堂(ナーム)の中は真昼よりも明るくなった。


「きゃあっ!」

「くっ!」

「うひょおおっ?」

「むぅ……ッ!」

「ひいぃぃぃっ!」


 あまりの猛烈な光の奔流に、その場に居た者たちは思わず目を覆いながら悲鳴や呻き声を上げる。

 マッツコーですら、あまりの眩しさに顔を顰めながら手庇をして、光から目を守った。


 “バチバチバチバチィッ!”


 そんな中、激突したふたつの雷撃は、まるで力比べをするようにぶつかり続ける。だが、その威力は拮抗しているのか、二つの雷撃の激突点は、最初の場所からピクリとも動いていないように見えた。

 ――が、


「ぐ……」


 真っ直ぐ正面に両手を伸ばして雷撃を放ち続けていたギャレマスの口元から、微かな呻き声が上がる。


「さ、さすがは霹靂王……。凄まじい理力の舞烙魔雷術(ブ・ラークサン・ダー)……! だが……余とて!」


 そう、感嘆と対抗心が綯い交ぜになった声を上げながら、ギャレマスは更に多くの理力を舞烙魔雷術(ブ・ラークサン・ダー)の雷撃に注ぎ込もうと力を込めた。――先ほど、イキビト一号の穿刺雷槍呪術(エ・レパ・レス)に突き貫かれた腹に。

 ……穴の開いた腹筋に力を入れればどうなるか――それは、言うまでもない。


「痛ぅっ!」


 当然のように鮮血を噴き出した脇腹の傷から伝わった激痛に、ギャレマスは顔を顰めた。

 同時に、踏ん張っていた両脚の力も抜け、大きく体勢を崩してしまう。

 ――必然、彼が放っていた舞烙魔雷術(ブ・ラークサン・ダー)の勢いも大きく削がれた。

 それを見逃す霹靂王(イキビト二号)では無い。


『……!』


 イキビト二号が、今までに倍する理力を自身の両掌に注ぎ込んだ。

 それによって、彼の放つ雷撃は更に太く固く撚り合わされ――競り合っていたギャレマスの雷撃を一気に()ち抜く。

 そして、イキビト二号の雷撃はその勢いを弱める事無く、片膝をついたギャレマス目がけて襲いかかる。


「へ……陛下ァ――ッ!」


 雷王の姿を飲み込んだ青白い雷光の奔流の中、スウィッシュの絶叫が虚しく響いた――。

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